Displaced people and Somali Transitional Government forces in Dhobley, Somalia, July 2011

© 2010 AP Photo/Schalk van Zuydam

 (ナイロビ)−ソマリアでの武装紛争に関与する全陣営は重大な戦争法違反を犯しており、その結果、同国の人道危機が破滅的なレベルになっている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で述べた。すべての戦争当事者は民間人への人権侵害を直ちに止め、人権侵害を行った者の責任を問い、紛争と干ばつから逃れようとする人びとの援助へのアクセスと移動の自由を保証しなければならない。

 報告書「紛争の全当事者から被害を受ける民間人:ソマリアでの戦争犯罪」(全58ページ)は、20年間続くソマリア紛争の中で、特に昨年の新たな戦闘において紛争の全当事者が犯した膨大な数の人権侵害を取りまとめている。イスラム主義武装勢力アル・シャバーブ(al-Shabaab)、ソマリア暫定連邦政府(TFG)、アフリカ連合平和維持部隊(以下AMISOM)、ケニアとエチオピアが支援しているソマリア民兵組織などが紛争の当事者である。報告書は更に、隣国ケニアにいるソマリア難民に対する、ケニア警察による人権侵害と犯罪集団による犯罪も検証している。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチのアフリカ局長ダニエル・ベケレは「アル・シャバーブと親政府勢力による人権侵害が、ソマリア民衆の飢饉の苦しみを著しく増大させている」と語る。「全陣営が違法な攻撃を止め、海外援助を受け入れるなど、この人道上の悪夢を終わらせるために緊急に措置を取る必要がある。」

 最近ケニアにたどり着いたソマリア難民や、その他消息筋への聞き取り調査を基に作成された本報告書は、2010年9月以降TFGがアル・シャバーブに対して行った2度の大規模攻撃を検証している。戦闘の影響をもろに受けたのは民間人である、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

 首都モガディシオで、紛争の全当事者が民間人に犠牲者をもたらす違法な方法の砲撃に手を染めた。アル・シャバーブは人口密集地帯から無差別に迫撃砲を発射し、これに対しTFGとAMISOMが頻繁に無差別な反撃を行った。結果として、民間人は何処に逃げるかわからない状況に陥った。アル・シャバーブがモガディシオから撤退したと伝えられたことから、絶え間なく戦闘が続く首都に暮らす民間人にはいくらかの安堵感が漂っているものの、無差別砲撃を止めるための断固とした措置が取られない限り、将来人権侵害が再発する可能性は高い。

 「両側とも市民に危害を与えないなんて考えてないの」とモガディシオから逃げて来た女性は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに話した。「朝ごはんを一緒に食べた人が午後には迫撃砲で殺されてる、なんて事もあるのよ。」

 アル・シャバーブが支配する地域で無慈悲な弾圧と残虐行為が日常的に行われている、ともソマリア人たちはヒューマン・ライツ・ウォッチに説明した。過激派の人権侵害的な法律に違反した者、あるいは裏切りの疑いを掛けられた者は通常、悪名高いムチ打ちや公開の斬首を含む即決処刑などの厳しい刑罰に処せられる。アル・シャバーブは子どもも大人も強制的に部隊に入れる。支配下の住民たちの食糧や水などの人道援助の必要性が極めて高いのに、これを拒否し、人びとがより安全な地域へ逃げるのを妨げている。

 一方のTFGは、支配下においている僅かな地域にさえ、基本的な安全と人権保護を概して提供しなかったと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べる。TFG及びTFGと同盟関係にある民兵組織は、恣意的逮捕・拘禁、言論及び集会の自由への制約、民間人を傷つける無差別攻撃など、重大な人権侵害を蔓延させた。

 ソマリアへの外部勢力による関与は多くの場合逆効果であり、安全保障上の脅威が逆に継続する結果をもたらしてきた。米国、欧州連合、国連は、人権侵害を抑制するようTFGの指導者たちに圧力を掛ける実効性ある努力をする事もなく、万然とTFGに対する援助を提供している。TFGの任期が僅か1年しか残されていないのを踏まえ、国際的なTFG支援国・機関は、支援にあたり、アカウンタビリティ(法的責任)の改善を含む人権保護に関する明確な基準を確立し、これを達成すべきだ。暫定政府がこれらの最低限の目標を達成しない場合、他国政府や国連はその支援を再検討するべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

