Workers continue to spend long periods waiting at embassy shelters, including the Philippines safe house, shown here. Since 1992, the Kuwaiti government has relied on deportation as the primary method for dealing with domestic workers who face employment-related problems. Workers reported spending weeks or months in official custody, moving from embassy shelters to police stations, and from there to criminal investigation facilities, before they were sent to deportation detention.

© 2010 Moises Saman/Magnum Photos

(クウェート・シティ) - 雇用主の虐待から逃れようとするクウェートの家事労働者たちは、「逃亡中」をもって刑事訴追される危険があり、雇用主の許可なしに仕事を変えることができない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で述べた。雇用主が移民の家事労働者に対し、給料差し止めや、無休の長時間強制労働を強いたり、食糧も満足に与えず、もしくは身体的・性的虐待を犯したりしても、移民家事労働者たちは、最小限の保護しか受けることができてきない。

報告書「クウェート:保証人制度下における移民家事労働者の搾取」(全97ページ)は、家事労働者たちが、搾取的で虐待的な労働をさせられている実態、そして、その後雇用主の許可なく仕事を辞めることで刑罰に直面しているかを説明している。政府当局は、「逃亡中」として届けられた労働者たちを逮捕し、たとえ虐待を受けて救済を求めている場合でも、ほとんどをクウェートから強制送還している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ中東局長のサラ・リー・ウィットソンは「クウェートでは、雇用主は非常に強い立場にある」と述べる。「虐待や搾取の被害を被る労働者たちが、逃げたり不満を訴えようとすれば、雇用主は法律上『逃亡』というかどで彼女らを簡単に捕まえ、強制送還することができる。政府は、労働者の運命を、雇用主の善意に丸投げしている。善意に欠ける雇用主に雇われた不運な労働者はただ見捨てるのみだ。」

クウェートでは、国民全体に対する家事労働者数の比率が中東で最も高い。2011年2月に保証人制度(kafala)を廃止すると2010年9月26日に発表。雇用主管理の制度から、政府管理の制度に変えるという。これは重要な改革である。しかし、クウェート政府は、国内の移民労働者の労働者保護も改善するのかどうか、あるいは、この改革が家事労働者にも適用されるのかなどの詳細を明らかにしていない。

クウェートの移民家事労働者は66万人以上。国民人口わずか130万人のこの小さな湾岸国で、労働力のほぼ3分の1を構成している。しかし、家事労働者は、労働者を保護する労働法の対象から除外されている。クウェートの国会議員たちは、民間セクターのための新しい労働法を2010年2月に成立させたが、同法は家事労働者を対象外としており、その排除を一層強化する結果となった。

「虐待的な雇用主から逃げることは違法であってはならない」と、クウェートの家事労働者向けに定期的なカウンセリングを行なっている匿名希望の活動家が述べた。「若い女性たちは時に、『あの家で私に何が起こったか分かる?彼らは私を叩いたの。唾をかけたの...。どうして私が訴追されるの?』と話している。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチが収集したデータによると、2009年に、スリランカ、インドネシア、フィリピン、エチオピアからの家事労働者が在クウェート大使館に申し立てた処遇に関する苦情は1万件以上に上っている。

保証人制度に対するクウェート政府の改革が進んでいる。この改革のなかで、クウェート政府は、雇用主の同意なしに仕事を変えることを違反行為の「逃亡」として見なすのでなく、合法とする措置を即時とるべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べる。また、政府は、権利を侵害した雇用主の下を離れる労働者の逮捕と強制送還を停止し、代わりに、緊急避難所や迅速な苦情対応機関を家事労働者たちに提供しなければならない。

ネパール出身の家事労働者ティリクマリ・プン(Tilkumari Pun)(23歳)は、13ヶ月間給料を支払われることなく働いた、とヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。心臓の手術を必要としている父親がいるネパールに戻りたい、と彼女は繰り返し雇用主に給料を求めた。結局彼女は、給料支払のアレンジを10ヶ月間も待ったあげく、警察に助けを求めた。しかし逆に警察は彼女を拘束。警察署で彼女は、「私は犯罪捜査部(Criminal Investigations Department=CID)に行かなくてはならなかったわ。ご主人と奥様(雇用主)は、私を告訴したの」といった。

