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国連:スリランカでの失敗 償う行動・繰り返さぬための行動 必要

政府と「タミルの虎」の残虐行為を調査する独立調査委員会 任命を

(ニューヨーク)—スリランカで国連のとった行動に対する国連事務総長の内部調査が公表された。国連は本内部調査の結果を、将来の紛争における大規模な残虐行為を阻止するのに求められる、あらゆる措置を確実に講じるための明確かつ具体的な対策に繋げるべきだ、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。潘基文事務総長が任命し、2012年11月14日に公表されたこの「スリランカにおける国連の行動に関する内部調査」は、スリランカ内戦に関して2011年に国連専門家委員会が作成した報告書で勧告された主要な提言のひとつ。スリランカ内戦は、両陣営による一般市民への血塗られた激しい人権侵害に特徴づけられる。

スリランカ政府とタミル・イーラム・解放のトラ(以下LTTE)の間の内戦が最終局面を迎えた2008~09年にかけての数カ月間、国連職員と国連機関による行動に重大な失態があったことをこの内部調査は明らかにした。「国連カントリーチームは、人びとの支援を任務としていたにもかかわらず、支援すべき人びとの権利をまもることに一貫して消極的で」、「国連上級職員の一部は一般市民の殺害阻止を自らの責任と認識せず」、「国連本部の機関・部局責任者も殺害阻止を指示していなかった」と結論づけている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ国連ディレクターのフィリップ・ボロピオンは、「スリランカの一般市民に対する最も基本的な責任を国連が果たし損なった。その事態に繋がった悲劇的なあやまちを国連内部調査が認定した」と指摘。「これは国連の制度全体に向けた行動と改革と求めだ。国連の体面を汚すこととなる可能性があるのを知りながら、今回の一連のプロセスを開始させたのは事務総長の功績といえる。今後必要なのは、断固とした意思をもって、報告書の勧告を実施するとともに、スリランカの被害者のために法の正義を実現することだ。この意思が強いかどうかで、事務総長は評価されることになるだろう。」

元国連職員チャールズ・ペトリー氏による内部調査は、国連安保理の失敗をも明らかにした。「国連の行動が適切な目的と方向性を欠いた」のはなぜかという疑問は、安保理の明確な支援が不在だったこと、そして時すでに遅しとなるまで討議すらされなかったことで説明がつく、と報告書は述べている。しかしながら内戦の最終局面で、北部州ワンニ地域に押し込められて身動きが取れなくなった推計36万人、あるいはそれを超える一般市民に対し、殺害などの残虐行為が行われた第一義的責任はスリランカ政府とLTTEにあることも同調査は強調している。

本内部調査は、スリランカにおいて、国連が無慈悲な行動をとっていたことを鮮明に描き出している。スリランカ駐在のニール・バヌ国連上級職員は2009年初頭に、「重要会議から人権顧問を外し、人権侵害に関してスリランカ政府と国連本部が提携するための情報提供を不可能にした」。一部国連職員は、「求められる義務をはるかに超える献身をみせた」が、全般的には「人道支援に対するスリランカ政府の妨害に十分な対抗措置をとらず」、更に「攻撃が一般市民を殺害していることを示す相当量の証拠があるにもかかわらず、国連本部とコロンボ国連事務所には、スリランカ政府の責任を追及する意思がなかった。」

本内部調査は、国連の支援活動が大いに必要とされていた時ゆえに、スリランカから追放されることを国連が回避しようとしてジレンマに直面していたことも指摘。一方で、「国連という機関の妥協文化」を非難し、「一般市民殺害の加害者を断固として非難すると同時に、人道援助の提供に向けて奮闘努力する能力」を備えていたと結論づけている。

国連はルワンダ虐殺などの過去の悲劇からの教訓を生かせなかった、と本内部調査は批判。ルワンダでの国連の行動に関する1999年12月の独立調査で残された多くの教訓が、スリランカでは忘れ去られていたと指摘した。具体的には、安保理からの「政治的意思」の必要性、「事務総長の指導的役割」、「現地国連職員の人権保護能力」、国連本部での討議すべき「人権に関する情報を伝える重要性」など。また国連指導部が加盟国に対し、対応のため行動する場合に知っておくべきことではなく、聞きたいと思っていることを伝えるというあやまちを犯したとも認定している。

