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カンボジア:選挙監視の禁止を取り消すべき

市民社会と自由かつ公正な選挙に新たな脅威

People search for their names on a voting list during commune elections in Phnom Penh, Cambodia, June 4, 2017. © 2017 Reuters

(バンコク)— カンボジア政府は、独立系選挙監視グループを制限する命令を取り消すべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。内務省は、不正のあった地方選挙から1カ月後の2017年7月4日、2つの選挙監視団体に対し、結社および非政府組織に関する法律(以下NGO法)に抵触した疑いで活動を停止する旨を通知した。

政府の今回の動きは、2018年の国政選挙に向けて、与党カンボジア人民党(CPP)のために、選挙監視への制限を拡大していく土台となる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長代理のフィル・ロバートソンは、「カンボジア政府は、その政治的支配へのあらゆる挑戦を封印しようとしており、いかなる目撃者も望んでいない」と指摘する。「カンボジアの援助国は政府に対して、これらの命令を取り消し、2018年の国政選挙における独立した監視を保障するよう強く求めるべきだ。」

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>> Commune Elections Not Free or Fair | June 2017 >> Systematic Problems Undermine Elections | July 2013 >> Threats, Intimidation Mar Campaign | July 2008 >> Coercion, Threats, and Vote-Buying in Cambodia’s National Elections | July 2003 >> The Run-Up to Cambodia’s 2003 National Assembly Election | June 2003 >> Cambodia’s Commune Council Elections | January 2002 >> Fair Elections Not Possible | June 1998 >> Human Rights Before and After the Elections | May 1993

7月4日の通知は、コムフレル(the Committee for Free and Fair Elections in Cambodia、COMFREL)とニクフェク(the Neutral and Impartial Committee for Free and Fair Elections in Cambodia、NICFEC)に対する制裁。これら選挙監視NGOのコンソーシアム「シチュエーションルーム」が、NGO法の義務づける「中立性を反映していない」からとしている。

この通知によりNGO法が、批評家や市民社会はもちろん、人民党支配への潜在的な脅威に対する政府の弾圧ツールとなるであろう(特に来年の選挙に向けて)ことがはっきりしてきた。

中立かつ公平、そして独立した選挙監視にむけて協力している40のカンボジア市民団体で結成された「シチュエーションルーム」は、6月24日に先の地方選挙の最終評価を発表。威嚇的な環境や、選挙資金をめぐる透明性の欠如など、重大な欠陥を明らかにした。有権者登録などの改善点にも言及する一方で、「カンボジアの選挙は、まだ完全に自由かつ公正とみなすことはできない」と結んでいる。

フン・セン首相は6月28日、この「シチュエーションルーム」の調査を要請。「内務省は、選挙監視の偽名の下になされていることに対し、速やかに措置を講じなければならない」と述べた。首相は同団体の法的立場を疑問視し、かつ野党側に片寄っていると非難している。人民党の66周年を記念した演説でフン・セン首相は、「さてどのように処罰されるだろうか?」と問うてみせた。

フン・セン首相は1985年の就任以来、30年以上にわたり権力を掌握してきた。2017年2月の演説では、来年の選挙で野党が勝利するという考えに対し、軍事力の行使に言及して威嚇した。「2018年に彼ら[野党]が勝てると予想する人間が一部にいる。もし我々が政権移行に応じなかったら、彼らは我々を潰すだろう。だが軍隊を握るのが私なのに、果たしてそんなことが起こるだろうか?」

与党人民党は長年、市民社会NGOを威嚇し、野党カンボジア救国党(CNRP)と結託していると非難してきた。今回のフン・セン首相による脅迫と内務省の禁止令も、この延長線上にある。6月4日に行われた地方選挙を前に、内務省の報道官Khieu Sopheak将軍は、政府の監視や、野党支持の疑いを理由とした捜査をちらつかせて人権諸団体を脅迫したが、のちにこれが選挙監視をやめさせるための威嚇だったと認めている。そして、カンボジア人権開発協会(ADHOC)や「シチュエーションルーム」のメンバーのような人権団体を、政治的動機に基づいて訴追することで、政府は近年、弾圧を強めてきた。

