Skip to main content
寄付をする

(ミラノ)-北大西洋条約機構(NATO)及びその加盟国は、リビアを脱出した避難民を満載していた故障船を救助しなかった疑惑に対し、徹底的な調査を行うべきである、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。乳幼児2人を含む72人を乗せた船は、救難信号が発せられ、軍用ヘリ及び空母と思われる艦船による目撃があったにもかかわらず、2011年4月10日にリビアに再上陸するまでの2週間、地中海を漂流していたとみられる。生存者は9人のみである、とそのうちの1人がヒューマン・ライツ・ウォッチに伝えた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、生存者及び遭難船の人たちと電話で連絡を取っていたローマの聖職者から、聞き取り調査を行った。

「これらの人びとの死を防ぐためにNATOに何が出来たか」とヒューマン・ライツ・ウォッチ上級欧州調査員ジュディス・サンダーランドは語る。「この痛ましい事件は避けることが可能だったのか、可能だとしたら何をすればよかったのか。その判断のために、調査が必要だ。」

救援活動が可能だったにも拘らず、遭難船に乗っている人びとを救助しなかった場合、それは重大な国際法違反となる、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘。欧州評議会議員会議議長は5月9日に、「直ちに徹底的な」調査を行うよう求めた。

NATOは、海で遭難した移民を無視したのではなく、船の窮状に気付いていなかったのだと反論している。NATO の在ブリュッセル広報担当官は、NATO は事件を適切に調べたが、当該船と何らかの連絡を取った記録はなく、これ以上の調査は考えていない、とヒューマン・ライツ・ウォッチに伝えてきている。しかし、事件記録を調べることは第一ステップに過ぎず、その他にも、事件の時にその海域におり、ナポリのNATO軍司令部指揮下にあったや船の関係乗組員に対する聞き取り調査など、より徹底的な調査を行うべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べる。

エチオピア、エリトリア、ガーナ、ナイジェリア、スーダンなどの、自国民がこの漂流船に乗船していた国々及びアフリカ連合は、NATOと欧州諸国政府に、この事件に対して直ちに包括的な調査を行うよう働きかけるべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応じた、アブ(Abu)という名のエチオピア人の男性生存者は、全長11mの船は72人を乗せて3月25日にリビアを出航したと話した。出航後19時間ほどして、燃料が残り少なくなり、乗船者はローマにいるエリトリア人聖職者であるモーゼス・ゼライ(Moses Zerai)神父に助けを求める電話をしたと彼は言った。

別途聞き取りを行ったところ、難民の権利団体アッジェンツィーア・アベシア(Agenzia Habeshia)を運営しているゼライ神父は、困窮した乗船者から電話を受けたことを認めた。ヒューマン・ライツ・ウォッチに、イタリア沿岸警備隊とナポリのNATO 司令部の両方に直ちに緊急事態を伝えた、と彼は話した。イタリア沿岸警備隊は、ガーディアン紙(The Guardian)に対し、当該海域にいる全ての船舶に警報を出したことを認めている。しかし、NATO広報担当官は、ナポリのNATO司令部に送られたいかなる要請をも、NATOは認識していないと述べている。

前出のアブはトリポリからヒューマン・ライツ・ウォッチに電話をし、ゼライ神父への電話の後に、機体に英語で「軍(Army)」と書かれた1機のヘリコプターが船の上空で停止し、水とビスケットを落としてくれた、と話した。ガーナ人船長は、ヘリコプターが救助隊を送ってくれると信じ、同海域に留まることを決断し、残りの燃料を使い切った、と彼は言った。また、乗船者たちは1隻の航空母艦を見つけ、乳幼児2人を掲げたり大きく手を振るなどして、遭難していることを伝えようとした、とアブは語った。ジェット機2機が空母から飛び立ち、船の上空を飛んで行ったが、何の助けも来なかった、とアブは話した。

目撃された航空母艦は、おそらくフランス艦船のシャルル・ド・ゴール(Charles de Gaulle)であろうと、ガーディアン紙は5月8日に述べている。フランス海軍当局は当初、当該空母がその時に同海域にいたことを否定していたが、その後、同新聞に対して更なるコメントを差し控えている。あるNATO広報担当官は、NATOにはその事件に関する記録が全くなく、「NATO艦船は海上からの全ての救難信号に応え、常時必要ならば助けを提供する。人命救助はどのNATO艦船にとっても優先事項である 」と述べた、とガーディアン紙に引用されている。NATO指揮下になく、同海域で運航していた、他のNATO加盟国海軍艦船が存在していたかどうかについては不明である。

NATOは声明を出し、問題の期間にその海域でNATO指揮下にあった空母はイタリアン・ガリバルディ(Italian Garibaldi)だけであったと示唆し、同船は100海里離れた海で運航中であった、としている。「NATO航空母艦が、遭難している船を発見した後、それを無視したという、全ての主張は誤りである」と NATOは述べた。ブリュッセルの広報担当官はヒューマン・ライツ・ウォッチに、3月26日及び27日の夜間、NATO艦船は遭難船2隻に対し、食糧と水を提供するとともにイタリア沿岸警備隊に通報し、その結果、遭難船が救出されたと述べている。

船は、海流がリビアに押し戻すまでの2週間漂流した、とアブはヒューマン・ライツ・ウォッチに話した。乗船していた女性20人全員と子ども2人を含む61人が、海上で死亡したと彼は言った。リビアに到着後間もなく男性1人も死亡した。

