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イエメン:軍の学校利用  危険にさらされる子どもたち

蜂起時/後の武装部隊による首都占拠で  教育危機

(ベイルート)-イエメンにおける2011年〜12年の反政府蜂起の際、首都サヌア市にある学校に展開した政府軍や他の武装勢力が、生徒たちを危険にさらし、教育の機会を損なったとヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。蜂起は33年間続いたアリ・アブドゥラ・サレハ大統領による独裁終焉で幕を閉じた。

政府軍や非政府系武装勢力による軍事目的の学校占拠が、生徒や教師を危険にさらし、教育を脅かしている。イエメン政府は学校の武装占拠を明確に禁ずるべきだ。

報告書「射程内の教室:イエメン首都における学校の軍事利用」(全46ページ)は、政府治安部隊、民兵組織、反政府武装勢力による学校占拠の結果、何万人もの生徒の生命と教育が脅かされている実態について詳述している。両陣営の部隊が、学校を兵舎や基地、監視所、攻撃拠点として使用。戦闘員が、学校の敷地内に武器弾薬を保管したり、捕虜を拘禁、時には被拘禁者の拷問などの虐待を行なっていたケースもあった。

イエメンはもともと識字率が中東地域中最低であり、学校在籍率の低さも世界の最低レベルに位置する。軍などの武装勢力による学校での展開(国際法に違反する)を政府が禁ずるまで、イエメン全国の紛争地域で生徒や教師、学校関係者の生命が不必要な危険にさらされ続けることになる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの子どもの権利局調査員であり、本報告書の共同執筆者プリヤンカ・モタパーシーは、「2011年のイエメン蜂起で若者は非常に重要な役割を果たしたが、同時に多大な苦しみも味わうこととなった」と指摘。「兵士や反政府勢力が学校に展開している限り、子どもは危険に直面し、教育は損なわれたままだろう。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2012年3月に、政府軍あるいは反政府勢力が占拠していたサヌア市内の学校19校を訪問。うち7校が当時、生活/活動拠点として依然使用されていた。完全占拠されている場合もあったが、ほとんどの学校は一部を占拠された状態であり、武装した戦闘員のかたわらで教師と生徒たちが授業を続けようとしていた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはこうした学校の関係者(75人超の生徒、教師、校長、学校管理者、保護者)に聞き取り調査を行った。また、政府関係者、親サレハ派および反サレハ派武装組織との会談の際に、学校占拠問題を提起した。2012年8月に再び訪れた際には、抗議運動の拠点が散開する「変革広場」近くのアズマア(Asma’a)女子中学校1校を除く全校から、武装勢力が撤退していたことを確認している。

「[兵士たちが]ここで年を取った男の人を拷問した時は本当に怖かった」と、同女子中学校の生徒(13才)は話す。学校は反政府勢力の第1機甲師団が占拠していた。「まさにこの校庭で電気ショックをかけたりしていて。休み時間の時だった。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチが訪問した学校の大半は、2011年3月に政府軍から離反し、反政府勢力支援にまわった精鋭集団の第1機甲師団に所属する部隊によって占拠されていた。が、政府軍と各部族から成る民兵組織もまた、首都サヌア市内の学校を使用したり、占拠していた。

国際人道法(戦争法)は、一般市民への危害を最小限に抑えるべく、実行可能なあらゆる措置を講じるよう、武力紛争の全当事者に義務づけている。学校その他の民間建造物は、軍事目的で使用されているのでない限り攻撃できない。学校に武力を展開すれば、生徒や他の一般市民を不必要な攻撃の危険にさらすことになる。代わりとなる教育施設を提供せずに武装した部隊の駐留を延長するのは、国際的人権保護法が保障する教育の権利を否定する可能性がある。

武装勢力は首都サヌア市内の学校占拠を正当化しようとして、学校を他勢力から「守っている」のだと主張していた。しかしヒューマン・ライツ・ウォッチの調査により明らかになったのは、「ひとたび部隊が来れば、学校は敵対勢力の軍事目標となり、生徒と教師をより深刻な危険にさらす」という正反対の結果だった。実際、教師と生徒の在校時に、校内の部隊が攻撃を受けたことが数例あった。校内に拘禁した捕虜に、教師と生徒が見まもるなか、校庭で暴行を加えていた例もいくつかある。

