インド北部ウッタル・プラデシュ州のバダウンで10代の少女2人が強かん・殺害された。この事件は大きな話題となり、容疑者3人が逮捕されて犯行を自供したと警察は伝えている。一方で西部マハラシュトラ州では、慈善団体の主催者が、運営する学校の寄宿生5人に性的虐待を行ったとして逮捕された。ウッタル・プラデシュ州エタワ県では、強かんのサバイバーの母親が訴えを取り下げることを拒んだことで強かん犯に暴行されている。
インドでの最近の性暴力事件のインパクトにより、インド人民党の国政選挙での大勝により5月26日に発足したナレンドラ・モディ政権発足のニュースはすぐに霞んでしまった。しかしモディ首相は議会で過半数を占める与党の力を使えば、こうした陰惨な事件に対処し、再びメディアの注目を集めることもできるだろう。
バダウンでの事件が明らかにしたように難問が山積している。14~15歳と見られる少女2人が強かん後に殺され、マンゴーの木から吊り下げられているところを発見された。2人は被差別カーストであるダリット(不可触民)に属していた。インドにはカースト差別の撤廃を目指し、ダリットや指定部族を保護する法律や政策が多数存在する。子どもの性的虐待防止法が新設され、強かん罪は最近改正された。にもかかわらずバダウンの地元警察は家族が助けを求めた当初、まともな対応を取らなかった。
警察が真剣に犯罪捜査を行わない事態は、被害者がマイノリティか女性か子どもであるかにかかわらず、インド国内では頻繁に起きている。「男たちのうち2人が私を押さえつけました」と、強かんの被害をうけた少女(14)は2013年1月にヒューマン・ライツ・ウォッチに述べた。「かれらは顔を隠していました。向こうは馬乗りになって、私の服を破きました。なんとか1人の顔を見ることができました。でも誰も私の話を信じてくれません。
モディ首相は選挙戦で実行力を売りにした。ならば指導力を発揮し、警察と刑事司法制度に対して性暴力事件にしっかり対応するよう強く働きかけるべきだ。性暴力のサバイバーは恐怖心のあまり警察に行けないことが圧倒的だ。本来必要な支援はおろか同情すらされず、二次被害に遭うことを怖れている。
モディ首相はインド政治でいろいろ物議をかもした人物だ。2002年のグジャラート州での宗教暴動では職務怠慢だけでなく暴力の共謀の容疑を掛けられたこともある。当時モディ首相はグジャラート州知事だった。こうしたモディ首相の過去ゆえに、彼が首相として人権状況を改善できるか、多くのひとはかなり懐疑的だ。しかし選挙戦でモディ首相は「良い統治(グッドガバナンス)」を行うと強調していた。人権保護は良い統治には欠かせない。インドにいままさに必要なことだ。
多数の有権者が新首相に託したのは、景気回復・雇用創出・貧困対策・世界政治におけるインドの地位の回復だった。モディ首相の課題の一つは、多くの優れた国内政策を実施することだ。いまだカーストや民族、宗教で分裂するインド社会で人権尊重を促し、法の支配の尊重とアカウンタビリティの実現を確保するべきだ。その一歩として、強かんを放置してきた政府の態度を改める一方で、このような憎むべき犯罪を行った者だけでなく、取締りの担当でありながら職務を怠った者に対しても、責任を追及すべきではなかろうか。