ヒューマン・ライツ・ウォッチとアメリカ自由人権協会(ACLU)が共同で発表したHIV陽性の受刑者に関する報告書が、ミシシッピー州とサウスカロライナ州で波紋を広げました。
HIV陽性の受刑者がこれまでに受けてきた差別と不当な扱いの実態を明らかにした同報告書。ミシシッピー州は、現在HIV陽性の受刑者をその他の受刑者から隔離しない措置に乗り出していて、今後もそうすると宣言。また、米司法省がサウスカロライナ州に、HIV陽性の受刑者の隔離措置を中止するよう命令。さもなくば法的措置をとる、としたのです。
これらの州の隔離政策で、HIV陽性の受刑者たちは多くの被害を受けていました。教育や就業の機会も与えられず、HIV陽性であることを示す腕章などの目印を身につけさせられ、食事や礼拝も他の受刑者とは隔離されてきました。こうした差別に終止符を打つことは、HIV陽性の受刑者たちの尊厳の回復と社会復帰に向けた第一歩となります。
ミシシッピー州とサウスカロライナ州では、何百人ものHIV陽性患者が、隔離政策の終了が実施されるのを待っています。
証言者の一人ローナ。彼女の刑務所での第一日目は、強制的なHIVテストで始まりました。テスト結果が陽性と出るやいやな、ローナは他の受刑者からのけ者扱いをされるようになります。そして、ローナ自身が直接家族にHIV陽性であることを伝える前に、他の受刑者経由で伝わってしまいました。
ローナはヒューマン・ライツ・ウォッチに、「(HIV陽性であることを)自分自身が飲み込めずにいるのに、皆がそれを知っていて、身内や友達に電話してしまうの」と語っています。「それで、身内から『お前がエイズで死にかけていると聞いた』って手紙をもうらうことになるのよ。」
ローナはその後、出所後の社会復帰を支援するプログラムに参加したいと申し出ましたが、HIV陽性を理由に拒否されました。
サウスカロライナ州とアラバマ州では、受刑者がHIV陽性の場合、それを示すバッジや腕章をつけなければなりません。食事や礼拝も別々です。証言者の一人はHIV陽性が判明したとたん、集団から隔離されたといいます。一日23時間も独房に入れられ、食事はドアについている専用口から与えられたということです。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査員メーガン・マックレモアは、何カ月にもわたって調査を行ないました。彼女にとっては、米国内刑務所でのHIV問題について調査は3回目。「これは政府主導の"汚名授与"みたいなものです。中には、90日、あるいは1、2年で出所の受刑者もいます。そして出所後に待ち受けるものは? HIV陽性の知らせに傷ついた身内、限られた仕事の機会、HIV陽性のらく印。どれも彼らの社会復帰に大きな影響を及ぼすものばかりです。」
ミシシッピー州では、ヒューマン・ライツ・ウォッチとアメリカ自由人権協会が、州刑務所長官のクリストファー・エップス氏などの関係者と会談。報告書結果を協議した後、長官がHIV陽性による隔離制度をやめる準備があると発表しました。
サウスカロライナ州とアラバマ州は、米国のなかで、HIV陽性の受刑者を隔離する最後の州です。ヒューマン・ライツ・ウォッチは引き続きこの2州に、米司法省の求めに従うよう働きかけていきます。加えて、刑務所内における良質な医療ケアの実現とHIV感染の予防という目標を達成すべく、ミシシッピー、サウスカロライナ、アラバマの州議員たちと協働しています。人間としての尊厳を奪われた「第2のローナ」が出ることのないように。