(東京)新型コロナウイルス感染症(Covid-19)のパンデミックがもたらした学校閉鎖期間中、世界で人口の多い上位49カ国について、オンラインラーニング製品を推奨することで、子どもの権利に悪影響を及ぼしていたと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で明らかにした。今回の報告書は、ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査結果に前もってアクセスし、独立した共同調査を行った世界各地のメディアによる報道と同時に公開された。
今回の報告書『「わたしのプライベートをのぞき見するなんて」: 各国政府はCOVID-19パンデミック期間中のオンラインラーニングの推奨を通じて、いかに子どもの権利を侵害したか』は、49カ国の政府が推奨した164のEdTech(教育テクノロジー)製品について、ヒューマン・ライツ・ウォッチが技術面と政策面から分析した結果に基づくものだ。報告書は、2021年3月以降に子どものデータを収集、処理、または受領したことが判明している290社の調査も含むとともに、各国政府に対し、オンラインで子どもを保護するために、子どもデータの保護に特化した法律を制定するよう求めている。
「子どもたちは、対面であれオンラインであれ、学校では安全に過ごすべきだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチで子どもの権利・テクノロジーにかんする調査・アドボカシーを担当するハン・ヘジョンは述べた。「政府は、推奨するオンラインラーニング製品について、子どもとその個人データの保護を確保しなかった。これによって私企業に、授業以外の時間にも子どもたちの動向をオンラインで監視し、私生活に深く入り込むすきを与えてしまったのである。」
検証した164のEdTech製品のうち、146製品(89%)は、子どもの権利を危険にさらすか、損なうかたちでデータを取り扱っていたとみられる。こうした製品は実際に子どもたちの行動をモニタリングするか、モニタリングする能力を備えていた。そして、ほとんどの場合は子どもや保護者の知らないところで、同意を得ることもなしに、多くの製品が、その子が誰で、どこにいて、「教室」で何をしているか、家族や友人にどんな人がいて、家族にはどんなデバイスを使えるだけの資力があるかといった個人データを採取していたのである。
今回検証の対象としたオンラインラーニング・プラットフォームのほとんどに、子どもたちをバーチャルクラスルームの外やインターネット上まで長期的に追跡する技術が導入されていた。なかには、そのデバイスを壊さない限り――たとえ、子どもや親、教師が気づき、追跡を止めさせたいと考え、またそうするだけのデジタルリテラシーを持ち合わせていたとしても――、回避や除去ができないかたちで、密かに子どもをタグ付けたり、フィンガープリンティングしたりするものもあった。
ほとんどのオンライン学習プラットフォームは、広告テクノロジー(AdTech)企業に子どもたちのデータを送信したり、アクセス権を与えたりしていた。その際、一部のEdTech製品は、子どもをターゲットにした行動ターゲティング広告を配信していた。こうした企業は教育現場から採取された子どものデータを用いて、パーソナライズされたコンテンツや広告を配信するので、子どもたちはインターネット上でそれを絶えず目にすることになる。こうしたやり方は、子どものオンライン体験を歪めるだけでなく、人生で操作的干渉を受けるリスクが高い時期に、子どもの意見や基本的な考え方を左右しかねないものだ。さらに多くのEdTech製品が、行動ターゲティング広告を専門とするAdTech企業や、子どもがオンラインで目にするものをアルゴリズムによって決定する企業に対して、子どものデータを送信していた。
本報告書が評価対象としたすべての政府が、モロッコ1国を除いて、子どもの権利を危険にさらし、または損なうEdTech製品を少なくとも1つ推奨していた。ほとんどのEdTech製品は、政府への直接的な金銭的負担なしで提供されていた。EdTech製品を推奨し、広く普及させるようにしたことで、政府はオンライン教育の提供にかかっているほんとうのコストを子どもたちに負担させた。子どもたちは、プライバシー権、情報アクセス権、さらには思想の自由の権利と引き換えに、みずからの学習の費用を、それとは気づかないかたちで強制的に支払わせられていたのである。
大半の政府は、自国が急いで推奨したり、学校向けに調達したりしたEdTech製品が、子どもたちにとって安全かどうかをチェックしていなかった。その結果、インターネットと接続デバイスを利用する資力のある家庭の子どもたちでも、それらを利用するために大きな負担を強いられた子どもたちでも、COVID-19による学校閉鎖期間に、利用するよう言われたりまたは要求されたEdTech製品のプライバシーの取り扱い方に身を委ねさせられることになったのである。
多くの政府が、直接的に子どもの権利を危険にさらすか、侵害した。パンデミック時に使用するEdTech製品を自前で構築・提供し、子どもたちにオンライン教育を直接提供した42の政府のうち、39の政府が、子どもたちの個人データを危険にさらすか、その権利に悪影響を及ぼす方法で取り扱う製品を作った。また、児童生徒や教師にそのEdTech製品の使用を義務づけ、データの不当利用や搾取のリスクにさらし、子どもたちが代替手段を選んで教育を受けることで自衛することを不可能にした政府もあった。