リビア政府当局は、残った生存者10人を数日間拘束し、拘束中に男性1人が死亡した、と生存者はヒューマン・ライツ・ウォッチとガーディアン紙に伝えた。生存者9名はまだトリポリにいて、地元のカトリック教会の支援でチュニジアへ渡ることを希望している。

4月初旬、国連の難民機関であるUNHCR は、地中海を航行中の全船舶に対し、リビアを離れる過密状態の船は、全て遭難船であるとみなすよう求めている。地中海NATO海上作戦司令部少将は4月初旬に、海路でリビアを脱出しようとしている避難民を救出するために、警戒と尽力を高めるよう求める具体的な秘密指令を発した、とNATO広報担当官はヒューマン・ライツ・ウォッチに述べた。NATO指令は、遭難船に直ちに医薬品・食糧・水の支援を提供し、管轄沿岸警備隊に警報を出し、救出作戦が開始されるのを確認するために待機する、というものであると広報担当官は述べた。

サハラ以南のアフリカ人数百人が、3月末以降、海路でリビアを脱出する際に死亡している。5月7日にはリビア沿岸で600人以上を乗せた船が沈没し、死亡者の数は未だ不明である。4月6日にも、マルタ海域で船が沈没し、子どもを含む200人以上が死亡している。

それ以外にも、船でリビアを脱出した800人もの人びとが、過去6から8週間の間に行方不明あるいは死亡したと見られている。

「死者数は増大している。NATO軍や加盟国軍を含む、地中海にいる全船舶は、船が沈没するまで介入を遅延してはならない」と前出のサンダーランドは語った。「過密かつ危険な船に乗って海を渡ろうとしている人びとが増えていることから、同海域にいる全ての船舶は、過密状態の移民船は遭難船であると推測し、直ちに救出に向かい、乗船者の安全を確保しなければならない。」

リビアから海路で脱出する人びとの最初の急増が始まった3月下旬以降、1万人以上がイタリアに、そして1千人以上がマルタに到着している。その大多数はサハラ以南のアフリカ人である。陸路で隣国へ脱出できない数千人の移民が、今もリビアに閉じ込められたままである。

4月14日に国際移住機関(IOM)が、リビアのミスラタ(Misrata)から同国東部の反政府勢力支配下にある都市ベンガジ(Benghazi)へ、船による避難民移送を開始した。リビア政府軍はミスラタ港に繰り返し砲撃するとともに、港の入り口に機雷を敷設したと伝えられている。

目撃者たちはヒューマン・ライツ・ウォッチに、5月4日のミスラタ港への激しい攻撃は、IOMの船からの人道救援物資の荷降ろしと取り残されている移民の避難を妨害したと話している。正午頃、1発のグラッドロケット弾が、ナイジェリア人4人を殺害し12人以上に負傷させた。殺害されたのはデブキン・エゼ(Debkin Eze、1歳6ヵ月)とスジズ・エゼ(Suzis Eze、8ヶ月)の兄妹、エムラギー・オゲム(Emragy Ogem、30歳)とマリアン・オゲム(Marian Ogem、35歳)の家族だった。デブキンとスジズの母親で、妊娠3ヶ月であったフェイバー・アエナ(Favour Ayena、30歳)は、ロケット弾の破片で肩・腕・右足に負傷し、右足は膝から下の切断を余儀なくすることとなった。

5月5日遅く、親カダフィ部隊は、グラッドロケット弾によって運ばれた対車両地雷をミスラタ港地域にばら撒いたと、目撃者たちが話した。これは、ロケット弾と地雷の残骸の検査で確認されている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、地雷が中国製84型拡散可能対車両用地雷であることを確認した。港警備員2人が乗っていたトラックが地雷を踏み、負傷している。その警備員の1人ファイサル・エル・マフロウギ(Faisal El Mahrougi、32歳)は、片足骨折と、腹部と胸部への切り傷、手足への3度の火傷、手足軟部組織への重度の損傷を負っている。

サハラ以南の移民たちは、2月下旬と3月初旬に、反乱勢力支配下のリビア東部でも怒り狂った暴徒による襲撃を受け、数千人がエジプトへの脱出を余儀なくされている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。2月中旬に反政府軍がベンガジやその他東部の街から政府治安部隊を追い出した後、リビア人は街の外にある居住区、街の共同住宅、街頭にいる外国人を襲撃するとともに、外国人がエジプト国境に向かって逃げる際に検問所で強盗した。

欧州連合(EU)も、海上での死亡事故を防止するために、一層努力する必要がある、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。4月初旬、EUの外務大臣たちは、海路での避難を含む人道支援を行うため、欧州連合部隊リビア(Eufor Libya)を設立する事に合意した。しかし、これまで作戦は行われていない。

「イタリアやマルタが、海路でリビアから脱出してくる人びとの救援活動をして受け入れている。今後、リビアからの難民の大規模な流出の可能性に大変多くの懸念があるが、その様な人々びとの生命を危険にさらすことなく安全が確保されるのを支援するために、一層の努力が必要である」とサンダーランドは語った。「海上での死者をこれ以上出さないために、EU全体として固い団結を示すとともに、暴力によって閉じ込められた移民を欧州に避難させることを始めるべきである。」

GIVING TUESDAY MATCH EXTENDED:

Did you miss Giving Tuesday? Our special 3X match has been EXTENDED through Friday at midnight. Your gift will now go three times further to help HRW investigate violations, expose what's happening on the ground and push for change.