(ニューヨーク)—シリア空軍がクラスター弾を近時に使用した証拠が新たに発見された、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。クラスター弾を使った空爆のほとんどは政府軍と反体制派の激戦地、マアッラト・アン=ヌウマーン郡(Ma'arrat al-Nu`man)を走る主要道路沿いで行われた。
10月9日と10日にシリアの活動家たちがオンライン上に投稿したビデオ映像が示すところでは、イドリブ県の北部行政区にあるTamane`aやTaftanaz、al-Tah、マアッラト・アン=ヌウマーンの町、ならびに首都ダマスカス近郊のBoudiyyaにクラスター弾の残骸が散乱している。Taftanaz とTamane`a の住民たちはヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応え、9日にヘリコプターで町の周辺にクラスター弾が投下されたことを証言した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの武器局局長のスティーブ・グースは、「シリア政府が市民の命を軽視していることは、一連の空爆作戦からもあまりに明らかだが、今ではそれに人口密集地域への致死的なクラスター弾投下が加わったと見みられる」と述べる。「クラスター弾は世界のほとんどの国で包括的に禁じられており、シリアもその使用をすべて即刻中止すべきである。これら無差別攻撃の武器は何年にもわたり人びとを殺害し、傷つけ続ける。」
ビデオ映像内では、大人や、子どもたちさえ命にかかわるかたちで不発弾を扱っている様子がみられることから、ヒューマン・ライツ・ウォッチは市民に対する不発弾の被害を深く憂慮している。
近時のクラスター弾による攻撃直後の様子に関するビデオ映像が少なくとも12本、シリアの活動家たちによりYouTubeに投稿されており、これらは進行中の戦闘状況を伝える一連のビデオ映像の最新版といえる。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、クラスター弾投下が確証された2つの町で住民への聞き取り調査を行っている。「ブラウン・モーゼ」の筆名でシリア軍の武器と戦略についてブログを書いているエリオット・ハギンズは、Tamane`aやTaftanaz、マアッラト・アン=ヌウマーンを含むシリア北部イドリブ県内の数カ所に散らばる爆弾の残骸を映す一連のビデオ映像を編集。ダマスカス近郊のRif Dimashq (東Boudiyya)からのビデオ映像でも残骸がみられるが、ヒューマン・ライツ・ウォッチはこれまでこれらの町の住民に真偽を確認できていない。
ビデオ映像内にある爆弾の残骸が、RBK-250系統の散弾筒とAO-1SCh子弾の破砕であることをヒューマン・ライツ・ウォッチは確認している。軍事関係の出版を専門とする「ジェーン・インフォメーション・グループ」は、シリアをRBK-250/275とRBK-500系統クラスター弾の所有国として挙げている。これらクラスター弾とその子弾は旧ソ連製だが、いつどのようにしてシリアがそれを手に入れたのかは不明だ。
今年7月ヒューマン・ライツ・ウォッチは、あるビデオ映像でハマー県Jabal Shahshabuで見つかったであろうRBK-250系統の散弾筒とAO-1SCh子弾の破砕を確認した。8月にホムス行政区のTalbisehとDeir al-Zor行政区のAbu Kamalから投稿されたビデオ映像にも爆弾の残骸が映っていた。8月のAbu Kamalにおけるクラスター弾攻撃では異なる子弾が使われた模様で、子弾PTAB 2.5Mは対戦車仕様だ。
Taftanazのある住民はヒューマン・ライツ・ウォッチに、町はシリア軍に過去6週間にわたって攻撃されており、10月9日にはヘリコプターから投下された爆弾が途中で半分に割れて、小さな爆弾が散らばったと証言した。最初に爆発音を聞いたが、子弾が散らばった後に更なる爆発音を数回耳にしたという。着弾したのは空港から2、3キロ離れたTaftanaz南のオリーブ畑で、死傷者はいない模様だ。証言した住民は現場で30発ほどの不発弾を見たという。
もう1人の住人は個別の聞き取り調査で、町北部を直撃した他のクラスター弾について詳述。彼はヒューマン・ライツ・ウォッチに次のように証言した:
「10月9日にTaftanazの北にあるShelakh原から、大きな爆発音にいくつかの小さな爆発音が続くのを聞いので、何があったのか皆で見に行った。そこで2つに割れた大きな爆弾ひとつと、小さな不発弾をいくつか見たよ。私もひとつ不発弾を見つけた。小さな穴がいくつも地面にあいていたね。穴は300メートルくらいに分散して広がっていた。」
その住民によると、反体制派「自由シリア軍」の兵士たちがTaftanazで20発の不発弾が見つかったと彼に教えてくれたという。
Tamane`aのある住民はヒューマン・ライツ・ウォッチに、10月9日の正午頃、低空飛行のヘリコプターが2つに割れる爆弾を一発投下し、それが小さな爆弾となって散らばったが、爆弾が2つに割れたのは近接する小学校と中学校の間だった、と証言。学校はそれぞれ、Zeid Abi ElharissaとMostapha el Bakriと呼ばれており、Ibn Batouta地区にあるという。その住民はまた、爆発したのは地面に先頭がぶつかった子弾で、先頭が当たらなくて爆発しなかったものを皆で集めた、と話した。
翌10月10日にオンライン上に投稿されたビデオ映像には、Tamane’a近郊の別の場所、al-Tahに散乱したRBK-250系統の散弾筒とAO-1SCh子弾がはっきりと映っている。
こうした不発弾は作動状態にあり、少し触れたり、動かしただけでも爆発しうる。にもかかわらず、子弾を持ち運んだり、何かに打ちつけたり、地面に投げつけたりする人びとの姿が映像に映っている。Tamane`aで撮影されたあるビデオには数人の男性が不発のAO-1SCh子弾を取り扱う様子が映っており、こうした行動は相当の危険を伴うものだ。Tamane`aのある住人は、人びとが子弾や残骸を「みやげ」に持ち帰っているとヒューマン・ライツ・ウォッチに話した。8月の他のビデオに撮影されていたのは、小さな子どもが不発弾を持つ様子だった。
前出のグース局長は、「クラスター弾による攻撃と残された不発弾は、多大な危険を市民に及ぼす。人びとは多くの場合、子弾がいかに簡単に爆発するかを知らないでいるのだ」と指摘する。「こうした危険にまつわる教育と緊急の爆弾除去作業が早急に求められる。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、アルジャジーラやアルアラビーヤ(al-Arabiyya)などのシリア国内で広く観られているテレビ局に、こうした爆弾を扱う危険について放映するよう要請した。
クラスター弾はロケット発射装置、迫撃砲、大砲、ヘリを含む航空機からの投下で使用可能だ。空中で爆発すると、何十、何百もの子弾、つまり「小型爆弾」をサッカー場程度の範囲にまき散らす。子弾はしばしば、最初の着弾時には爆発せず、地雷のようなかたちで地上に残り、人びとが触れた時にはじめて爆発する。
世界の国々の大半は、2010年8月1日に発効したクラスター爆弾禁止条約に基づき、包括的にその使用を禁じている。シリアは同条約に加盟しておらず、条約制定を準備した2007〜2008年の「オスロ・プロセス」にも参加していない。同条約はクラスター弾を全面禁止し、不発子弾処理や被害者支援を義務づけている。現在の参加国は77カ国で、他34カ国は署名したものの批准していない。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、クラスター爆弾禁止条約を支えた市民社会キャンペーン「クラスター兵器連合(CMC)」の創設メンバーである。