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「弱いものいじめはだめ」「困っている人がいたら助けてあげて」私たちはそう言い聞かされて育ってきた。読者のあなたが親なら、今も子どもにこんな声をかけているはずだ。

迫害される民から目を背けた日本政府

では、私たちを代表する日本政府はどうだろう? 日本政府が、世界でもっとも危険にさらされ迫害されている人たちから、肝心なときに目を背けていることをご存知だろうか?  

その「世界でもっとも危険にさらされ迫害されている人たち」とは、ミャンマーに住むイスラム教徒の少数民族・ロヒンギャの人たちだ。彼らはミャンマー政府から国籍をはく奪されている。  ’17年夏にミャンマー国軍はロヒンギャに対して大量殺害、性暴力、広範な放火など、筆舌に尽くしがたい残虐行為を行った。この残虐行為の結果、ミャンマーに住むロヒンギャの大半である70万人以上が隣国バングラデシュに逃れ、劣悪な環境の難民キャンプでの生活を余儀なくされている。のちに国連の事実調査団は、ミャンマー国軍のこの行為をジェノサイドおよび人道に対する罪に当たると認定した。  

国際社会はロヒンギャ保護に向けて行動を開始した。国連の総会と人権理事会がともにこの残虐行為についてミャンマー政府を強く非難し、正義を求め、国籍取得の権利を含めたロヒンギャの人権を全面的に尊重するよう求めたのだ。

国連の決議案を棄権した日本

軍事作戦開始から4か月後の‘17年12月に採択されたこの国連総会決議に日本政府はどう対応しただろうか? ロヒンギャに対する過度の軍事力の行使を止めるようミャンマー政府に求めるこの決議は130以上という圧倒的多数の国の賛成で採択されたが、日本政府は驚くべきことに棄権した。  

さらに国連は、ロヒンギャの人びとの人権を守るための行動を続ける。国連のミャンマーに関する事実調査団は昨年8月、ミャンマー政府国軍がロヒンギャに対して戦争犯罪、人道に対する罪、そしてジェノサイドを行ったと結論づける報告書を発表した。ちなみにこの調査団報告書は、ミャンマー国軍だけでなく、アラカン・ロヒンギャ救世軍、シャン州とカチン州での政府軍や少数民族武装勢力による暴力についても取り上げている。  

国連人権理事会では昨年9月、新たなミャンマー人権決議が35か国の圧倒的な賛成多数で採択され、新たな国際的メカニズムが設立された。国連事実調査団の「人道に対する罪」「ジェノサイド」の認定を受けて設置されたこのメカニズム。’11年以降にミャンマーで起きた「もっとも深刻な国際犯罪の証拠の収集、整理、保存、分析」を行い、「公正で独立した刑事手続の開始を助け促進するための事件記録を準備する」権限が与えられた。  

人権蹂躙の責任者を明らかにするメカニズム設置の決議に日本政府はどう対応したか? 悲しいことに、また棄権したのだ。ロヒンギャの人びとからは日本政府に対する大きな落胆の声が聞こえた。

なぜ日本は毎回消極的に立ちすくんでしまうのか?

そしてまた先月、国連人権理事会でミャンマー人権決議が採択されたが、またもや37か国という圧倒的多数の賛成に対し、日本は棄権にまわった。  ミャンマー政府を非難する国連決議に圧倒的多数の国が賛成しても、なぜ日本は毎回消極的に立ちすくんでしまうのか? そして、なぜ世界でもっとも危険に晒されている人びとを守ることを犠牲にしてまで、ミャンマーの政府と軍の機嫌を取ってしまうのか?  

ミャンマーの政治的・経済的パートナーという日本の立場を中国政府に奪われないためだ、と正当化する政府関係者や政治家は少なくない。たしかに日本政府は国連決議に棄権したが、中国は反対だったじゃないか……。つまり、日本は中国ほど酷くないという声まで聞こえてくる。  

日本は40年以上に渡る世界第2位の経済大国の地位を’10年、中国に奪われた。中国のこの経済力は、外交力に反映されている。公共投資や民間投資、それに世界各地の強権的政権への支援などの形で。そして日本は、この中国の外交力に対抗するため、人権侵害をものともしない強権的政権を受け入れてしまっているのだ。  

ミャンマー政府とミャンマー国軍は一貫してロヒンギャに対する残虐行為の存在を否定しており、公式の委員会を何度も設立しては同様の結論を出すということを繰り返してきた。もっとも新しい委員会は、昨年7月に設立された、ロヒンギャに対する残虐行為の調査のための(独立性に疑問のある)「独立調査委員会」だ。  

また新しい「独立調査委員会」を設立したミャンマー政府の真の意図は、昨年8月29日に明らかにされた。ゾーテイ大統領報道官が、「独立調査委員会」は「国連機関その他の国際団体による偽りの主張に対応する」ために作ったと述べたのである。「独立調査委員会」のロザリオ・マナロ議長も委員会の最初の記者会見でこう述べた。 「誰の責任も問わない、指を差したりもしないことを保証します(I assure you there will be no blaming of anybody, no finger pointing of anybody)」  

日本の外務省はこの委員会の設立を大いに歓迎した。そして、委員会のメンバーには外務省の元高官である大島賢三元国連大使までが加わった。外務省は、大島元大使は個人的に委員会に加わったのであって、日本政府は無関係だと主張してはいるが、日本政府がミャンマー政府の虚構に同調し、国際社会の動きからますます乖離していることが国際社会に明らかになっている。国際的メカニズムを設置した昨年9月の国連人権理事会決議に棄権した日本政府の心は、ミャンマー政府やその調査委員会が調査すればいい、ということだったわけだ。

アジアに広がる日本の「無価値観外交」

日本政府はかつて、人権、民主主義などの価値を重視する「価値観外交」を提唱していた。しかし、ロヒンギャ迫害をめぐる日本政府の人権軽視の外交は、「無価値観外交」と言われても仕方がない。  

しかも、この日本の「無価値観外交」が展開されているのはミャンマーだけではない。フン・セン首相による独裁強化が進むカンボジア、ドゥテルテ大統領が進める残虐な「麻薬撲滅戦争」が進められているフィリピンなど、アジアで広く展開されている。  

しかし、中国の台頭が止まらず世界的影響力が増す一方の今日、日本政府がアジアで仕掛ける「無価値観外交」は、勝ち目のないゲームであることは明らかだ。  

迫害された人たちから肝心なときに目を背ける外交、子どもたちに到底真相を語れない道徳観の欠如した外交ーしかも勝ち目のない外交ゲームーは、もうやめるべきだ。  

日本は価値観外交を再びしっかり掲げ、世界の圧倒的多数の国々と同様、残虐行為を公に非難し、ロヒンギャの人びとに法の下の正義が必要だとミャンマー政府に圧力をかけなければならない。

 

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