報告書「クウェート:保証人制度下における移民家事労働者の搾取」は、家事労働者49人、彼らの出身国の在クウェート大使館代表、社会問題労働省と内務省の各代表を含むクウェート政府関係者の証言に基づいている。また、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、雇用主、地元の人権・市民社会活動家、弁護士、学者の聞き取り調査も行なっている。

証言した家事労働者たちは、賃金の不払い、休日取得の拒否、身体的あるいは性的暴行など、雇用主による様々な人権侵害に言及した。しかし、不服を申し立てることは実質的に不可能だと分かったという。

司法救済を求めても、保証人との交渉や訴訟の手続きが長時間かかり、混雑した大使館の避難施設で数週間あるいは何ヶ月も待たなくてはならないのが現実だ。雇用主による「逃亡中」の通報は、移民労働者の法的な在留資格を即時無効にする。そのため、彼女たちは救済申立の判断が出るのを待っている間、仕事をしに母国の実家に送金することを許されない。

「家事労働者は多くの場合、自分たちの給料で母国の家族を養っている。」と前出のウィットソンは語る。「多くの家事労働者たちが人権侵害の被害を受けている。そうした彼女たちが、その上に、労働や自由な移動を禁止され、混雑した避難施設に数ヶ月も待たせられるなど、あってはならない。」

労働法の保護の対象から除外されている家事労働者たちが未払い賃金を請求する法的手続きは、特に困難だ。外界から遮断された家庭の中でおきたことについての証拠を入手できる可能性は限られていることから、搾取や虐待を証明することは困難である。クウェートは、膨大な数の移民労働者を抱え、労働者の苦情で一番多いのが賃金関連であるにもかかわらず、迅速な手続きを行なう労働裁判所を有していない。移民家事労働者らは、自分たちの権利および選択肢に関して情報を得ることが少なく、訴訟手続きに長時間待たなければならない上、司法による正義を獲得できる可能性がわずかであることから、その多くが救済をあきらめている。

家事労働者たちが申し立てをしないと決めたとしても、出国まで長い間待たなければならない。ヒューマン・ライツ・ウォッチに証言した労働者のうち、仕事を辞めた後に元雇用主からパスポートを取り戻すことに成功した人はほとんどいない。雇用主は、労働者の出国を遅らせるために、パスポートを没収し、これを取引の材料として交渉に使用している。雇用主に「逃亡中」と登録された労働者は、虐待的な雇用主から逃がれた場合や契約上の義務を完了していた場合でも、政府機関が調査を行なって疑惑を晴らすまでの間、帰国を待たなくてはならない。

政府の強制送還収容所で証言したインドネシア人労働者ヌルW(Nur W.)は、2年間の雇用契約の終了時、雇用主が彼女の帰国許可を与えることを拒否し、彼女が逃げるときにはパスポートを返すことも拒否したと述べた。「私は大使館に行ったの」、と彼女は話す。「彼らは私の奥様(雇用主)に電話をかけたの。でも、パスポートを返すことをまだ拒否したわ。パスポートがなかったから、強制送還ということになってしまったの。」

「無給で働くことを強制されたり、食べ物を奪われたり、非人道的な扱いを受けた労働者たちが、拘禁施設に投獄されたり、強制送還されるようなことがあってはならない」と、前出のウィットソンは語る。「雇用主による虐待の申し立てを行なった労働者に対して、クウェート政府は避難施設を提供すべきだ。そして、虐待の被害者である女性労働者にさえ雇用主がつけ込むことができてしまう現在の法律制度を改善する必要がある。」

クウェート政府は家事労働者のために50台のベッドを備えた避難所を設けている。しかし、大使館は、警察が労働者に関するすべての容疑を晴らした場合にしか、彼女らをそこに送ることはできない。つまり、彼女たちは通常、政府の施設にたどりつく前に、大使館の避難所で長時間も待つことになる。ヒューマン・ライツ・ウォッチが訪れた政府の避難施設は、何百人もの家事労働者がこれらの避難所を必要としているにもかかわらず、定員以下で運営されていた。

「悪質な雇用主が家事労働者を搾取するとき、政府はこのような労働者たちを処罰してはならない」と、前出のウィットソンは述べる。「政府当局は、保証人制度(kafala)改革を何年にもわたって議論してきたが、紙の上だけではなく、労働者の権利を保護する対策を実際に実施するとるときが来たのだ。」