(2020年2月13日、バンコク)— ベトナムでは、性的指向および性自認をめぐる社会通念から生じた根深い暴力や差別が、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー(LGBT)の若者に大きな影響を与えている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。

報告書「『先生は私が病気だと言った』:ベトナムで侵害されるLGBTの若者の教育を受ける権利」(全65ページ)は、同性愛は診断・治療・治癒いずれも可能な精神疾患であるという誤った通念などにより、ベトナムの家庭や学校でLGBTの若者が直面する烙印や差別を調査・検証したもの。多くの若者が、言葉による嫌がらせやいじめを経験、場合によっては身体的暴力も受けている。たいていの教師はLGBT差別に対処するための研修を受けておらず、またリソースも十分備えていない。そのためベトナム社会に浸透する「同性愛は病気」という誤った通念を教師が下支えしてしまっている状態だ。ベトナム政府はLGBTの人びとの権利を保障するとした誓約を果たすべきだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチLGBT権利局局長のグレーム・リードは「ベトナム政府は近年、LGBTの人びとの権利支持を表明してきたが、具体的な政策変更は遅々として進んでいない」と述べる。「法的保護が不十分なうえ、性的指向や性自認への誤解が社会に広がっており、とりわけLGBTの若者が弱い立場に立たされている。」

本報告書は、ベトナムのLGBTの若者52人ならびに教師などの学校職員を対象に行った詳細な聞き取り調査に基づいている。さらに、政府の既存政策および計画文書、そしてLGBTの人びとをとりまく状況の改善にむけた政府の約束を分析した。

性的指向および性自認に関する不正確な情報がベトナム社会に浸透しており、特に若者が厳しい影響を受けている。ベトナムには、差別を禁止するとともに、すべての子どもが教育を受ける権利を保障する法律が複数あるが、現行の国内カリキュラムおよび性教育政策は国際基準を満たしておらず、性的指向や性自認に関する教育を義務ともしていない。そうした授業を自ら取り入れる教師や学校は一部存在するものの、国家レベルの包括的政策が欠けているため、生徒の大半は性的指向や性自認に関する基本的な事実を学ぶ機会が持てないでいる。

「LGBTについて習ったことは一度もありません」と20歳のバイセクシャル女性トゥエンは語る。「それを普通のことなのだと思う人はほとんどいないんです。」ある学校のカウンセラーは、「子どもたちはストレートであれというプレッシャーを多く受けています。同性に惹かれることは変更および修正でき、また修正せねばならないと常に言われているのです」と指摘した。

希望が持てる動きとしては2019年、教育省が国連機関の支援を受け、LGBT包摂を目指す包括的性教育カリキュラムの指針を策定した。が、カリキュラム自体はまだまとめられていない。

今回の調査で、LGBTの生徒に対する言葉での嫌がらせは、ベトナムの学校において広く一般的であることが明らかになっている。地方や都市部、公立や私立とあらゆる種類の様々な学校の生徒が今回の調査で、生徒や教師がLGBTの人びとを指す際に侮辱的な言葉を用いるのはごく一般的であると回答。調査対象の生徒たちに直接こうした言葉がなげかけられたり、暴力の脅しが加わることもあったという。

国連機関ベトナムのグループによる研究など、その他の研究にも同様の証拠が含まれている。2014年の報告書では、国連開発計画(UNDP)が次のように述べた。 「反いじめ・反差別政策の不在により、教育機関はLGBTの生徒にとって安全な場所ではない。さらに、ベトナムにおける性・性的指向・性自認教育はまだ限定的であり、教師が避けるべき繊細なトピックとみなされている。」

それほど広く一般的とはいえないものの、身体的な暴力の被害を訴えたLGBTの若者も一部いた。調査対象だったある生徒は、「(いじめは)ほとんど言葉によるものでしたが、8年生の時に見た目が気に入らないという理由で5、6人の男子に殴られたことがあります」と話した。

言葉と身体的な虐待事案に対する学校職員の対応は一貫していない。学校でいじめを経験したと回答したLGBTの若者の大半は、事件を報告することに不安を感じたと述べている。これは一部、職員のあからさまで偏見に満ちたふるまいが原因だった。その他では、生徒が周囲の大人に助けを求めるのは安全ではないと考えている場合もあった。

言葉や身体的な虐待に直面していない場合でも、家族、仲間、教師からそれとなく、あるいははっきりと疎外されていると訴える生徒が多くいた。教師が教室で生殖可能な異性愛の関係以外は「不自然」だと言ったり、両親が家庭で暴力や勘当、治療などをちらつかせ、ゲイやレズビアンの子どもを脅したりしている。

ベトナムが国連人権理事会の理事国だった際の2016年、政府は性的指向および性自認に基づく暴力および差別からの保護に関する決議に賛成票を投じた。「その理由は、LGBTの権利に関する国内政策および国際政策の両方に変更があったから」とのことだ。日本カンボジアフィリピンなどのアジア諸国政府も最近、LGBTの若者を保護対象に含めるため関連政策を変更している。

リード局長は、「LGBTの人びとの権利を尊重するという世界的シフトにベトナム政府も同調路線を取っていることは、法律や政策を変えようという政治的意思があることの表れだといえる」と述べる。「暴力や差別から若者をまもり、偏見ではなく事実に基づいて教育を保障することこそが重要な第一歩だ。」