In the Ituri district of war-torn eastern Democratic Republic of Congo, community members watch the opening of the International Criminal Court’s first trial—that of Congolese militia leader Thomas Lubanga Dyilo—in January 2009.

© 2009 Marcus Bleasdale/VII

(ブリュッセル)-国際刑事裁判所(ICC)の検察官はこれまで成果もあげたとはいえ、「法の正義」実現は危機にあると言える、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で述べた。年末までには次期検察官が指名されるほか、新たにリビアの事態が付託された現在、ICC検察官は今こそ、捜査及び訴追の不足の問題を解決し、更なる事件化を目指すべきだ。

報告書「未解決課題:ICCの事件選択における問題 解決に向けて」(全50ページ)は、ICC検察官事務所が最初に取り上げた捜査5件の選択方針について検証・評価した報告書である。中央アフリカ、スーダンのダルフール地方、コンゴ民主共和国、ケニア、ウガンダ北部での捜査は、訴追数10件、公判数3件の成果を上げ、世界最悪の犯罪に関する不処罰問題の取り組みとして、一定の重要な貢献をもたらした。しかしこうした成果が、不安を抱く被害者や被害地域社会の共感を呼ぶに至るには、まだ遠く及ばない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのインターナショナル・ジャスティス・プログラム上級カウンセルであるエリザベス・イベンソンは、「ICC発足後の最初の捜査となるこれらの事案を選択するに際し、検察官は、重要な加害者と犯罪を避けることが多すぎた」と指摘。「コンゴからダルフールに至るまで、これらの国々でICCの使命を果たすにあたり、検察官は事件選択の方針を改善する必要がある。」

本報告書はヒューマン・ライツ・ウォッチの有する国別の専門性と、ICCについての過去8年にわたる綿密なモニタリングを基に作成された。ICCは、そのマンデートの意義ある遂行に向け、政府関係者を含む「最も重大な犯罪に最も責任のある個人」を裁判にかけるべきだ。事件の選択の際、根本的に重要なのは、ICCの中立性と公平性の保持である。

コンゴとウガンダの事案について、ICCの捜査は、反政府勢力に狙いを定め、重大な人権侵害疑惑のかけられた政府高官や軍の訴追をしなかった。政府関係の訴追がないこと(あるいはなぜ政府関係者を訴追しないのかについての明確かつ公的な説明がないこと)は、あまりに多くの被害者の目に「法の正義」が実現されなかったとうつった。同時に、ICCは中立で公平という認識も損なわれた。

中央アフリカでの捜査と、ダルフールでのスーダン政府による残虐行為の捜査で、ICCが訴追に向けて狙いを定めた指導者は、わずか1名に過ぎない。最も責任ある個人に対する法の裁きを確保することがICCマンデートにおける主要指標であるのに、それがわずか1件の訴追で満たされるはずもない。

前出のイベンソンは、「ICC検察が行なった難しい選択は、厳しい批判と検証にさらされる。そうであればこそさらに、ICCの中立性と信頼性を向上させることがなおさら重要となる」と述べる。「捜査に効果的かつ一貫性のある戦略を打ち出せなかったため、検察官はあまりに頻繁に落胆をさそった。」

近時のケニアにおける捜査は、過去の事例に比較して改善がみられる。検察官は、同国で2007年~08年にかけて起きた選挙後の争いで、加害者と目される個人を両陣営とも訴追するよう努めている。これは、敵対する民兵組織指導者に対するICCの訴追の遅れと一貫性欠如ゆえ、民族間の緊張を悪化させた可能性があるコンゴのイトゥリ地方におけるICCの対応と、際立った違いを示している。とはいえケニアでも、警察の人権侵害と西部エルゴン山域で起きた犯罪に対するアカウンタビリティ(責任追及・事実解明)を前進させるため、ICCによる一層の捜査が必要とされている。

次期ICC検察官選出などのため、ICC締約国は今年12月に締約国会合を開く予定だ。新検察官は2012年半ばに就任すると見込まれる。これを受けてヒューマン・ライツ・ウォッチは、検察官事務所に対し、より効果的な案件選択方針を実施するよう求めた。

