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ビルマ:宗派間の緊張をかきたてうる差別立法

新法はムスリムら宗教的少数者を標的に

(バンコク)ビルマのテインセイン大統領は基本的人権を侵害する2法案への署名を拒むべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。2015年8月21日、上下両院合同議会で改宗法と単婚法が通過した。この2法案は4法案からなる通称「民族・宗教」法案の一部だ。一連の法案は宗教に基づく差別を確立し、国際的に保護されているプライバシーと信教に関する権利を侵害するものである。

「この2法案を通過させることで、国会は基本的人権を無視し、緊張状態にある国内の宗派間関係を煽る危険を冒している。他方で、画期的な総選挙を前に、既にもろさを露呈している民主化移行プロセスを危機にさらしてもいる」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理フィル・ロバートソンは指摘した。「一連の差別立法は反ムスリム感情を煽るものだ。テインセイン大統領は強固なリーダーシップを発揮して人権を擁護し、法案署名を拒否すべきだ。」

この4法案は、5月に成立した人口調整法と、7月に国会を通過したが、政府筋によれば大統領署名がまだ行われていない宗派間婚姻法を含め、すべて民族宗教保護協会(通称「マバタ」)が強力な推進役である。この仏教僧侶からなる全国組織は、しばしばムスリムに敵対し極度に民族主義的な政策を後押ししている。2013年後半に4法案の制定をテインセイン政権に初めて求めたのはマバタだった。

改宗法は聖職者と改宗の国家管理とともに、良心と信教の自由の権利に対する国家の不当な干渉を可能にするものだ。同法が成立すると、郡区には改宗審査登録委員会が設置される。委員は地元当局者5人と郡区長が指名する地元代表者2人が務める。

改宗希望者は18歳以上でなければならず、さらに改宗理由などを記入した申請書を地元の委員会に提出しなければならない。申請者は最低5人の委員による面接の後、90日間の学習期間を通して「宗教の本質、当該宗教の婚姻、離婚、財産分与のあり方、および当該宗教の相続と親権のあり方」を検討することになる。委員会が改宗を承認すると、申請者には改宗証明書が発給される。

多くの地域委員会で委員の大半がビルマ民族仏教徒当局者となり、仏教から他宗教への改宗に反対するバイアスがかかりかねないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。改宗には証明書の発給が必要だ。新たに信仰する宗教の規則と慣習に沿った婚姻、相続、財産分与もこれで可能となる。地域委員会は当該人物について収集したすべての情報を、宗教や出入国管理、国民管理を管轄する中央省庁に転送する。これは個人のプライバシー権の侵害だ。

さらに同法は「宗教を侮辱、軽視、破壊、侵害する」意図での改宗を禁じるとともに、他人をいじめたり、勧誘したりして改宗させることや、改宗を思いとどまらせることを禁じている。同法に違反すると、内容により6ヶ月から2年の禁固刑となる。

この法律は「すべて人は、思想、良心及び宗教の自由に対する権利を有する」とうたう世界人権宣言第18条に正面から矛盾する。また信教の自由を保障した2008年憲法とも相容れない。

「地域の当局者に個人的な信仰をきわめて細かく統制させることは、信教の自由の抑圧につながる」と、前出のロバートソン局長代理は述べた。「法案起草者は仏教保護に熱中なあまり、キリスト教徒やヒンドゥー教徒、また特に迫害を受けているムスリムなど宗教的少数者を危機にさらしている。」

単婚法も、一連の「民族・宗教法」の他3法案と結びつき問題を生み出していると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。この法律は国内の全ビルマ国民と在外ビルマ国民を対象とするだけでなく、ビルマに住みながらビルマ国民と結婚している外国籍者にも適用される。同法は既婚者が2つ目の婚姻を結ぶこと、または婚姻を続けながら「非公式に」配偶者以外と同居することを禁じている。同法が定める罰則には、単婚法違反となった配偶者が離婚時に財産権を喪失するなどの規定がある。また刑事罰として、ビルマ刑法494条に基づき7年以下の禁固刑と罰金を課すとも定めている。

婚姻法には、仏教に比べて複婚(一夫多妻婚)や婚外交渉が起こりやすいと考えられている宗教的少数者を狙いうつ意図がある。複婚の非合法化は国際法が保護する婚姻の権利と矛盾しないが、複婚への法的制裁はすでに刑法に規定があり、婚姻法のこの部分は余分だと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。他方で、婚姻の有無にかかわらず大人同士が合意に基づいて結ぶ性関係を犯罪化する法的規定は、世界人権宣言第12条に示されたプライバシー権の侵害だ。さらに、同意に基づく性交渉を犯罪化する法律は女性への影響がより大きくなる。たとえば、レイプ被害者は、加害者への有罪判刑を得られなければ不貞行為で訴追されかねない場合、被害届を出しにくくなるだろう。

女性差別的な法律の撤廃に向けたグッドプラクティスの同定に取り組む、国連の法と実践における女子差別に関する作業部会は2012年に、不貞行為が刑法上の犯罪とされるべきではないとし、犯罪化は女性に不利な影響を与えていると表明した。

ビルマ国内の独立系団体の多くがこの4法案を厳しく批判している。一連の法案を施行すれば、宗教間の緊張状態を悪化させ、女性と宗教的少数者の権利を脅かすことになりかねないとの声明もいくつか発表された。

国際社会は、一連の法案が国際人権条約の尊重というビルマ政府の公約に背くものであると警告している。EUは1月と7月に婚姻法批判声明を出したほか、ミャンマーの人権状況に関する特別報告者の李亮喜(イ・ヤンヒ)氏も、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約や子どもの権利条約など、ビルマが負う国際人権条約の義務に背くものだと警告している。法案反対派はマバタ幹部からの攻撃にさらされており、暴力的な脅迫を受けたり「裏切り者」呼ばわりされるビルマの民間団体の指導者もいる。

「11月総選挙を前に、ビルマの国会は人権基準を満たさない法案を不透明なやり方で成立させようとしている。国会議員たちは真剣に民主主義と人権尊重に取り組んでいるのか、疑わざるをえない」と、ロバートソン局長代理は述べた。「ビルマの主要なドナー国である日本、EU、イギリス、アメリカは一連の法案をはっきり批判し、即時廃案を求めるべきだ。」

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