(ベルリン)-ウクライナ関係当局は、自宅からの避難を余儀なくされている何万人もの人びとに十分な保護・救援措置をとらないでいる、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日、ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領に宛てた書簡内で述べた。ロシアによるクリミア併合および同国東部に広がる武力紛争が原因で、現在多くの人びとが脱出をはかっている。
近ごろのウクライナ政府は、国内避難民となった人びとを救援する措置をいくつかとっている。が、定住可能な住居や公共サービスといった支援の試みは、速やかに強化されるべきだ。また、争いが続く地域の一般市民に避難支援情報も提供すべきだろう。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの欧州・中央アジア調査員ユリア・ゴルブノワは、「ウクライナ政府がここ最近、複数の重大危機対応に追われているのは確かだ」と述べる。「しかし、避難を余儀なくされている人びとの数は増え続けており、救援措置の緊急性も高まる一方である。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは9日間にわたり、キエフ、ビーンヌィツャ、ハルキウ、リビウ州の国内避難民に聞き取り調査を行った。また、地方政府関係者やボランティアの人びと、支援活動に携わる複数の独立系団体や国際機関にも話を聞いた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査に応じた国内避難民の大半は、紛争地域から脱出する際に政府からの支援はわずかか全くなかったと語る。同様に住居や食糧、衣服ほか日用必需品および公共サービスを得ようとした時にも、支援は皆無に等しかったという。また大半の人びとが、政府のどの機関に救援を求めるべきかの情報を全く受け取っていないと証言。ウクライナ東部で続く戦闘からは逃れたものの、当該地域にとどまっている人びとは、救急医療サービスや医薬品・医療消耗品の不足から、受診が難しくなっていると報告している。
2014年3月初め、政府は避難民のニーズに応えるための仕組み設置を命ずる政令を発した。が、この指令はまだ現場の状況改善には繋がっていない。避難民救援を担当する地方関係当局は、ボランティア団体やNGOに重荷を転嫁するばかりで、現地の救援活動に携わるボランティア団体は人びとのニーズに応えきれないでいるのが現状だ。
国連難民高等弁務官事務所によると、ウクライナでは今年3月以来8万7,500人超が国内避難民化しており、うち1万3,000人超がクリミア出身という。しかしすべての避難民が関係当局に登録しているわけではないことから、実数はこれをはるかに上回るだけでなく日々増加していると、避難民と活動する複数のボランティアおよび独立系団体はみている。たとえば在キエフおよびリビウのボランティア団体は、これらの都市に毎日100人単位の避難民が到着しているとしており、その大半は特に親ロ派武装勢力の支配地域であるウクライナ東部のドネツクおよびルハーンシク州出身者である。
在キエフおよびリビウの複数のボランティア団体と避難民自身がヒューマン・ライツ・ウォッチに語ったところによると、地元行政当局が設置した避難民登録サービスは、しばしば避難民をボランティア団体に委託。その際に避難民には、住居ほかのニーズに応える資金の不足あるいは政府高官による明確な指示の不在のため、と説明しているという。
ポロシェンコ大統領は中央政府による実質的な避難民登録制度を確立すべきだ。そして、各地域の避難民に住居と公共支援を提供する試みを統括する中央機関を、その活動に十分なリソースと共に設置することを保障すべきだ。
ウクライナ議会は状況に起因する差別から避難民を保護し、新たに生じる住民登録を簡素化するための法案を採択すべきだ。住民登録は、年金や障がい・児童・失業手当などを受給するのに即時必要な前提条件であるためだ。
前出のゴルブノワ調査員は、「ボランティアの人びとは、ウクライナの国内避難民に医薬品や食糧、住居を供給せんと最善を尽くしている。しかし、その力とリソースは永遠に続くものではない」と指摘する。「多数の人びとがウクライナ中央および西部に押し寄せている今、状況が悪化する前に避難民救援の措置を速やかにとることが、中央政府に求められている。」