(ロンドン) - イラン司法権は、姦通罪で起訴された女性への投石刑の執行を停止すべきだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日こう述べた。サキネ・モハンマディー・アーシュティヤーニー(43)は2児の母で、以前「不義の関係」を理由に鞭打ち刑を受けているが、今回は「婚姻中の姦通」を理由に控訴審で有罪判決を受けた。投石による死刑が直ちに行われる可能性がある。
2006 年5月15日に、東アゼルバイジャン州の刑事裁判所は、夫の死亡後に2人の男性と「不義の関係」を持ったとしてアーシュティヤーニーを有罪とした。氏には鞭打ち刑が宣告され、99回の鞭打ちが行われた。2006年9月、アーシュティヤーニーの夫の殺害容疑で起訴された男性の殺人罪での公判中に、夫の死亡以前に起きたとされる事件に基づく姦通罪で別途公判が開かれ、アーシュティヤーニーは「婚姻中の姦通」で有罪とされた。裁判で、氏は捜査段階で行った自白を撤回。アーシュティヤーニーは、脅迫されて無理矢理自白させられたと主張し、現在に至るまで容疑を否認している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチで中東の女性の人権問題を調査するナディヤ・ハリフェは、「投石刑による死刑はつねに残酷かつ非人間的だ。とくに裁判官が証拠ではなく自らの直感に頼って被告を有罪とする裁判での適用は特に大問題だ」と、述べ、「イランは今回の執行はもちろん、すべての投石刑の執行を直ちに中止すべきだ。」と言う。
イラン刑法は、姦通罪を、男女双方にとっての「神に対する罪」とする。未婚の男女では鞭打ち100回だが、既婚者には投石による死刑もある。姦通罪の立証には、被告人が繰り返し自白を行うか、男性4人、または男性3人と女性2人が証言する必要がある。
しかしイラン刑法では、姦通罪などハッド刑(戒律に反する行動をとった個人への身体刑)に関して、直接的な証拠がない場合には裁判官が自らの「知識」を用いて被告が有罪かどうかを決定することができる。
アーシュティヤーニーの弁護人を務めるモハンマド・モスタファーイー弁護士は、自身のブログに最近行った投稿で、2回目の裁判では、担当した裁判官5人のうち2人がアーシュティヤーニーを無罪と判断したが、残りの3人の裁判官が自らの「知識」に基づき、姦通罪を認定したと述べた。アーシュティヤーニーは多数決により有罪とされたこととなる。
最高裁判所は、2007年5月27日、アーシュティヤーニーの死刑判決を認容。氏には法的な訴えを行う手段は残されておらず、司法権に寛大な措置を繰り返し求めているが聞き入れられていない。
モスタファーイーは数日前にブログ上に声明を発表し、依頼人であるアーシュティヤーニーがいつ処刑されてもおかしくない状態だとした。氏はタブリーズ刑務所に収監されている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの死刑に対する立場は、「残虐で非人道的で不可逆的な性質の刑罰であり、いかなる場合でも行われるべきでない」というものである。イランも批准する市民的及び政治的権利に関する国際規約は、死刑をいまだ存置する国々に対して、その使用を「最も重大な犯罪」に限るよう求めている。国連総会は全加盟国に対し、死刑執行のモラトリアム実施を呼びかけている。