(バンコク)–カンボジア政府は、環境保護団体「マザーネイチャー・カンボジア」所属の4人の環境活動家に対する根拠のない陰謀罪および「王を侮辱した」罪をめぐる訴追を直ちに取り下げ、かつ公判前勾留下に置かれている3人を保釈すべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。
2021年6月16日、警察はプノンペンでSun Ratha氏(26歳)、Ly Chandaravuth氏(22歳)、Seth Chhivlimeng氏(25歳)、カンダル州でYim Leanghy氏(32歳)を逮捕。王宮近くのトンレサップ川に未処理の下水が流入していることを文書化したことが原因とみられている。6月20日、裁判所は、カンボジアの刑法第453条および437条に基づき、Ratha氏とLeanghy氏を「陰謀」罪および不敬罪(「王への侮辱」)で、Chandaravuth氏を「陰謀」罪で訴追した。有罪判決を受けた場合、3人には5年〜10年の刑と最高1,000万リエル(2,500米ドル)の罰金が科される。当局はまた、2015年に国外追放されたスペイン市民のアレハンドロ・ゴンザレス=ダビッドソン(「マザーネイチャー・カンボジア」の創設者)を欠席裁判で訴追。Chhivlimeng氏は訴追されず釈放された。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長代理フィル・ロバートソンは、「カンボジア政府は、環境保護を平和的に提唱している活動家を沈黙させるキャンペーンを強化した」と述べる。「外国政府、国連カントリーチームおよび国際ドナーはカンボジア当局に対し、環境活動家に対する不条理な訴追を取り下げ、平和的な運動に対する更なる取締りを公に非難すべきだ。」
内務省の報道官は、「反抗的な」団体「マザーネイチャー・カンボジア」が政府を倒そうとして海外から得た資金を使った証拠を当局がつかんだと主張しているが、その証拠を公表することはなかった。
この事案の前には「マザーネイチャー・カンボジア」の活動家5人に対する嫌がらせもあった。5月5日にプノンペン裁判所が刑法第494条と第495条のもと、3人の環境活動家Long Kunthea氏(22歳)、Phuon Keoraksmey氏(19歳)、Thun Ratha氏(29歳)に「重罪の実行および社会秩序の混乱を扇動した」罪で有罪判決を下す。裁判官は、プノンペンのBoeung Tamok湖埋め立てに反対する平和的な運動に対し、18カ月〜20カ月の刑と400万リエル(1,000米ドル)の罰金を3人に言い渡した。
3人が2020年9月に逮捕された後、公判前勾留はほぼ8カ月に及んだ。ゴンザレス=ダビッドソンと別の活動家Chea Kunthin氏も欠席裁判で有罪判決を受け、18カ月〜20カ月の刑を下されている。
新型コロナウイルス感染症パンデミック中に、カンボジア当局は平和的な抗議活動を行った若者や環境活動家に対する取り締まりを強化した。政府は明らかに反対意見を抑え、抗議運動を阻止しようとして、活動家を逮捕・訴追するために厳格な新法を適用した。
2020年3月と2021年初めに当局は、「プレイラング・コミュニティ・ネットワーク」所属の環境活動家たちと著名な環境保護論者で弁護士のOuch Leng氏を逮捕し、プレイラングの森における違法伐採および森林破壊を文書化する取組みを阻止した。
米国政府は、環境活動家への嫌がらせ等もあることから、6月17日にカンボジア政府の「プレイラング緑化」プロジェクトに対する1億米ドル超の無償資金協力を停止すると発表。その資金は、環境保護に取り組んでいる市民社会団体に提供された。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、公判待機中あるいは服役中の野党党員、若者および環境活動家、労働組合指導者、ジャーナリストなど70人近くの政治犯の事案を調査・検証した。その他、多くの活動家が庇護を求めて国外に脱出している。
刑務所内ではコロナに感染するリスクが高いため、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、暴力犯罪によるものではない公判前勾留を一時停止し、被拘禁者を条件付きで保釈するよう繰り返し当局に訴えてきた。国連人権高等弁務官事務所および市民社会団体は、これまで再三にわたって公判前勾留が常態化している実態を批判している。
ロバートソン局長代理は、「非常に政治化されたカンボジアの裁判所が意味するのは、訴追された環境活動家たちが公正な裁判を受ける機会を持てないことだ」と指摘する。「カンボジア政府に対する国際的な圧力だけが、これら活動家を不当な刑から救える可能性を持っている。」