(ニューヨーク)- 2012年3月2日に予定されるイラン総選挙は、恣意的な資格剥奪を始めとする様々な規制が課された著しく不当なものである、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日こう述べた。総選挙では全部で290議席が争われるが、事前に立候補者のうち数百人が曖昧かつ不明確な基準で立候補資格を剥奪されている。野党指導者たちは立候補を妨害されるか、不当な禁固刑に服しているか、茶番とみなす今回の選挙への参加をボイコットするかしている。
2月21日に監督者評議会(イスラーム法学者6人と一般法学者6人の計12人からなる。最高指導者と司法権長官がそれぞれ指名)は、イラン議会(マジュレス)選挙の立候補予定者約5,400人のうち3,500人に満たない立候補者を承認したと発表した。内務省はこれに先立ち立候補者約750人を失格させている。監督者評議会が失格とした候補者のうち少なくとも35人は現職議員だ。こうした一連の政府の行動に対し、イラン反体制派と改革派運動体は選挙ボイコットを呼びかけている。
「イラン当局は不正工作を繰り返し、立候補者を失格にし、改革運動の主要メンバーを恣意的に拘束している」とヒューマン・ライツ・ウォッチ中東局長代理のジョー・ストークは述べた。「立候補者の選考に関する透明性は存在しない。」
国会議員選挙および大統領選挙立候補者の選考はいくつかの段階に分かれている。内務省は、第一次選考を選挙法の定める基準に基づいて行う。年齢や教育に関する用件など具体的な基準もあるが、ほとんどは非常に曖昧で、当局の広範かつ恣意的な決定を可能にしている。候補者は4日以内に内務省の最初の決定に異議を申し立てることができる。内務省が「有資格」候補者のリストを完成させると、監督者評議会は立候補許可者を最終決定する。
1月10日、内務省選挙管理委員会は立候補者のうち数十人を「イスラームと憲法に十分に従っていない」ことを理由に失格とした。失格とされた立候補者にはマフムード・アフマディーネジャード(アフマディネジャド)大統領の現政権に批判的な現職数人が含まれる。失格となった立候補者のうち一人はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、1月10日に地元政府当局から通知があり、「非合法」政党や組織、あるいは団体に属し、あるいはこれらを支持していることを理由に失格になったと知らされたと述べた。氏は、当局は氏の立候補を失格とした理由に関する追加的な情報開示を行っていないとし、決定には異議を申し立てないことに決めたと述べた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの調べによれば、監督者評議会が失格とした立候補者の最新リストには、スンニ派の派閥に所属する議員15人のうち少なくとも8人が含まれている。リストには派閥の元代表ジャラール・マフムードザーデと、現代表エクバール・モハンマディーの名前もある。2011年12月19日、同派はイラン最高指導者アーヤットラー・アリー・ハーメネイーに書簡を送り、イランのスンニ派マイノリティの政治的社会的権利を保護するよう求めた。
ここ数年間、当局は一部の改革派政党を禁止し、他の政党についても厳しい活動制限を課した。2010年9月27日に、一般検事総長と司法権報道官は、改革派の2政党(イスラーム参加戦線、イスラーム革命聖戦士機構)の解散を命じる裁判所命令を発表した。当局はイラン自由運動など他の改革派政党についてもメンバーによる集会開催を禁止している。
監督者評議会による失格立候補者の発表に先立ち、改革派と反政府派の活動家は総選挙を批判し、立候補者を立てる理由がないとの結論を表明した。活動家の一部は現在も投獄中だ。12月26日に、ファーテメ・キャッルービーは、自宅軟禁中の前大統領候補で夫のメフディー・キャッルービーのメッセージを代読した。この中でキャッルービーは選挙を「茶番」と呼んだ。数日後、司法権は選挙ボイコットの呼びかけは「犯罪」に該当すると発表した。1月17日、キャッルービーの政党エッテマーデ・メッリーに属するウェブサイトのサハム・ニュースは、選挙批判の報復として、当局はキャッルービーとの外部交通を遮断し、家族と会うことを禁じたと伝えた。
当局は野党指導者ではキャッルービーのほか、ミール・ホセイン・ムーサヴィーとザフラー・ラフナヴァルドの自宅軟禁を継続しており、選挙結果が大きな争点となった2009年6月の大統領選挙後の大規模な抗議行動を支持するデモの呼びかけから1年以上が経過する。また反体制活動家数十人が「国家安全保障に敵対する行動」や「反体制プロパガンダ」などの容疑で不公正な裁判を受けた後、現在も投獄されている。
「約3年前、大統領選の結果を受けて数百万のイラン人が『私の票はどこだ』とスローガンを叫んで街頭をデモした」と前出のストークは述べる。「いまだにこのフレーズはこだましており、政府が国民に自らの将来を決める権利を認めていないという事実を思い起こさせる。」