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内閣総理大臣 菅義偉殿

国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチは、日本政府がアフガニスタンの人権危機に対処するための緊急措置を講じ、特に危険にさらされているアフガニスタンの民間人保護のために動くよう、以下の通り強く要請いたします。

アフガニスタン人への国際的保護

8月31日にアメリカ軍がアフガニスタンから完全に撤退したことで、タリバンからの迫害を恐れる多くのアフガニスタン人が同国内に依然として取り残されています。自衛隊がカブールから待避させることができたアフガニスタン人の数は14人にとどまりました

現在日本政府が検討中と報道されている人道的在留ビザスキームは、日本大使館及びJICAのアフガニスタン人職員とその家族、および日本のNGOを含む日本の組織・団体で直接仕事をしていたアフガニスタン人職員を対象とし、その数は500人規模と分析されているとのことです。家族再統合のための方針や再定住のプレッジは、現在のところ発表されていません。

いかなる人道ビザスキームも、日本政府の業務に直接または間接に関わったことがあるアフガニスタン人(JICA留学生含む)、その他のかたちでも日本と関係があるとみなされる立場にあるアフガニスタン人(日本NGOのパートナー団体のアフガニスタン人スタッフ含む)はすべて対象とされるべきで、日本との関係が世間に知られている人は特に対象とされるべきです。また、こうした人びとの家族も人道ビザスキームの対象とすべきです。

日本政府や日本の組織・団体のアフガニスタン人職員支援を主目的とした500人規模のアフガニスタン人受け入れは、日本政府として画期的な方針と捉える向きもあると認識しております。しかしながら、ヒューマン・ライツ・ウォッチとして、日本政府としてのさらなる取り組みを要請いたします。具体的には、日本と過去かかわりがなかったアフガニスタン人であっても、これまでの活動や地位のためにタリバンから迫害を受ける危険性が高いアフガニスタン人とその近親者について、現在いる場所がアフガニスタン国内外にかかわらず、ビザを発給するよう強く要請します。すでに国外に出ているか、国外に出ることを目指しているアフガニスタン人は多数に上り、支援を必要としております。第三国での証明書類や支援が求められる場合もあります。とりわけ危険にさらされているのは、人権、民主主義、女性の権利、教育促進などの分野で活動してきた人びとのほか、研究者や教師、作家、ジャーナリスト、その他メディア関係者、政府など社会で目立つ立場にあった女性、外国のために働いていた人びとなどです。また、少数民族やシーア派イスラム教徒、特にハザラ民族やLGBTの人びとも大きな危険にさらされています。

日本のために働いたアフガニスタン人スタッフ保護を主目的として現在検討されている人道ビザスキームを拡大するやり方に加えて、危険にさらされているアフガニスタン人を、危機の重大性に見合った人数で支援するための緊急の移住・再定住プログラムを導入するよう、日本政府に要請いたします。これは、日本が通常行っている数十人規模の第三国定住プログラムに追加するかたちではるかに大規模に行われるべきと考えます。

私どもは日本政府に対し、カナダ、ドイツ、英国、米国等が行っているように、追加的な人道受け入れを行うよう要請します。カナダは、2万人のアフガニスタン難民の追加的受入れをプレッジしました。英国は、初年度に5,000人、またその後に追加で15,000人のアフガニスタン人の再定住受入れをプレッジしました。ドイツのゼーホーファー内相は、「特に保護に値する」アフガニスタン人には、難民申請なしで3年間の滞在許可を与えると述べています。

さらに、アフガニスタンからの庇護希望者の難民認定そして国際的保護のため、難民認定手続きをファストトラックで処理することを要請します。また、アフガニスタンで危険にさらされる可能性のあるアフガニスタン系日本人や在日アフガニスタン人の親族について、家族再統合のための日本呼び寄せのプライオリティ化も強く要請します。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、上川陽子法務大臣が8月20日、退去強制令書が出ているアフガニスタン人について、強制送還の一旦停止を発表したことを歓迎します。一時的な在留資格では更新申請等に依ることになることから、日本にいるすべてのアフガニスタン人に永住者資格取得への道を開くよう強く要請します。