前出のポロピン国連ディレクターは、「国連のスリランカにおける職務怠慢は、人権上の懸念が片隅に追いやられたり、政治的すぎるなどとレッテル貼られた場合に、何が起きるのかをはっきりと思い出させるものだ」と述べる。「ルワンダ虐殺からの教訓を生かさなかった国連の失敗は、単に報告書を作成するだけでは足りない。その勧告を実行するのに必要な政治的意思とコミットメントがない限り、こうした根深い問題を解決できないのだということが明らかになった。」

内部調査は、スリランカで国連諸機関が犯した失敗のうち、現在一般市民が危機に直面している他の国々で共通の問題となる点についても詳述。スリランカでの「国連カントリーチーム」は、現地の多くの国連職員から「非常に消極的」で「弱い」と評価された。一部の国連機関については、「自機関への注目度を上げ資金源の確保をするためなら、原則を素早く妥協する」と評価された。

本内部調査は、スリランカで一般市民を保護しそこなった国連の失敗に責任を負う特定の国連職員個人らに関して、更なる調査が必要だと要請すべきだった。しかしながら同調査は、当時のビジェイ・ナンビアール(Vijay Nambiar)官房長、人道問題担当事務次長のジョン・ホームズ卿(Sir John Holmes)、国連コロンボ常駐コーディネーター、ニール・バヌ(Neil Buhne)氏による問題行動について添付文書に記載。国連職員らは「他の紛争状況での情報収集における最高の手法に匹敵する水準」の「厳密な調査手法」を用いて非常に多くの憂慮すべき数の犠牲者がでているという情報を入手したものの、上記の上級職員たちがこれを軽視した、と指摘している。

前出のボロピオン国連ディレクターは、「国連は、失敗の責任は誰にあるかを明らかにしたうえで適切な懲戒措置をとるべきだ。そうせずに、単に制度的な失敗だったと言い逃れることはできない。アカウンタビリティ(責任追及・真相究明)は自らの足元から始まる」と指摘する。

国連専門家委員会はかねてより事務総長に対して、スリランカ内戦中に両陣営によって行われた国際人権法および人道法に対する違反行為を調査して、加害者の責任を問うための措置を勧告すべく、独立した国際機構の創設を求めていた。今回の内部調査はその求めを補強する内容となっている。国連憲章第99条に基づき、事務総長にこうした国際機構(調査委員会)を設立する権限がある旨を、国連法務局が潘事務総長に提言したことにも内部調査は言及している。しかし実際に事務総長がとった行動は、調査委員会設立のための「適切な政府間のフォーラム」による委任を喜んで受け入れると述べて、同専門家委員会の報告書を国連人権理事会に送付するに留まった。

国連人権理事会は2012年3月、スリランカ政府に「全スリランカ国民に法の正義、公平性、アカウンタビリティ、和解を保証するため、責任をもって信頼性の高い独立したアクションを開始する」よう求めた。が、同理事会は国際的調査の設立という、専門家委員会の勧告に応える行動は起こしていない。

スリランカ内戦による無数の被害者の生命と権利をまもるために実行可能な、あらゆる措置をとり損なった国連。この失敗が認定されたことを受けてヒューマン・ライツ・ウォッチは、潘事務総長に改めて、独立した国際調査団の創設を要請。事務総長が設立しない場合は国連人権理事会が、2013年3月の会合でスリランカに関する国連人権高等弁務官による報告書を検討する際、これに代わるべきだ。

前出のボロピオン国連ディレクターは、「スリランカ政府が自国民に大規模な残虐行為を働いていた際に、国連がスリランカ政府に譲歩しようとしていたのは、取り返しのつかないあやまちだったということが立証された」と指摘。「国連制度は、歴史を書きかえて本来あるべきだったように対応することはもはやできないが、少なくともスリランカの被害者たちに、法の正義を実現するために意義ある努力をする責任を負っているのだ。」

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