前出のモタパーシー調査員は、「兵士が学校に入った瞬間に学校は軍事目標となり、生徒たちにとって安全な場所ではなくなってしまうのだ」と述べる。「学校をまもっていると主張する指揮官たちは、生徒の命を手玉にとるような重大な危険を、あからさまに無視している。」

生徒と教師を危険にさらしたことに加えて、学校の軍事利用により子どもたちの適切な教育機会が妨げられた。ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、蜂起の際に首都サヌア市内で政府軍や武装勢力に利用された学校では、勉学の混乱、在籍者数の減少、出席率の低下、設備の損壊などがあったことを明らかにしている。

学校の軍事利用で特に女子教育が損なわれた。イエメンはジェンダー隔離が相当進んだ保守的な社会であり、女子の学校在籍者数はすでに男子に遅れをとっていた。武装した部隊が学校に来れば、女子のほうがより多く退学したり、学年度の大半を欠席してしまうことになる、と教師や校長は話す。一部の保護者は、武装した男たちのかたわら、あるいは一時的にしろ男子生徒との混成教室で娘が勉強するのを認めるより、学校に行かせない方を選ぶという。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが以前、首都サヌア市内とタイズ市で調査し、取りまとめた政府軍と武装勢力による教育施設の利用は、全国でみられる様々な形の軍事目的による学校占拠の一部にすぎない。兵士たちはこうした学校の多くに被害を与えており、敵対勢力は中にいる部隊の存在を理由に学校に発砲や砲撃を加え、生徒と学校関係者を危険にさらしているのだ。

ユニセフ(国連児童基金)によれば、サレハ前大統領が湾岸協力会議の仲介による辞任協定に署名した直前の2011年11月当時、政府軍と武装勢力は首都サヌア市内の学校少なくとも82校に対して攻撃を行い、少なくとも54校を占拠した。北部サダ市でのハウチ派反乱軍もまた、複数の学校をこれまで基地として使用してきた。

南部アビヤン(Abyan)州での戦闘から逃れてきた人びとはヒューマン・ライツ・ウォッチに、アルカイダ関連のある民兵組織が、政府軍との戦闘に際し学校を使用していたと話していた。ユニセフは6月、アラビア半島でアルカイダ傘下にあってイエメン南部で活動しているアンサル・アルシャリアに所属する部隊が、アビヤンで少なくとも52校を占拠し、うち26校が戦闘の際に攻撃されていると報告した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、学校再建プロジェクトを資金援助している世界銀行、英国国際開発省、ドイツ、オランダなどの援助提供国・機関に、生徒と教師を不必要な危険にさらし、子どもたちの教育を受ける権利を奪う、学校の将来的な軍事利用を明確に禁ずる旨、イエメン政府に働きかけるよう強く求めた。

前出のモタパーシー調査員は次のように指摘した。「兵士が戦闘の準備をしているところに息子や娘を送り出したいと思う親はいない。教育に投資する援助提供国・機関は、学校と生徒たちを武力紛争から保護する行動を取るよう、イエメン政府に圧力を掛けるべきだ。」

報告書に含まれる生徒と教師の証言:

親政府派部族の民兵組織に占拠されたソコトラ(Soqotra)校の8年生シャディ(18歳):「軍の兵舎を皆怖がっていました。何か起きてもおかしくないから、誰も学校に行かなくなってしまいました。」

第314旅団に属する兵士に占拠されたアイシャ(Aisha)女学校の教師:「保護者の一部が苦情を言ってきました(中略)当校に娘を在籍させておけないとね。娘を兵士と一緒にしておくのは非常にセンシティブな問題だからです。でも兵士たちが去ってからは、皆学校に復学したんですよ。」

親政府派部族の民兵組織が教室の一部を占拠したことにより、残りの教室が過密状態に陥ったアルウラフィ(al-Ulafi)校の教師:「1クラスあたり80人〜90人の子どもたちがいました。(中略)生徒たちの成績はかなり悪くなり、多くが落第しました。」 

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