(ニューヨーク)ビルマ新政権は確かに前向きな態度を見せているが、2010年11月の選挙から1年を経た同国で続く深刻な人権侵害の存在が曖昧になってはならない、ヒューマン・ライツ・ウォッチは2011年11月3日付のブリーフィング・ペーパーでこう指摘した。
「新政権は改革に向けた法律を成立させ、政策転換を公約している。しかしそれらが本物かどうかは、ビルマ国民が自らの権利を行使しようとしたときに明らかになる」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理エレイン・ピアソンは述べた。「様々な改革案の発表と並んで、名目的な民政移管の1年目を特徴づけたのは、戦闘地域での民間人への残虐行為、政治囚への拷問、そして裁判所による弾圧の正当化だった。」
テインセイン大統領が2011年3月30日に就任して以降、現政権の言葉遣いは著しく変わった。メディアへの規制が緩和され、8月に開会された第2回国会では数多くの法案が可決された。これらは、少なくとも名目上は、基本権の一部を保護するという政府の新たなコミットメントだ。新政権は一層の改革を公約し、反体制派に秋波を送っている。政府高官は経済改革を続け、民主化を進め、人権を尊重し、内戦終結に向けた民族武装グループとの和平会談も実施すると述べている。また民主化指導者アウンサンスーチー氏に対し、氏が1999年以来行使できずにいた自由を一定程度認めてもいる。氏は定期的に政府高官と会談しており、これまでの会談よりも内容があり期待も持てると述べている。
「こうした変化に対しては国内外で楽観的な見方がある」と前出のピアソンは指摘する。「しかしそれは国家の上層部での話であり、全国各地での具体的な状況について言えば、基本的な統治の手法や弾圧のあり方に大きな変化はない。」
国軍による少数民族州での人権侵害は続いており、新政権は軍の改革という緊急性のある課題を提起していない。また多数の抑圧的な法律を用い、独立した司法制度が存在しない状態のままで反体制派を引き続き弾圧している。また依然として多数の政治囚が投獄されている。5月と10月には計2度の恩赦があったが、釈放された政治囚は推計でわずか297人だ。新政権は人権状況の劣悪さを否認する過去の政府の文化を概ね引き継いでいる。確かに9月に全国人権委員会が設置されたが、組織の独立性と人権擁護へのコミットメントの程度には疑問が残る。
新しい議会では立法改革が行われ、労働組合の結成に関する法律のほか、平和的な集会を許可する法律、そして長年弾圧されてきた政党の国民民主連盟(NLD)の参加に道を開きうる政党登録法の改正案も成立した。一連の法律は条文上では期待ができるが、実際の運用のあり方や、社会参加の度合いについては見極めが必要だ。
2011年にビルマには国外から様々な高レベルの訪問があった。ヴィジャイ・ナンビア国連事務総長特使、欧州連合(EU)代表団、デレク・ミッチェル米国特別代表兼政策調整官、オーストラリアとインドネシア両国外相、トマス・オヘア・キンタナ・ビルマの人権状況に関する国連特使などだ。
「国際社会は、公約の上積みではなく実際の変化を支持するべきだ。関係各国はビルマ政府に対し、基本的権利を保障する本当の意味での持続可能な変化を引き続き実行するよう働きかけを継続して行うべきだ」とピアソンは述べた。「一連の公約がどの程度本当で、どこまで実現されるのか、そしてなによりもビルマの庶民の生活をどの程度改善しうるものなのか、こうした問題への結論はまだ出ていない。」