アフガニスタン人の国際的保護のために、日本政府に次のことを実施するよう要請します。

  • JICAを含め日本政府の業務に直接または間接に関わったことがあるアフガニスタン人、その他のかたちでも日本と関係があるとみなされる立場にあるアフガニスタン人すべて及びその親族に人道ビザを認めること
  • 過去日本との関係がない人も含めて、アフガニスタン及び周辺国にいるアフガニスタン人に人道ビザを認め、安全な移動を可能にするとともに、アフガニスタン人に対するビザ免除措置を検討すること
  • 危機の重大性に見合った数のアフガニスタン人を、第一入国国及び通過国から日本への再定住の受け入れをプレッジすること
  • アフガニスタン人庇護希望者の難民認定を確保するため、難民認定プロセスをファストトラックで処理すること
  • 在日アフガニスタン人の親族との家族再統合を促進すること
  • 難民の再定住政策と人道ニーズについて世界的な合意に至るため、G7各国と協力して、関係国による大規模な国際会議を早急に開催すること

人道支援と民間団体支援

私たちは日本政府に対し、アフガニスタン人が現在避難中の近隣諸国への人道支援を強化し、難民受入れ国を支援するよう強く要請します。また、日本政府は、難民再定住の支援のほか、女性、子ども、国内避難民向けなども含めた人道・人権上のニーズ、教育や医療などのきわめて重要なニーズに応えて活動するアフガニスタン内外の非政府組織/NGOへの新たな支援を表明すべきです。支援や再定住に関する議論には、アフガニスタンの市民社会の参加が不可欠です。

人道支援と市民社会支援のために、日本政府に次のことを実施するよう要請します。

  • アフガニスタン人が現在避難している近隣諸国への人道支援を強化するとともに、それらの国々によるアフガニスタン人の受け入れを支援すること
  • 難民再定住を支援するアフガニスタン内外の非政府組織への新たな支援をプレッジすること

国連:報告と事実調査の強化

ヒューマン・ライツ・ウォッチは日本政府に対し、9月13日から開会予定の国連人権理事会第48回会期で、アフガニスタン全土における人権侵害や虐待行為について、アフガニスタンの全当事者を対象としたモニタリング、報告、および証拠収集をマンデートとする事実調査団または同様の国際調査メカニズムの創設を、最優先事項の1つとして積極的に支持するよう強く要請します。国連人権高等弁務官もまた「今回の危機の重大性に見合った、大胆かつ積極的な行動をとり、アフガニスタンの人権状況の推移を綿密にモニタリングするためのメカニズムを設置するよう、本理事会に要請する」と述べています。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは日本政府に対し、他の国々とともに、8月30日に採択された国連安全保障理事会決議第2593号の遵守をタリバンに求めるよう要請します。この決議は、タリバンに対し、アフガニスタンからの出国を希望する人びとの安全な通行(safe passage)を可能にすること、人道支援団体によるアフガニスタン全土への完全なアクセスを許可すること、成人女性と少女を対象とするものも含め、タリバンが負う国際人権義務を遵守することを求めるものです。

国連安全保障理事会は、9月に国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)のマンデートを更新する予定です。UNAMAのマンデートは、特に成人女性と少女、そして人権侵害の恐れが高まっているその他の集団について、人権侵害行為のモニタリングと調査の継続的実施を確実にするものでなければなりません。国連安保理はUNAMAに対し、調査結果を公けにし続けるよう指示すべきです。UNAMAは、国際刑事裁判所の検察局や、アフガニスタンでの戦争犯罪やその他の人権侵害を調査しているその他の国際機関や国内機関と情報や証拠を共有すべきです。

国連の場で、日本政府に次のことを実施するよう要請します。

  • 第48回人権理事会会期で、アフガニスタン紛争の全当事者による権利侵害と虐待に関する国際調査メカニズムの設置を支持すること

以上の問題について、貴殿及び皆様とお話する機会を賜れば幸いです。

ブラッド・アダムズ(ヒューマン・ライツ・ウォッチ・アジア局長)

土井香苗(ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表)

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