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(モスクワ)-表現の自由を侵害すると共にレズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー(以下LGBT)コミュニティーを差別・非難する法案が提出されたことに対し、ロシア議会は否決しなければならない。

2012年12月19日、国会下院のドゥーマが審議する予定のこの法案は、18歳未満の者に対する同性愛の「助長」に携わった、個人、政府職員、団体に罰金を科すという内容。ロシアの行政区議会が成立させた同様の法令について国連規約人権委員会が表現の自由を侵害し、かつ差別的であると裁定してから2カ月を待たず、メドベージェフ首相が「そのような法律には反対である」「いかなる人と人との間の関係に対しても、法律で規制することはできない」と述べて1週間後の審議入りとなる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのLGBTプログラム・アドボカシーディレクターボリス・ディートリッヒは、「提出された法案は、言論の自由という基本的人権を侵害し、LGBTの平等な人権を否定し、国際法とロシア国内法、双方の観点からもロシアの義務に反する」と指摘。「ロシア議会は首相の意見に耳を傾け、国際的義務を順守し、同性愛嫌悪に基づく法案を廃案にすべきだ。」

問題の法案は、ロシアの行政法の法令違反条項を改正するもので、成立した場合、「未成年者に対して同性愛の助長」を行った者は、5,000ルーブル(160米ドル)以下、団体は50万ルーブル(1万6,000米ドル)以下の罰金を科される。同様の「同性愛の助長」を禁止する法令がロシアの9行政区ですでに成立、更に7行政区で審議中だ。

この法案は「助長」「同性愛」「未成年者の間に」の各用語の定義を明確にしていない。

「法案の用語は非常にあいまいであり、ロシア国内で横行するLGBTへの差別に対処する行政の取り組みを弱体化しかねない」と前出のディートリッヒ ディレクターは指摘する。

国連規約人権委員会は10月、リャザン行政区議会が成立させた「同性愛の助長」を禁止する法律に対して「曖昧かつ差別的である」との裁定を下した。リャザン行政区の法律を適用してLGBT活動家のイリーナ・フェドトワ氏を訴追したことは、ロシア政府が彼女の表現の自由と差別からの保護の権利を侵害したことに該当すると、裁定は指摘している。「同性愛はノーマルなこと」「私は同性愛者であることにプライドを持っている」と書かれた複数のポスターを、フェドトワ氏がある中学校の近くに掲示したとして、リャザン行政区の警察は2009年に彼女を短期間ではあるが拘束。彼女は「未成年者の間に…同性愛を助長する活動を行った」容疑で訴追され、裁判所は彼女に1,500ルーブル(30米ドル)の罰金を科した。

規約人権委員会はロシア政府に対し、罰金と訴訟費用をフェドトワ氏に返還すると共に、損害賠償金を支払うよう命令した。更に、「将来、同様の人権侵害が発生するのを防止」し、表現の自由をまもり差別を禁止する「市民的および政治的権利に関する国際規約(以下ICCPR)」の条項に沿って、国内法の規定が作られることを確約する義務があると再認識するよう、ロシア政府に求めた。

「規約人権委員会の裁定が出た後にもかかわらず、ロシアにおいて今も連邦レベルで同性愛嫌悪に基づく法律制定が押し進められていることに、大きな失望を覚える。本来当局が取り組むべきは、国連のフェドトワ事件に関する裁定に従い、差別的な行政区の法規を撤廃することのはずだ」と前出のディートリッヒ ディレクターは述べる。

セント・ペテルスブルクでは5月、著名なロシア人LGBT活動家ニコライ・アレクセーエフ氏が「同性愛は性的異常でない」と訴えるポスターを携えて市役所にピケを張ったため、同様の同性愛嫌悪法によって罰金を科された。彼が一連の同性愛嫌悪法に狙い打ちされた最初の人物となった。

ロシアの首都モスクワで活動する愛国主義的ナショナリスト団体は公然と、モスクワでの「同性愛の助長」禁止と同性愛者が集うクラブの閉鎖を要求するようになっている。そのような声明のひとつが出された数日後の10月、マスクをかぶった男たちが、LGBTフレンドリーなモスクワ市内のバーで行われていたLGBTのイベントを襲撃した。その襲撃事件に対する捜査が始まったものの、具体的な成果は今のところ何もない。

マドンナは8月、セント・ペテルスブルクでコンサートを行った際、同性愛者の権利を支持する発言を行い、レインボーフラッグとピンクのブレスレットを配布した。保守的なグループはその行為が同市の法律に違反しているとして訴えを起こした。セント・ペテルスブルク裁判所は原告の訴えを棄却している。そのような団体はまた、12月9日にセント・ペテルスブルク、12月12日にモスクワで開催されるレディー・ガガのコンサートにティーンエイジャーが行くことを禁止することも求めている。レディー・ガガはロシア国内のLGBTの権利をサポートする発言を繰り返している。

連邦法案に添付された説明覚書によると、同法の提案者は「子どもの知性、道徳、精神の保護を確保するために」必要であるとして、この法改正を正当化している。しかしながら、同性愛に関する情報から子どもを「まもり」たいという要求は、「子どもの利益を最優先とする原則」に照らして正当化されるものではない。欧州人権裁判所はこれを再三にわたり確認するとともに、法規そのものが差別的であると判示している。

これに加え、国連子どもの権利委員会は2003年、子どもの権利の観点から「HIV感染から自身をまもるために、自分の性に子どもが前向きに責任を持って向き合えるよう…適切かつタイムリーな情報を提供する」ことが不可欠である、と改めて確認している。また同委員会は、「性教育や性に関する情報を含め、医療・保健に関係した情報について、検閲・配布禁止、もしくは意図的な事実の歪曲の一切を控える」ことも、各国政府に強く求めている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは欧州連合に対し、12月21日にブリュッセルで開かれるEU/ロシア首脳会談において、ロシアでの同性愛嫌悪法に関する懸念を表明するよう強く求めた。

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