 AMISOMはここ数ヶ月、軍事作戦の際の民間人犠牲者の発生を減少させるべく複数の手段を講じて来た。しかし、部隊による重大な違反行為は後を絶たず、しかも、違反行為を行った兵士はほとんど責任を問われていない。

 エチオピア政府とケニア政府は、2011年のソマリア南部での軍事作戦に軍を派遣しており、紛争当事国である。両国はTFG派の民兵組織に軍事援助も提供している。しかしながらエチオピアもケニアも、自国部隊あるいは支援する民兵組織による人権侵害に対して、アカウンタビリティ(法的責任)を問う行動は取っていない。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチは、全陣営による紛争勃発当初からの人権侵害と戦争法違反を調査する国連の事実調査委員会(UN commission of inquiry)の設立を改めて求めるとともに、アカウンタビリティ(法的責任)のための基礎作りをするよう再び求めた。ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、ソマリア紛争における全勢力に対して、民間人保護、とりわけ攻撃の際の民間人保護を目的とする基本的方策順守のため具体的措置を取るよう、そして人道的支援を常時許可することを保証するよう強く要求した。

 「ソマリアの悲劇を即解決する方法はないが、重大な人権侵害が不処罰のままである事が危険な状況を永続化させているのは明らかだ」と前出のベケレは語る。「紛争に関与する全陣営による人権侵害を止めさせるための国際的圧力が、これまで以上に重要になっている。より安全でより人権を尊重するソマリアが、暴力と飢饉に苦しまないソマリアを生むだろう。」

 戦闘の拡大ゆえ、モガディシオ及び国境地帯の多くの住民が避難を余儀なくされている。ソマリアの「ジュバランド(Jubaland)」と呼ばれているケニアとの国境沿いの地域が特に大きな影響を被っている。ケニア政府がこの地域を、同国領土とアル・シャバーブ支配地域の間での緩衝地帯に転換する事を望んでいるのを表明したからである。ケニア政府の閣僚たちは当該地域を安全であると主張し、ケニア側ではなくこのソマリア内の「緩衝地帯」の中でソマリア難民を援助するよう求めてきた。しかしながら、当該地域は未だ著しく危険で不安定な状態のままである。

 ケニアは長きにわたりソマリア人難民数十万人を受け入れており、昨年その負担は大きく増大した。2011年には、戦闘と干ばつにより、数十万のソマリア人が避難民化しており、うち10万人以上が国境を越えてケニアに入国している。

 ソマリア難民はケニアで重大な困難に直面している、とヒューマン・ライツ・ウォッチは言う。ダダーブ(Dadaab)難民キャンプまでの旅は危険である。ヒューマン・ライツ・ウォッチが2010年以来行っている調査は、難民たちが、警察による恐喝と暴力、恣意的逮捕と拘禁、ソマリアへの違法な強制送還などの被害に遭っていることを明らかにした。強制送還は2011年になっても続いている。難民たちはヒューマン・ライツ・ウォッチに、ケニア警察に見つからないように危険な裏道を辿ったが、その道で犯罪集団による強盗やレイプに遭ったと話した。

 7月24日現在、当初9万人収容予定で建設されたダダーブ難民キャンプは、39万人の難民登録者を受け入れている。最近到着したソマリア難民はキャンプ内で、過密かつ非人間的な生活環境におかれており、また、最低限の援助のための登録さえも遅れている。

 国際援助を行う各国政府はケニア政府への支援を著しく増大した。そのケニア政府に対してヒューマン・ライツ・ウォッチは、現存する未使用の難民キャンプへ難民が直ちに移転するのを認めると共に、難民キャンプ設営のために更に土地を調達するよう強く求めた。Ifo 2キャンプは空いており、4万人の難民を受け入れる準備が2010年11月以降

整っている。難民30万人を収容可能なIfo 3キャンプやカンビオス(Kambios)キャンプを含め、政府は追加の土地に関する契約を結ぶべきだ。さらに、新たに到着した難民を登録して安全に難民キャンプへ送るため、国境近くの町リボイ(Liboi)に新しい難民審査施設を開設するよう、ヒューマン・ライツ・ウォッチは再びケニア政府に対して要請した。

