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千葉県知事 森田 健作 殿

2015(平成27)年12月4日

千葉県における乳児院の新設に反対いたします

私たちは、千葉県乳児院を今後廃止するという千葉県の意向を歓迎するものの、かわりに民間乳児院施設を新設するという政策は極めて遺憾であり、中止を求めます。乳幼児の施設養育ではなく、家庭で育つことができる里親制度や養子縁組制度の普及、そしてそもそも家庭分離を防ぐための実親家庭支援こそが求められています。理由については下記のとおりです。

1.日本政府が目標としている家庭養護の推進に反する

現在、日本政府は社会的養護を必要とする子どもの約85%が乳児院や児童養護施設などの施設で生活しています。日本政府はこの状況を問題視し、家庭での養育を促進すべく、「里親委託優先の原則」を掲げる「里親委託ガイドライン」を定めるなどして、まずは里親委託率を三分の一にすることを目標として家庭養護の推進に力を入れています。こうした状況の中で新しく乳児院という施設を作るということは、国の方針に逆行することとなります。

2. 日本も批准する「子どもの権利条約」に違反する

国連・子どもの権利条約は、子どもの基本的人権として「幸福、愛情及び理解のある雰囲気」の家庭で育つ権利を保障しています。施設入所については、その子どもにとって施設収容が「必要な場合」のみ、最終手段として認められるとするに過ぎません(前文、20条)。しかし、施設養護に偏重する日本の現状は子どもの権利条約に違反することから、国連からの勧告を受けています。

 また、子どもの権利条約の解釈指針として定められ、日本政府も賛成した国連・児童の代替的養護に関する指針には、とくに三歳未満の乳幼児については極めて例外的な場合以外は家庭で養育すべきと定められています(同指針パラ22)。そして政府は、「公共施設であるか民間施設であるかを問わず、施設養護の施設の新設又は新設の許可に関する決定は」「明確な目標及び目的を持つ全体的な脱施設化方針…を十分考慮すべきで」(同指針パラ23)、そのため「利用可能な資源の最大限の人的・経済的資源を…遅滞なく最適かつ段階的に実施するための活動に充てるべき」(同指針パラ24)とされています。

 残念ながら、乳児院を新たに開設するという千葉県の決定は、「子どもの最善の利益」に反するもので、子どもの権利条約や国連指針に違反する政策と言わざるをえません。

3.乳幼児の健康に対する悪影響が懸念される

乳幼児が施設で育つことにより、脳や言語の発達の遅れや愛着の障害が出るという科学的エビデンスも積み重ねられています。1950年代にボウルビが世界保健機関(WHO)の報告書において、施設で育つ乳幼児の発達への悪影響を報告して以来、世界の様々な国で乳幼児が施設で集団養育されることで受けるダメージが科学的に実証されています。チャウシェスクの子ども達といわれるルーマニアの施設の研究では、施設で育った子どもと家庭で育った子どもを比較して、施設の子は脳や言語の発達が遅れることがわかっていますし、イギリスやギリシャのような先進国で養育の質の高い施設でも、愛着の問題が子どもに長期的に影響するとの結果が出ています。このような研究を背景として、「国連子どもの代替養育に関するガイドライン」では原則として三才未満の子どもは家庭で養育されるべきであると定めています。

現実にイギリス、アメリカ、ドイツなど多くの先進国では乳幼児が施設で育つことはありません。また、ルーマニアのように3歳未満の子どもが施設で育つことを法律で禁止している国もあります。日本の乳幼児についても、専門的な里親の養成や養子縁組などへの取り組みを進めることで、家庭で育つ方向へ向かうべきです。

4.施設の建設および運営は、里親などの家庭養護に比べて膨大なコストがかかる

定員20人の乳児院(民間)の運営には年間約1億2,000万円、定員30人の乳児院(公立)は年間約2億5,000万かかるとされており、財政的にも大きな負担となります。施設を建設せず、養子縁組や里親委託を増やすことで対応すればこの経費ははるかに安く済みます。たとえば静岡市では里親のリクルート、研修、マッチング、フォローアップをする里親支援機関に対して年間1500万円の支援を行うことで、里親委託率43%を達成しています。

  もしも乳児院の新設をやめていただけるのであれば、私たちは千葉県での乳幼児が家庭にもどるための実親のカウンセリングや支援、そして乳幼児を受け入れてくれる里親や養親のリクルート、研修、フォローアップのすべてに全力をつくして協力させていただきます。

何よりも重要なことは、赤ちゃんや小さな子どもが家庭で愛情深く育てられることが、子どもにとって最もよい結果をもたらすという事実です。深刻な少子化に悩む日本にとって、生まれてくる赤ちゃんはもっともすばらしい宝物です。私たち大人には、生まれてくるすべての赤ちゃんに最良の選択肢を準備する義務があるのではないでしょうか。そしてそれは、産んでも育てられないかもと悩むお母さんへの支援であり、生みの親がどうしても育てられない時にはわが子として愛情をそそいで育てる養親または里親です。

 以上の理由より、乳児院の新設を中止するようお願いいたします。そして、現在乳児院で暮らす子どもたちも含めすべての乳幼児たちが、パーマネンシー理念に基づく家庭環境で養育される脱乳児院施策を推進されたくここに要望いたします。

添付資料:

  • 厚生労働省平成23年7月27日付「妊娠期からの妊娠・出産・子育て等に係る相談体制等の整備について」[1]
  • 厚生労働省平成23年3月30日付「里親委託ガイドライン」[2]
  • 新生児等の新規措置の措置先(都道府県別)(平成25年度)[3]
 

[1] http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/dv110805-2.pdf

[2] http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000018h6g-att/2r98520000018hlp.pdf

[3] http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000100660.pdf

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