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スリランカ:政治的混乱のなかで、人権の保護が必要

非常事態宣言が治安部隊の人権侵害を招く危険

Police use tear gas as protesters storm the compound of Prime Minister Ranil Wickremesinghe 's office, calling for his resignation after President Gotabaya Rajapaksa fled the country, Colombo, Sri Lanka, July 13, 2022.  © AP Photo/Eranga Jayawardena

(ニューヨーク)–スリランカでは、2022年7月13日に非常事態が宣言された。同宣言下でも治安部隊などの関係当局はデモ参加者の人権を尊重しなければならない、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。この数カ月間にわたって未曾有の政治的・経済的危機におちいっているスリランカでは、ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領が国外脱出。その後ラニル・ウィクラマシンハ首相が大統領代行として、全土に非常事態宣言を、首都コロンボを含む西部州には夜間外出禁止令もあわせて発出した。

政府が危機への対処に失敗したことに対する抗議行動は、大統領の脱出後も続いている。 ウィクラマシンハ首相は、デモ参加者を「ファシストの脅威」と呼び、非常事態宣言と夜間外出禁止令により公共施設のコントロールを取り戻し、「秩序を回復させる」と述べた。治安部隊などに特別な権限を与える緊急事態規制はまだ発表されていない。国際法では、緊急事態下で特定の権利には一定の制限を課すことが認められている一方で、拷問、過剰な実力行使ほか、基本的権利の侵害は決して認められない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの南アジア代表ミナクシ・ガングリーは、「非常事態規制ですべての抗議行動を禁じ、デモ参加者に対する過剰な実力行使を治安部隊に認めることがあってはならない」と述べる。「これまでのスリランカにおける非常事態を鑑みると、軍や警察が今回の宣言を悪用し、政府に抗議する活動家や市民にたいする人権侵害行為に及ぶのではないかという懸念が非常に深まっている。」

ウィクラマシンハ首相は、国防長官、陸軍・海軍・空軍の司令官および警察長官から成る委員会が「秩序回復」のために任命されたうえ、独立して行動できる広範な権限を付与されたと発表した。

軍は文民統制下でのみ行動すべきだ。すべての治安部隊が実力行使に関する基本原則を遵守し、基本的権利にそって行動する必要がある。

ラジャパクサ大統領は軍用機でモルディブへ脱出し、そこから別の目的地へ向かうとみられている。同大統領は、2009年に終結したスリランカ内戦期間中およびそれ以降にも、重大な国際犯罪に関与してきたとされている人物だ。大統領職辞任により、国内での不逮捕特権を失うことになる。他国において国際犯罪容疑で訴追される可能性もある。

デモ隊が国営放送局や首相官邸を含む複数の政府関係施設に押し寄せ、議会の外でも衝突があった際に、7月13日にコロンボ市内の複数箇所に武装した兵士が配置され、軍のヘリコプターが上空を旋回した。また、警察が抗議行動を封じ込める目的で催涙ガスを複数箇所で使用。多数の負傷者が出て、少なくとも参加者の1人が殺されている。ここ数週間、デモ隊や燃料を買うために並んでいる市民に対し、治安部隊要員が過剰な実力行使をしていた。

国際法は、国家の生存に対する重大な脅威に政府が対処するために、特定の緊急措置の発動を認める一方で、基本的権利のデロゲーション(停止)については、真に必要かつ非常事態と均衡かつ可能な限り最短期間でなければならない。国際人権法は、たとえ国家の非常事態でも、生存権や拷問を受けない権利などの特定の人権を当局が制限することを禁じている。

スリランカでは過去、基本的権利を制限する非常事態権限が発動された。スリランカ法の下では非常事態宣言により、大統領が憲法以外のいかなる法律にも優先することが認められ、逮捕や拘禁などの通常手続きや、表現・集会・結社・移動の自由を含む基本的権利を制限できる。2022年4月1日〜6日までの非常事態宣言期間には、夜間外出禁止令に従わなかったとして600人超が逮捕された

5月6日、別の非常事態宣言が出され、逮捕者を裁判官に審問させる義務が免除され、同性同士の行為に対する刑事罰が厳しくなるなどした。この宣言は14日間有効だった。

今年初めからスリランカ経済は深刻な危機状態となり、対外債務不履行に陥った。市民は燃料や医薬品をはじめとする生活必需品の極端な不足に直面している。食料価格のインフレ率は現在80パーセントと推定されており、 国連は570万人が「即時の人道支援を必要としている」と警告した

スリランカに支援・援助を行う国家や機関は、スリランカ政府当局に対し、政治的・経済的危機の解決において人権を尊重するよう、即時要請すべきだ。また、危機の一因となった政府関係者の汚職事案を捜査・訴追するよう関係当局に求め、かつ汚職から得た資産の疑いがある海外保有資産を凍結すべきだ。

国連高官らはスリランカ政府と軍に対し、デモ参加者に対する人権侵害は容認できないこと、そうなれば、国連平和維持に関するスリランカの役割の一時停止につながることを速やかに伝えるべきだ。国際通貨基金(IMF)は、緊急のニーズに対処するプログラムの実施のためには、国民にとって正当性がある安定した政府及び経済危機の根本原因への対処が不可欠であることを、ウィクラマシンハ首相と今一度確認する必要がある。

ガングリー南アジア代表は、「何カ月にもわたる平和的な抗議行動の核心部分にあるのは、深刻な経済的・政治的・人権問題である。スリランカの政治指導者らは、今回の政権移譲を、これらの問題の対処に用いるべきだ」と指摘する。 「スリランカ政府を支援する国家・国際機関は新政府に対し、汚職、不平等、過去の人権侵害に対する責任追及の欠如という根深い問題に取り組むべき、と強く働きかける必要がある。そして、そのためには、独立した民主的制度を強化すべきと求めるべきだ。」

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