(バンコク)- ビルマ政府は、銅山開発に抗議する人びとに対し、地元当局が過剰な強制力を行使したとされる事件について、直ちに公平な調査を行うべきだ。2012年11月29日にサガイン管区モンユワ郡で、現地治安部隊はレッパダウン銅山に設置された抗議キャンプ6箇所を強制排除した。逮捕者数は不明で、少なくとも40人以上が負傷しており、重い火傷を負った者も多い。
ヒューマン・ライツ・ウォッチに寄せられた目撃証言によれば、当該治安部隊は早朝にキャンプを襲い、仏教僧や農民など、数日にわたり泊まり込んでいた抗議運動参加者に対して、催涙ガス、発煙弾や武器を用いた。政府の広報グループは声明を発表し、地元当局は暴動鎮圧策を用いたと述べた上で、過剰な強制力の行使は否定した。数時間後、テインセイン大統領率いる大統領府は先の声明を取り下げるとした1行の声明を発表したが、それ以降の説明はない。
「病院の病棟一つが重い火傷を負った僧侶や抗議運動参加者であふれている。この状況からすれば、皆が寝ている間に襲撃を行ったのは誰で、政府が今後どう対応するのかは当然明らかにされるべきだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理フィル・ロバートソンは述べた。「レッパダウン鉱山での今回の弾圧への対応では、政府による、非暴力集会尊重の公約と、人権侵害を犯した者の責任追及への意欲が真の意味で試されている。」
レッパダウン鉱山は少なくとも26の村落に影響を与えるもので、公の場での抗議行動が昨年来増加している。「これまで11回デモ申請をしてきたが、一度も認められなかった」と、現地の運動指導者の一人は、モンユワの街で抗議行動を行おうとしたこれまでの努力についてこう述べた。「しまいに当局は、抗議行動はモンユワ市民に悪影響を及ぼすと言ってきた。」 しかし運動側は、非暴力集会に関する自らの権利を行使し、鉱山近くで抗議行動に入ることを決めた。
レッパダウン銅山はミャンマー連邦エコノミック・ホールディング社(UMEHL。ビルマ国軍所有の複合企業体)と、中国の国有企業で同国最大の兵器製造企業である中国北方工業公司(ノリンコ)の子会社、中国万宝鉱産有限公司が所有する鉱山であり、長い論争の的となってきた。サベータウン、チーシンタウンの両鉱山(総称は「モンユワ銅開発プロジェクト」で、レッパダウン銅山はこの事業の拡張となる)付近の住民はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、自分たちは空気や土地、水の汚染で長年苦しんでおり、汚染は銅採掘の結果だと考えていると述べた。これら既存の鉱山地域に住む人びとは、自らの土地が補償なしに没収されたと訴えている。
「国軍が投資する事業がビルマでは依然として法に優先されるのかを占う上で、レッパダウン事件での弾圧への政府の対応はきわめて重要だ」と、前出のロバートソンは指摘した。
当局は逮捕者について、法律違反行為を認定したなら直ちに起訴、そうでなければ釈放すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。被拘禁者は弁護士、医療、家族に直ちにアクセスできなければならない。
政府の広報チームは強い口調の声明を発表し、地元当局は暴動鎮圧策を用いたと述べた上で、過剰な強制力の行使は否定した。しかし数時間後、大統領府は先の声明を取り下げるとした1行の声明を発表したが、それ以降の説明はない。
レッパダウン鉱山地域の住民はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、自分たちが開発を懸念する理由には、一帯にある別の採掘現場の付近住民が悪い経験をしてきたことがあると述べた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは政府に対し、捜査を行った上で、過度の強制力の行使に責任があるすべての人物を適正な形で訴追すべきだと述べた。慣習国際法を反映していると広く見なされる世界人権宣言は、平和的な集会の権利を保障している。法執行職員による強制力および武器の使用についての国連基本原則は、職務遂行中の法執行職員に対し、有形力(force)と武器使用に訴える前に、可能な限り非暴力な手段を講ずるよう義務付けている。また強制力の行使が避けられないときはどんな場合であれ、その使用を抑制的に実施し、違反行為の重大さと達成すべき正当な目的に応じて行動するべきとしている。
野党指導者である国民民主連盟(NLD)のアウンサンスーチー書記長は、弾圧の直後にモンユワを訪問し、抗議活動参加者に対し、鉱山側と被害を受ける地域住民との間で解決策を得るために交渉すると述べた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、スーチー氏も政府に対し、過剰な強制力の行使を行った者の責任追及を行うよう求めるべきだと述べた。
「政府は、現地住民の意見が、新しい法律、または国家による天然資源の利用への批判であっても、開かれた社会にとって決定的に重要であることを認識すべきだ」とロバートソンは述べた。「平和的な抗議活動を行う人びとに対し、今回のような襲撃を行うことは、国や国軍の利害が脅かされた場合には、国家が権利を擁護しないのではないかとの重大な疑念を惹起させるものだ。」