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10月12日に始まったビルマ政府による恩赦。ビルマでは、10月はじめ現在、政治犯が2,000人ほど拘束されていたが、その政治犯がどれだけ釈放されるのかが注目されていた。しかし、13日までに釈放が確認された政治犯は220人程度で、全政治犯の約1割にとどまっている。

ビルマ政府は、非暴力の政治活動で有罪判決を受けた残りの政治犯全員を、その容疑の根拠が治安関係法にあるか、反体制派を弾圧するために定められた一般犯罪容疑にあるかにかかわらず、即時無条件釈放するべきだ。また、基本的権利と自由を保障するための政治改革と法改正も必要である。

今回釈放された政治犯の中には、著名なコメディアンであるザーガナー氏、著名な女性労働運動家のスースーヌウェ氏などがいる。ビルマ政府は2011年10月11日、服役中の受刑者6,359人に恩赦を実施すると発表。その基準は、「高齢であり、健康上の問題や障害を抱え、一定期間の服役の後で模範的な行動をした」人物とされたものの、政府は釈放者のうちに政治囚が何人いるかは明らかにしていない。

そもそも、政治犯たちは、表現の自由などの人権を行使したことだけを理由に、ビルマの劣悪な環境の刑務所に投獄され、計り知れないほどの苦しみに耐えてきた。もちろん、政治犯の釈放は歓迎すべき事態である。しかし、そもそも、これらの政治犯の投獄自体がされるべきでなかったことは確認しておかなくてはならない。

また、政治犯を投獄する際に利用された法律は未だに存在しており、いつまたこれらの不当な法律が使われてもおかしくない状態にあることにも留意する必要がある。現ビルマ政府が過去の政権と異なるということを示したいのであれば、議会を召集して平和的に政治の意見を述べることを処罰する法律を撤廃する法案を通すべきだ。

人権抑圧で悪名高いビルマ政権は、長年多くの政治犯を投獄してきたが、近年、その数は特に増加していた。2007年8月から9月にかけての非暴力反政府デモを受けて、ビルマの政治囚はそれまでの2倍の推計2100人に達したのである。ビルマ政府治安部隊は「88世代学生」グループのメンバーや仏教僧侶・尼僧、ジャーナリストら運動参加者の身柄を拘束してきた。

そして、多くの人が、刑法をはじめ、結社・集会・表現の自由を制限する結社法や、外国メディアのインタビューに応じたり、情報を国外に送信した人を訴追するために用いられる電子取引法の中の曖昧な条項に基づき有罪判決を受けて投獄されたのである。今回の釈放で1,000人規模の政治犯が釈放されたとしても、その政治犯の数は4年前の2007年前半レベルに戻っただけであるということも忘れてはならない。

2007年の「サフラン」デモを受けて立件された政治犯たちは、ビルマ政府当局によって爆発物や火器、ポルノの所持をでっちあげられたり、国家防護法(1975年)のほか、扇動や宗教の侮辱、武装蜂起の呼びかけを禁じた難解な刑法上の規定などの厳罰主義的な法律を理由に政治的動機で起訴されたりした。ヒューマン・ライツ・ウォッチは2009年の報告書『忘れられたビルマの政治囚たち』で、著名な政治囚の拘束や裁判に関する詳しい情報を数多く掲載した。

ノーベル平和賞受賞者で民主化指導者のアウンサンスーチー氏はもちろん、今回釈放された著名な喜劇俳優のザーガナー氏、「88世代学生」の指導者のミンコーナイン氏など、これまでに釈放と再逮捕を何度も経験し、拘束と釈放の「回転ドア」状態に置かれている政治犯は多い。例えば今回釈放された喜劇俳優のザーガナー氏は1988年と1989年に初めて拘束されて以降、1989年から1993年、そして2007年の「サフラン」デモを支持した結果、2007年には1カ月間拘束された。さらに2009年5月には、2008年にビルマを襲ったサイクロン「ナルギス」への政府の対応を批判したことで当局に逮捕され、電子取引法違反で59年の刑を宣告されている(後に35年に減刑された)。

1988年の民主化蜂起のリーダーのひとりミンコーナイン氏は1989年から2004年まで投獄され、その刑期の大半を独房で過ごした。その後も2006年後半に数カ月間再度身柄を拘束された。その後、2007年8月、物価値上げに対する抗議運動を主導したという理由で警察に逮捕され、その後4年以上たつ今も拘束されたままだ。ミンコーナイン氏と35人の仲間は、65年の刑を宣告されたのである。

ビルマ政府は、2010年に20年ぶりに総選挙を行った。これを受けて今年3月に新政権を成立させて「民政移管」したとしている。今回の釈放も、「民政移管」した後の「改革」を国際社会に演出したい狙いがあるのだろう。

しかし、2010年の選挙は自由でも公正でもなく(2010年総選挙の問題点についてはこちら)、この選挙の基盤となった2008年憲法も、議会の上下両院の議席の4分の1を現役軍人に指名するなどのさまざまな重大な問題点を含み、軍政支配を制度化する内容となっている(2008年憲法の問題点についてはこちら)。

今年3月成立した現ビルマ政権が、真に過去の政権とは異なるかどうかの試金石は、残りの政治犯を釈放するかどうかに加えて、今後、自分の考えを表明し、政府や軍を批判した国民を投獄するのをやめるかどうか、であろう。

さらに、ビルマ政権が意味のある改革を行うためには、少なくとも以下の行動をとる必要がある。

  • 表現・結社・集会の自由など国際的に承認された権利を制限する法律を全廃し、治安部隊に対し、非暴力活動への参加を理由にした逮捕を止めるよう命ずること
  • 2011年末に予定される補欠選挙より前に政治改革を始めること。具体的には、政党登録法を改正し、国民民主連盟(NLD)など野党に対し、投獄経験者への規制のない、完全な政治参加を保証すること
  • 民族紛争地域での軍による人権侵害行為(超法規的処刑、民間人への攻撃、拷問、強制労働など)の停止に向けた必要な措置を講ずること。また人道団体や人権監視団体に対し紛争地域へのアクセスを許可すること

政治犯釈放は、ビルマでの人権尊重に向けた新たな段階の表れといえるかもしれない。だが政治囚の釈放だけがその尺度ではない。数十万人の国内避難民や国外難民を出している民族紛争地域で今も続く国軍による人権侵害を停止することもまた、ラングーンのような都市部での規制を緩和することと同様に重要である。日本政府を含む国際社会は、ビルマで起きている変化が本物の変化となるよう、強い働きかけを続けなくてはならない。

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