子ども、親、教師は、こうしたデータ監視の実態をおおよそ知ることはなかった。ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査によれば、データによる監視は、子どもがそれを合理的に拒むことができないようなバーチャルクラスルームや教育環境の中で実施されていた。ほとんどのEdTech企業は、製品を利用する児童生徒がトラッキングを拒否できないようにしていた。こうしたモニタリングの大半は、子どもの知らないうちに、あるいは同意することもなくこっそりと行われていた。ほとんどの場合、パンデミック期間中に、義務教育を受けないという選択をし、正式な教育を受けることを全面的に放棄しない限り、子どもたちがこうした監視やデータ収集を明示的に拒否(オプトアウト)することはできなかったのである。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは2021年3月から8月にかけて、対象とした製品を技術面から分析し、その結果を報告書に詳しく記載した。分析は基本的に、各製品に組み込まれたトラッキング技術の出現度と頻度を、そのウィンドウ内の特定の日付で出力するやり方をとった。この出現度と頻度は、複数の要因に基づいて時間とともに変動しうる。つまり、分析を別の日に実施すると、製品の動作にばらつきが見られる可能性があるのである。
ヒューマン・ライツ・ウォッチとしては、データの分析結果や企業や政府自身の説明について報告書で記した内容を超えて、これらの行動に関与した企業の動機について明確な結論を出すことはできない。報告書が対象としたEdTech企業95社、AdTech企業196社、49カ国の政府に調査結果を伝え、回答やコメント、説明の機会を設けたところ、2022年5月24日午後0時(米国東部標準時)の時点で、EdTech企業48社、AdTech企業78社、10カ国の政府から回答があった。複数のEdTech企業は、子どものデータ収集は行っていないとした。また、自社の製品は子ども向けではないと回答した企業もあった。AdTech企業は、データが自社に送信されていることを知らなかったとしており、子どものデータを送信しないことはいずれにしても顧客の責任であるとの見解を示唆するものだ。こうした回答やコメントの内容は、有用な材料として、報告書の中身に反映され、本文などで言及されている。
ますます多くの子どもたちが、幼少期のさらに多くの時間をオンラインで過ごすようになっている。教育を受けることを可能にするオンライン空間とデジタルサービスへの子どもたちの依存は、今回のパンデミックが終わってからも長く続くだろう。政府は、子どものデータ保護にかんして、子どものデータの収集、処理、利用の保護策となる最新の法律と基準を導入、施行すべきである。企業は、子どもの権利を危険にさらしたり、損なったりするかたちで、子どものデータを収集、処理することを直ちに停止し、トラッキングによって収集、受信したデータを削除すべきである。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、グローバルキャンペーン「#StudentsNotProducts」を立ち上げた。オンラインでの子どもたちの保護を求めて、保護者や教師、子ども、協力者(アライ)たちの力を結集しようとするものである。
「子どもたちは、学ぶことと引き換えに、プライバシーをはじめとする諸権利をあきらめることを強いられるべきではない」と、前出のハン調査員は述べた。「各国政府は、最新の子どもデータ保護法を早急に成立、施行させ、子どもの利益を最優先としないアクターによる子どもの監視を阻むべきである。」
国際メディア・コンソーシアム
EdTech Exposedは、COVID-19パンデミック時に教育テクノロジーを推奨した政府によって子どもの権利が侵害された事態について、ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書、データ、技術的エビデンスに対し、事前にアクセスをした独立の共同調査である。このコンソーシアムでは、16カ国の報道機関13社から調査ジャーナリスト25人以上が参加し、数週間にわたる独自の調査報道を行った。調整にあたったのは、内部告発者を支援し、企業の不正行為や人権侵害を告発する国際的な調査報道の調整を支援する、国際的な非営利団体シグナルズ・ネットワーク(The Signals Network)である。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、このコンソーシアム設立のためにシグナルズに資金援助を行ったが、コンソーシアムはヒューマン・ライツ・ウォッチから独立しており、独立して運営されている。
参加した報道機関は次の通り。ABC(オーストラリア)、朝鮮日報(韓国)、El Mundo(スペイン)、Folha de São Paulo(ブラジル)、The Globe and Mail(カナダ)、共同通信(日本)、McClatchy/Miami Herald/Sacramento Bee/Fort Worth Star-Telegram(米国)、Mediapart(フランス)、Narasi TV(インドネシア)、OCCRP(カメルーン、ケニヤ、ナイジェリア、南アフリカ、ザンビア)、The Daily Telegraph(英国)、The Wire(インド)、The Washington Post(米国)。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、今後数週間以内に、データと技術的なエビデンスを公開し、専門家、ジャーナリスト、議員、読者に対し、調査結果と調査方法を再現し、検証し、利用するよう呼びかける予定である。