(ニューヨーク)–エチオピア北部ティグレ州の保健関連施設は破壊され、エチオピア政府は支援活動や重要なサービスを妨害しているため、性暴力サバイバーがレイプされた後に必須のケアを受けられないでいる、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。
報告書「『私はあの日を忘れない』:エチオピアのティグレ地方でジェンダー暴力のサバイバーのための支援サービスがアクセス不能」(全89ページ)は、2020年11月にエチオピアのティグレ州で武力紛争が始まって以来、6〜80歳のレイプ・サバイバーが経験した深刻な健康被害、トラウマおよびスティグマについて調査・検証したもの。エチオピア政府がティグレ州を事実上包囲している結果、日常的な適切なサバイバー支援が妨害され、かつ、崩壊した医療制度の復旧も妨害されているため、人びとがいかなる犠牲を払わされているかを明らかにしている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ女性の権利局のアドボカシーディレクターのニーシャ・バリアは、「ティグレ紛争発生以来9カ月の間に、紛争当事者たちは、医療施設を意図的に標的にし、かつ、広範囲に性暴力を犯した」と指摘する。「6月以来、エチオピア政府がティグレ州一帯を事実上包囲しているため、必要不可欠な医療及び心理社会的(メンタルヘルス)支援ができず、レイプのサバイバーたちがダブルで犠牲となる事態となっている。」
アフリカ連合、国連および国際ドナーは、エチオピア政府ならびにティグレ人民解放戦線(TPLF)を含む本紛争の全当事者に対し、人権侵害をやめて、人道支援への迅速かつ障害なきアクセスをエチオピア北部全体で容認するよう圧力をかけるべきだ。加えて、人権侵害容疑に対する国際調査を支持すべきだ。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、医療従事者および人道支援活動従事者、ドナー、性暴力のサバイバーおよび目撃者28人に聞き取り調査を実施した。またその他に、ティグレ州における性暴力の事例を43件検討し、支援組織から匿名の医療メモを入手して検証し、ティグレ州当局にも電話や書面による聞き取り調査を行った。その後、調査結果の要約と情報開示の請求をエチオピア連邦当局に宛てて送付したが、返信はない。
ティグレ紛争では、エチオピア政府軍およびエリトリア政府軍、そしてティグレ州のアムハラ系民兵が支配する地域で、多くの性暴力が行われた。具体的にはレイプ、集団レイプ、性奴隷化、拷問などが行われ、その際には、家族の殺害、暴力、品位を傷つける民族的中傷なども同時に行われることが多かった。ティグレ系戦闘員はティグレ州に逃れているエリトリア難民やアムハラ地方のアムハラ系市民に対するレイプや殺害等の人権侵害への関与が示されている。
性暴力サバイバーには、人工妊娠中絶手術や、HIVおよびB型肝炎、骨折・刺し傷・フィスチュラ(ろうこう)の治療などが必要だ。また、サバイバーたちはうつ病や不安障害、および心的外傷後ストレスへの支援も求めている。
街中心部の病院のある医師は、「ある日、エチオピア軍の兵士たちが[10代の]少女と一緒に病院にやって来ました」と話す。「診察で少女が妊娠していることがわかりました。[ティグレ州州都メケレ近くの]Gereb Giba基地の性奴隷の1人だったのです。」
その医師は少女が肝炎にかかっていたと語った。「同意を得て、人工妊娠中絶手術を行い、抗肝炎薬を投与しました。その後、薬や中絶の処置を求めて、かなりの数の女性や少女がやってきました。ほとんどがエリトリア軍とエチオピア軍の兵士にレイプされた人たちでした。」
紛争ぼっ発から9カ月の間にエチオピア政府、エリトリア政府、アムハラ民兵がティグレ州にある医療施設を略奪・破壊した。加えて、兵士の駐在する検問所が路上や医療施設の付近や内部などいたるところに存在しているため、サバイバーがとりわけ市街地外から妊娠とHIVを防ぐために重要な72時間以内に治療を受けることが困難になっている。性暴力の被害者を支援する人道支援機関のある職員は、「被害者やサバイバーの80パーセント超は72時間以内に現れなかった」と語っている。
エチオピア政府は、6月下旬に一方的な停戦を宣言したものの、ティグレ州地域を包囲し、食糧・医薬品・現金・燃料の供給を止めている。この包囲は国際人道法に違反しており、保健サービスの復旧を妨げている。
人道支援機関は国際基準を満たす対応を確立・拡大できておらず、今後、あらゆる形での拡大が必須だ。地域レベルのアウトリーチと支援の需要に対応し、女性や少女のための「安全なスペース」を設置し、レイプ・メンタルヘルス・心理社会的支援サービスの臨床管理を行い、そして、専門的なケアのニーズ等を満たす必要がある。そしてすべてのサービスは、障がい者、男性、高齢者、子ども等、すべての人が利用可能で、それぞれに特有の要件や状況を考慮に入れたものであるべきだ。そして膨大な課題を抱えつつ、ほとんど支援のないなかで痛ましい症例に対応してきた医療従事者たちにもメンタルヘルス支援が必要だ。
ティグレ州の女性と少女に対する性暴力が大規模であること、今も続く人権侵害、エチオピア政府の包囲の結果おきているサバイバーへの危害、ならびにアムハラ地方のアムハラ系市民に対するティグレ系戦闘員による性暴力などに照らすと、国連人権理事会は独立した調査委員会を設置し、人道支援活動の妨害を含む紛争関連の人権侵害を調査すべきだ。
前出のバリア政策提言担当ディレクターは、「ティグレ州で壊滅的な紛争が始まってから1年が経過したが、集団レイプや性奴隷制といった性暴力のサバイバーたちは、今も切実に医療や支援サービスを求め続けている」と指摘する。 「ティグレ州の女性や少女は恐ろしい虐待行為を経験しただけでなく、食糧や医薬品などの生活再建に必要不可欠な支援もまったく足りない状況に置かれ続けている。」