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タイ:反政府勢力は 一般市民への攻撃 止めよ

武装勢力はテロ攻撃を止めるべき 一方、政府の外出禁止令は事態悪化を招く

(ニューヨーク)-タイ南部国境諸県の分離独立派反政府勢力は、一般市民を殺害する攻撃を直ちに止めるべきだ。

反政府勢力は2013年2月だけでも、戦争犯罪に該当する一般市民への意図的攻撃を何度も敢行。2月10日にはパッタニー(Pattani)県ノン・ジク(Nong Jik)郡のタイ族仏教徒村民に突撃銃を発砲、4歳の少女を含む4人を負傷させ、2月5日にはヤラー県のクロン・ペナン(Krong Penang)郡で、タイ族仏教徒の果物販売業者4人がいた小屋を襲撃、4人を縛り上げ、突撃銃と拳銃で至近距離から頭部と体を撃って殺害した。更に2月1日にもパッタニー県ヤリン(Yaring)郡で、タイ族仏教徒のコメ栽培農民グループを攻撃、2人を殺害し、10人に重傷を負わせている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長ブラッド・アダムスは、「一般市民を突撃銃で至近距離から射殺する行為を、正当化することなど全くできない」と指摘。「教師や一般市民住民に対する反政府勢力による暴力とテロの展開はいずれも、国際法に違反するとともに、反政府勢力は自らの大義も損なっている。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは最近の人権侵害について懸念を深めている。反政府勢力は2月13日にナラティワート(Narathiwat)県のタイ軍基地を攻撃して失敗、反政府勢力指揮官マローゾ・チャントラワディー(Maroso Chantrawadee)など民兵15人が死亡する事態となった。そして、この犠牲に対する報復として、タイ族仏教徒教師などの一般市民に報復すると文書で脅迫。2月14日にナラティワート(Narathiwat)県バーコ(Bacho)郡で発見されたチラシには「我々の犠牲にあらゆる手段で報復する。…今から、我々はタイ族仏教徒教師とタイ族仏教徒住民を攻撃し殺害する。我々はタイ族仏教徒コミュニティーを攻撃する。…イスラム教徒1人の命は、タイ族仏教徒10人の命で償われなければならない」と書かれている。

反政府勢力は昨年12月以降、パッタニー県とナラティワート県の政府が運営する学校の教師3人を、生徒の目の前で殺害。こうした反政府勢力の攻撃に対応するためとして、タイのチャラーム・ユーバムルン副首相は反政府勢力が活動するすべての地域で、外出禁止令を施行することを提案した。確かにタイ南部の治安状況は極めて深刻であるが、広範囲な外出禁止令は政府治安部隊による人権侵害を助長する環境を作る危険性がある。2005年以降南部国境諸県で施行されている戒厳令や緊急事態令などの現行法は、反政府勢力取締活動を政府が十分にコントロールできない状況をもたらすとともに、人権侵害の被害者に対し法的な救済手段を十分に提供できない原因ともなっている。

前出のアダムス局長は、「政府による外出禁止令は極めて限定的であるべきであり、人権侵害を予防する具体的なセーフガードを備えていなければならない」と指摘。「移動の自由を広範囲かつ無期限に制約すれば、現地の状況を悪化させ、イスラム教徒住民を更に阻害する危険がある。」

2004年以降パッタニー、ヤラー、ナラティワートのタイ南部各県では、一般市民が標的とされる武力衝突が頻繁に発生。5千人以上の死亡者のうち約90%が一般市民であり、タイ族仏教徒とマレー族イスラム教双方とも犠牲となっている。

BRN-Coordinate(民族革命戦線コーディネート)の緩やかなネットワークに属する反政府勢力パッタニー自由戦士(ペジュアン・ケメルデカーン・パッタニー、Pejuang Kemerdekaan Patani)は、マレー民族主義とイスラム教主義を結合した考え方を指導原則とし、タイ南部国境諸県をタイ族仏教徒から解放し、パッタニー・ダルサラーム(イスラミックランド・オブ・パッタニー)と称する国家を創設すると主張する。そして、彼らの主張する「タイ族仏教徒による占領」に抗するためとして、暴力とテロに訴えている。こうした考え方の下、非マレー族イスラム教徒住民の存在を容認せず、更にすべてのタイ族仏教徒を追放してマレー族イスラム教徒を支配下に置き、タイ政府当局への不信をあおることを目的としている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、南部国境諸県の分離独立派反政府勢力による戦争法違反を繰り返し非難してきた。戦争法(国際人道法ともいう)は、一般市民への攻撃を禁止するとともに、軍要員と一般市民を区別しない攻撃も禁止している。タイ族仏教一般市民も国家の一部であるから攻撃しても合法であるとか、自分たちの解釈ではイスラム法上そのような攻撃は認められているといった反政府勢力の主張は、国際法上何の正当性もない。

戦争法は、報復攻撃や、一般市民・捕えられた戦闘員の即決処刑、遺体切断、一般市民や学校などの民生用の建築物に対する攻撃なども禁じている。2004年1月に反政府勢力による軍事行動がエスカレートして以降、反政府勢力はこうした違反行為を多数繰り返している。

一方で、政府治安部隊や政府系民兵による人権保護法や戦争法への違反行為も重大な懸念材料であり続けている。タイ族仏教徒の一般市民や治安部隊要員が反政府勢力に攻撃されたことに対する報復だからといって、政府当局側による殺人や強制失踪、拷問などが正当化されるはずがない。南部国境諸県で人権侵害に関与した政府治安部隊を政府が放置し処罰してこなかったことが、こうした人権侵害を助長する結果となっている。これまでに政府は、反政府勢力との関与を疑われたマレー族イスラム教徒に対して残虐行為を行った当局者や治安部隊要員を、訴追・有罪にしたことがない。

前出のアダムス局長は、「政府は自部隊の責任を問うことを約束したのに、南部の部隊と警察を刑事責任追及しないままだ」と指摘。「こうした政府の姿勢は、分離独立派反政府勢力による過激主義を勢いづかせ、残虐行為の負の連鎖を深刻化するだけだ。」

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