ICCの業務量増大は新たな課題となることだろう。今年3月、ICC検察官は、国連安保理の全会一致による付託を受け、リビアの事態の捜査を開始している。ICCによる国内捜査も含め、同裁判所を資金的に支えるのは締約国である。

前出のイベンソンは、「リビアで意味ある法の裁きを実現するため、バンギ(中央アフリカの首都)やブニア(コンゴ・イトゥリ地方の都市)などの被害地域の人びとに対し、ICCの責務の遂行が中途半端になるということがあってはならない」と指摘。「すでにICCに係属している事案と新たな事案の両方をしっかり遂行するためにリソースが必要だ。締約国は、ICCがそうしたリソースを確保できるようにしなくてはならない。」

背景

ICCは、当該国の裁判所にその捜査または訴追を真に行う意思または能力がない場合に、戦争犯罪、人道に対する罪、集団殺害犯罪(ジェノサイド)の被疑者を裁くマンデートを持った世界初の常設裁判所。ICC条約はローマ規程として知られ、ローマ会議で120カ国が同条約を採択。そのわずか4年後の2002年、ローマ規程は発効した。

ICCの管轄権には3つの種類がある。締約国または国連安保理が、「事態(一連の具体的な事件の意味)」をICC検察官に付託する方法の他に、ICC検察官がICCの予審法廷に対し、捜査開始の承認の申立を行なうこともできる。

コンゴ民主共和国、ウガンダ北部、スーダンのダルフール地方、中央アフリカ、ケニア、リビアでの捜査に加えて、検察官事務所はアフガニスタン、コロンビア、グルジア、ギニア、ホンジュラス、ナイジェリア、韓国における事態にも注目している。また、パレスチナ自治政府はICC検察官に対し、ガザ地区で行われた犯罪についてのICCの管轄権を受け入れると申し立てている。2011年6月には、コートジボワールにおける捜査開始の承認を検察官がICCに申し立てたが、決定はまだ言い渡されていない。

現在まで5名がハーグのICC拘置所に収監されており、ケニアに関する事件の被疑者6名が予審手続に自ら出頭した。ダルフールのアフリカ連合平和維持部隊への攻撃に関連して戦争犯罪で訴追されているその他3名も、予審手続の期間中に自ら出頭したとされる(ただし、ICC裁判官は1名については起訴を確実にはしていない)。コンゴの北・南キブ州でのICC捜査に基づく予審手続きは現在進行中である。

コンゴ民兵組織指導者トーマス・ルバンガ・ディロ(Thomas Lubanga Dyilo)に対する公判の最終弁論が今年8月に行われた。コンゴ反政府軍指導者ジャーマイン・カタンガ(Germain Katanga)とマチュー・ングジョロ・キュイ(Mathieu Ngudjolo Chui)、中央アフリカで行った犯罪で訴追されているコンゴ国籍の元副大統領ジャン=ピエール・ベンバ・ゴンボ(Jean-Pierre Bemba Gombo)の公判は継続中だ。

ダルフールでの事態に関連して指名手配されているスーダンのオマル・アル=バシール大統領他2名は今も自由の身のままであり、リビアにおける人道に対する罪で逮捕状が出ている元リビア指導者ムアンマル・カダフィ大佐他2名も同様だ。ウガンダ北部の神の抵抗軍(Lord's Resistance Army)指導者たちと、今はコンゴ国軍将軍となっている反政府武装勢力の元指導者ボスコ・ンタガンダ(Bosco Ntaganda)に対する逮捕状も未執行のままである。

ICCのルイス・モレノ=オカンポ検察官は、2003年に9年の任期で選出された。ICC締約国は今年12月に次期検察官を選出する予定で、新検察官は2012年半ばに就任の見込み。ヒューマン・ライツ・ウォッチやその他のNGOは、新検察官の任命が、その実力・功績に基づいて行なわれるよう締約国に強く求めている。