 「私たちは国際社会に対し、ソマリア国内と同様にケニアやエチオピアにいる難民にも援助を提供するよう働きかける」とベケレは語る。「ソマリアの隣国は、保護を求めてソマリアから逃げて来た全ての人びとの権利を尊重する必要がある。」

  

報告書紛争の全当事者から被害を受ける民間人:ソマリアでの戦争犯罪」からの証言の抜粋:

 無差別砲撃から逃げて来たモガディシオ出身の女性(37歳):

「両側とも市民に危害を与えないなんて考えてないの。朝ごはんを一緒に食べた人が午後には迫撃砲で殺されてる、なんて事もあるのよ。アル・シャバーブは居住地区から武器を発射するのが好きなの。相手が同じ場所に撃ち返してくる事を承知しながらね。でも発射したらアル・シャバーブはすぐ逃げる。そしてTFGとAMISOMは、攻撃する場所に民間人がいようといまいと気にしない。誰を責めれば良いか分からないわ。市民の中に隠れているアル・シャバーブを責めれば良いの?それとも攻撃された所に撃ち返す政府を責めれば良いの?」

 夫がアル・シャバーブに拘束されていたモガディシオ出身の女性(40歳):

あの人たちから電話が来たんです。「夫は我々の手にある。彼は異教徒だろ?」って。私は「夫はイスラム教徒です」って答えました。そうしたらあの人たち、「彼は異教徒だから我々は殺すつもりだ」って言いました。夫が逮捕されて2後、あの人たちからまた電話がかかって来ました。今度は、夫も私も異教徒、子どもたちも異教徒だって、用心しとけって…。あの人たちの脅しがまだ耳の中で聞こえます。

 アル・シャバーブが支配する地域から逃げて来たサコフ(Sakoh)出身の若い男性:

家畜は全部死んだ。ラクダもヤギも牛ももう一頭もいないし、人だって死に始めてる。援助団体が食糧を運んでくるのを、アル・シャバーブが許さないから食糧もなかった。「不信心者の食糧はいらない」ってヤツラは言うんだ。

 ダダーブに行く途中で襲撃に遭ったドビリー(Dhobley)出身の高齢女性:

わたしゃ3前に(車で)ドビリーを出たんだよ。途中で強盗に遭ってね。私ら40人くらいで、相手はライフル銃を持った男10人だった。私らの首に銃を突きつけたんだ。他に10人が茂みの中にいたよ。男と女が分けられて、携帯電話と金、持ち物全部を渡すよう言われた。若い女が何人かレイプされた…、6人くらいだったかね。わたしは銃を首に突き付けられて金と携帯電話を盗られただけだよ、年を取ってるもんだから、レイプはされなかった。

 TFGと同盟関係にある民兵組織アル・スッナー・ワル・ジャマー(Ahlu Sunna Waj-Jama’a)による恣意的拘束に遭った中年男性:

私自身、(アル・スッナー・ワル・ジャマー)当局者に逮捕されて略奪に遭いました。ブラハウォ(BulaHawo)の町の中心部あたりで座ってたら、爆発が起きたんです。TFG政府の車が地雷で壊されました。すぐ(アル・スッナー・ワル・ジャマーの)兵士が町に入って来て、やみくもに発砲し始めたんです。私たちはみな集められ、警察署に連行されました。監房に連れて行かれる間に、兵士たちに携帯電話と7000 ケニアシリングのお金を盗られたんです。

 私たち500名が逮捕されました。警察署の壁に囲まれた敷地の中に閉じ込められたんですが、一部は監房に入れられました。女の人も逮捕され、別に拘束されてました。小さな子どもを連れていた人もいました。逮捕された日に女の人と子どもは釈放されたんですが、男の人は2間拘束されました。

 釈放された後、TFG政府の市民集会があったんです。ケニアに行くか、エチオピアに行くか、アル・シャバーブに入るか、3つのうち1つをするようにと言われました。「ここでまた何かが起こったら、あなたたちは責任を問われ、私たちはあなたたちを殺す事になるでしょう」と(地域の役人は)言いました。市民集会が開かれた次の日、私たちはそこでの生活は続けられないと考え、去る事を決意したんです。