40の市民団体からなる共同選挙監視を禁ずることは、国際人権法が保障する表現および結社の自由を侵害している。

カンボジアの選挙は何十年もの間、権力を維持したい人民党による暴力と弾圧にまみれてきた。同国の選挙制度は、政治的に偏った選挙管理委員会、公平な紛争解決制度の欠如、与党に有利なキャンペーン規制、メディアへの不平等なアクセスをはじめとする構造的な問題により損なわれている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは先の地方選挙が、こうした構造的片寄りの結果、また人民党が作り出した威嚇の空気が原因で、根本的に欠陥のある選挙だったと判断している。自由で公正な選挙へのこうした障壁は、カンボジアも加盟している市民的及び政治的権利に関する国際規約の第25条に抵触している。同規約は、政治的意見によるいかなる差別もなく、すべての市民が投票する権利および機会を有し、かつ真正な定期的選挙において選挙されることを保障する。

人民党は2018年の選挙で、権力を維持するために必要なあらゆる方策を厭わない姿勢をみせている。これには各政党への支配力を増強し、野党救国党の躍進を阻止するための法改正も含まれる。7月10日にカンボジア議会は、救国党が前党首のサム・ランシー氏と断絶を余儀なくされる政党法改正案の投票を行う予定。新条項に違反すれば、5年の活動禁止または解散の可能性もある。

The Cambodian government appears intent on quashing any challenges to its political control – and obviously doesn’t want any witnesses.
Phil Robertson

Deputy Asia Director

「シチュエーションルーム」は、NGO法の第24条に違反するとされている。同法は団体に対し、あいまいに定義された「政治的中立性」を義務づけるもので、国内外から団結および表現の自由への厳しい制限だと広く批判されたものの、2015年8月に成立したという経緯がある。

フン・セン首相が未登録団体に「手錠をかける」と脅したNGO法は、団体の登録抹消または活動停止を恣意的に決定する権限を当局に認め、未登録団体による活動は犯罪だとする内容。結社の自由に対するこの制限は、国際人権法が認める許容限度をはるかに超えている。この法律は政府の省庁に、司法審査も経ずに国内外の団体を閉鎖し、新団体の設立を禁ずる決定的な権限を付与している。同法は可決以来、土地の接収問題や女性の権利問題に取り組む草の根団体を威嚇するために用いられてきた。

フン・セン首相が調査に言及して威嚇した後、「シチュエーションルーム」は、 「中立で公平なプラットフォーム」としての役割を宣言し、かつその活動が最終報告書で終了したと声明を発表した。様々なメンバーもまた、「シチュエーションルーム」が正式な組織ではなく、むしろ協力とリソース共有・管理のためのプラットフォームであるため、NGO法の登録義務に違反していないと反論している。

コムフレル(COMFREL)とニクフェク(NICFEC)への通知に加えて、内務省はNGO法にそって登録した団体に向け、活動および財務報告の義務について一般的告知を行った。これはNGOにとって負担の大きい過剰なものだ。この報告義務を履行していないため、同法に違反しているとされた団体に対しての全面的な警告や、遵守の期限を2017年9月とする内容も含まれている。

前出のロバートソン局長代理は、「NGO法がカンボジアの豊かな市民社会を窒息させてしまうかもしれないという恐れが、現実になりつつある」と指摘する。 「フン・セン首相が2018年の選挙に対する独立した監視の妨害に同法を使用している現状は、今後、カンボジアで活動する国内外の団体に、より広くこれを悪用するための醜い序章に過ぎないかもしれない。」

皆様のあたたかなご支援で、世界各地の人権を守る活動を続けることができます。

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