International Olympic Committee (IOC) President Thomas Bach gestures during a news conference in Lausanne July on 9, 2014.

© 2014 Reuters

(ニューヨーク)国際オリンピック委員会(IOC)は、今後の五輪開催都市との契約に差別禁止義務を含めると発表した。これは世界各地のスポーツの分野で人権尊重が広がる大きな一歩だと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。今回の改革は、2014年12月にモナコで開かれる「オリンピック・アジェンダ2020」会合に向けて、ヒューマン・ライツ・ウォッチが他の人権団体とともに提言した制度改革の1つだ。

IOCの動きは、ソチ冬季五輪前に、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)への暴力と嫌悪を助長する差別的な法律を成立させたロシア政府への批判という面も大きいと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。公立学校で女性のスポーツ参加を禁じるサウジアラビア政府など、スポーツ分野で女性を差別する国々への警告でもある。 

ヒューマン・ライツ・ウォッチのグローバル・イニシアチブ部長ミンキー・ワーデンは「一部の国は巨大スポーツイベントの美名の下、自国の劣悪な人権状況を隠蔽しようとしている。開催都市契約に差別禁止条項が追加されることは、様々な良い影響を及ぼすだろう」と指摘。「しかしもちろん、オリンピック憲章が求める『人間の尊厳が完全に尊重される』が今後の開催都市で実現されるためには、まだ多くのステップが必要だ。今回はその第一歩にすぎない。」

IOCは、差別禁止条項を開催都市契約の前文のセクションLに追加することを確認しており、2022年冬季五輪開催都市の最終選考に残った3都市(カザフスタンのアルマトゥイ、中国の北京、ノルウェーのオスロ)の各委員会にもこのことを通知している。 

五輪以外の競技大会についても、アジア競技大会のほか、国際サッカー連盟(FIFA)が運営するサッカー・ワールドカップなど、国際的な巨大スポーツイベントの主宰組織は、開催都市契約に差別禁止条項を直ちに追加する方向に動くべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

IOCは、2022年冬季五輪立候補都市宛の書簡で「オリンピック憲章の第6基本原則の表現を用いて、あらゆる形態の差別の禁止について明示的な言及が行われる」と明言した。この措置は、ヒューマン・ライツ・ウォッチなど人権団体が連名で2014年2月にIOCのトーマス・バッハ代表に提出した一連の主要提言のひとつに沿ったものだ。

2008年の北京夏季五輪と2014年のソチ冬季五輪の開催前または期間中に、オリンピックの価値を損なう深刻な人権侵害が起きていることを、ヒューマン・ライツ・ウォッチは明らかにしてきた。大会会場の建設現場や大会準備作業での出稼ぎ労働者への人権侵害、報道の自由の侵害、独立した団体の活動の実質的禁止などだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査はまた、サウジアラビアが女性スポーツ選手をいまだ差別していることも指摘した。これはオリンピック憲章に反するものだ。

「今回導入される差別禁止条項は、成人・未成年問わずすべての女性のスポーツ参加を阻む障壁を崩す助けになる」と、前出のワーデン部長は指摘。「この動きをきっかけに、五輪開催都市にとどまらず、すべての国が、すべての女性と少女に、スポーツの練習、施設、団体に関して男性と同等のアクセスを保証するようになることが必要だ。」

とくにサウジアラビアは、女性のスポーツ参加の実質的禁止措置を撤廃すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。2012年のロンドン五輪にはサウジアラビア人女性2人が参加した。しかしサウジ国内には、女性が利用できる国立スポーツ施設はない。専用施設、スポーツクラブ、運動場、専門のトレーナー、審判などはすべて男性限定だ。サウジアラビア政府は世界で唯一、未成年女子が公立学校でスポーツをすることを禁じている。こうした障壁があるため、女性が国際大会出場に向けて練習することはほぼ不可能だ。

今月も同国で女性差別が続いていることを示す出来事があった。サウジアラビアはアジア大会に女性選手を1人も参加させなかった。サウジ選手団は199人全員が男性。「技術面で女性を入れる準備が整っていなかった」とのことだ。  

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2009年、コペンハーゲン・オリンピック会議に正式な提案を行い、「人権問題に関するIOC常任委員会、または開催国の人権状況をモニタリングする類似のメカニズムの設置」を提言した。2014年4月、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2014年12月にモナコで開かれる「オリンピック・アジェンダ2020」のIOCセッション向けに、内容を広げた提案を行った。提案書では、今後の開催都市契約については内容を明らかにし、報道の自由と労働者の権利について専用の人権基準を含めるなどを提言した。

「差別禁止に向けた今回の改革にはようやくの感がある。FIFAなど国際スポーツ大会の運営者はIOCの決定に続くべきだ」と、ワーデン部長は述べる。「今後オリンピック開催を目指す国へのメッセージは明らかだ。まっとうな人権状況が必須、ということである。」