(ヤンゴン、2017年1月24日)ビルマ政府当局は、2016年12月24日から国軍による恣意的な拘禁を受けているカチン民族のバプテスト教会指導者2人を直ちに釈放するか、適切な形で立件・訴追すべきであると、ヒューマン・ライツ・ウォッチと人権NGO「フォルティファイ・ライツ」は述べた。シャン州北部の国軍はランジョーガムセン氏(35)とドゥムドーノーンラット氏(65)の身柄をすぐにでも警察に移送し、軍関係者による人権侵害の恐れをこれ以上生じさせないようにすべきである。
2人は国軍基地に呼び出されてから行方不明になった。この件は2人が国軍による違法な空爆を取材するジャーナリストを手伝ったことと関係がある模様だ。1月19日、国軍はFacebook上の声明で拘束と拘禁を認めた上で、2人がカチン独立軍(KIA)に様々な支援を行っていたと主張した。身柄拘束から1カ月が経った今もなお国軍は訴追を行わず、文民当局への引き渡しもせず、弁護士や家族との交通も認めていない。ビルマ国内法と国際法に違反する対応だ。
「カチン民族バプテスト教会の指導者が今回拘束されたことは、戦時下での人権侵害行為を明らかにする試みを2人が支援したことへの報復であると思われる」と、フォルティファイ・ライツのマシュー・スミス代表は述べた。「国軍は現地と国際社会の批判に遭ってからようやく拘束の事実を認めたが、2人は現在も大きなリスクにさらされている。」
国軍は声明で、カチン・バプテスト代表者会議(KBC)の若手指導者ランジョーガムセン氏と、いとこでKBC副牧師ドゥムドーノーンラット氏がカチン独立軍のために「金銭的な支援を行い、情報を提供し、人を集め、うわさを煽っている」と主張した。またドゥムドーノーンラット氏は「タッマドー(ビルマ国軍)部隊の動きに関する情報、および金銭的支援をゲリラに提供し、現地と国際社会を惑わそうと、国外メディアを通じて国軍を中傷するニュースやプロパガンダを広めた」とした。またランジョーガムセン氏については「タッマドーの情報をKIAのゲリラに提供し、新たなメンバーをリクルートし、戦闘中のゲリラ部隊が順調に移動できるように燃料を提供した」とする。
この声明はさらに2人が2008年憲法376条に基づき「取り調べを受けている」とした。この条文は裁判所の審査抜きで24時間以上の身柄拘束を認めるもので、国家安全保障にかかわる、または「公共の利益のため法に従って法と秩序、平和と平穏を確保する」ための予防措置である。国軍はさらに「被拘束者の身柄は、法の下での措置を実行するため、関連する警察署に整然と引き渡される」と述べた。しかしそうした対応はまだ取られていない。
「政府は軍による拘束というブラックボックスから2人の身柄を直ちに移送させるよう行動すべきだ。現状では人権侵害のリスクがきわめて高い。政権幹部は2人の身の安全を確保する責任がある。また弁護士と家族による交通を直ちに認めるべきだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのフィル・ロバートソン・アジア局長代理は指摘する。
2016年12月、2人はビルマ軍による空爆を取材するジャーナリストのガイド役を務めた。この攻撃では北シャン州のカトリック教会1カ所が大きく破壊されたとされる。教会の被害状況を撮影した写真は12月初めにインターネットで公開された。国軍の声明が出るまで、2人は強制失踪させられたと懸念されていたと、ヒューマン・ライツ・ウォッチとフォルティファイ・ライツは述べた。地元政府当局は2人の所在に関する度重なる問合せに回答しなかった。またゾーテー大統領報道官は国軍による拘束を否定していた。
ビルマの人権状況に関する国連特使の李亮喜氏は1月20日、人権問題について発言する人々が危険な状況にあることに懸念を表明した。そしてビルマ政府からのメッセージははっきりしていると語った。「あなたの意見を言ってはならない。あなたの生死など何とも思っていない人々の話や計画にそぐわず、あるいはそれを支持しない意見を持つか、そうした立場にあるのなら自分の考えを述べてはならない。」
ビルマ北部でのビルマ国軍とカチン独立軍との戦闘により、この数週間で2万3,000人以上が避難民化した。中国雲南省の治安部隊は1月11日、ビルマ国軍の空爆と激しい砲撃から逃れたカチン民族約4,000人をビルマ側に強制送還したと伝えられる。
「この件に関するビルマ国軍の対応を見れば、政府の対応を国際人権基準と一致させるにあたり、国軍には多大な改革の必要性があることがわかる[1]」と、前出のロバートソン局長代理は述べた。「民間人、そして紛争地帯での人権侵害の告発を助けようとする人々はかつてないほど危険な状況に置かれている。現状をすぐにでも変えるためのしっかりとした行動が求められているのである。」