1.      イラクのクルディスタン地方で最も一般的な女性の性器切除(FGM、女子割礼)方法はなんですか?

クルディスタン地方の医師たちによると、イラクのクルディスタン地方で最も一般的な性器切除(FGM)は、クリトリス及び/又は包皮の一部又は全部の切除です。「陰核切除」と言われています。WHOは女性性器切除を4つのタイプに分類していますが、このクリトリスと包皮の一部又は全部の切除は、そのうちのタイプ1に当たります。

医療関係者によると、WHOがタイプ2と分類するところの女性性器切除も、成人女性に対して病院で行なわれている、といいます。このタイプ2はタイプ1よりも切除部分が広く、クリトリスの一部または全切除にとどまりません。小陰唇のみならず、大陰唇が一緒に切除される場合もあります。

2.      女性性器切除(FGM)を、どう呼ぶのが一般的ですか?

イラクのクルド自治区では、広く「女子割礼」として言われています。クルド語では"xatena"で、これは男子の割礼にも使われる言葉です。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書「イラクのクルド自治区における女性の性器切除の実態」では、ほとんどの場合「女性性器切除(female circumcision)」という言葉を使用しています。報告書のなかで「女子割礼」や「 xatena 」という言葉も使用してはいますが、それは、クルディスタンの少女や女性、その他の人びとが、この慣習を指すのに実際に使う言葉だからです。しかし、健康上の弊害や、少女や女性の人権侵害の程度を表すのに最もふさわしい言葉は、「性器切除(female circumcision)」であると考えています。

3.      イラクのクルド自治区で、女性性器切除は、どのくらい行なわれているのですか?

クルディスタン地方の旧人権省が、521人の少女や女性を対象にチャムチャマル地区で行った小規模の調査によると、11〜24歳の対象者のうち、40.7%が性器切除を経験したと回答しました。

イラクの人権と女性の権利に取り組んでいる団体WADI(本部・ドイツ)は、より規模の大きい調査を実施しました。1408人の少女や女性を対象に、クルディスタン地方のアルビル、スレイマニア、そしてジャミアン/キルクーク地方で行われた調査の結果では、調査を受けた14〜19歳の女性のうち、57%が性器切除を受けていたことが分かりました。

これらの調査結果からも、クルディスタン地方で女性性器切除の慣習が一般に広く根付いていることが明らかです。

4.      クルディスタン地方以外でも、イラクで女性性器切除は行なわれていますか?

イラク国内にはクルド自治区(KAR)の外にも、クルド人コミュニティーが存在します。よって、イラク全土のクルド人コミュニティーでも女性に対する性器切除が広く行なわれているとみられています。また、クルド人以外のコミュニティーにも、女性に対する性器切除の慣習が存在するのではないかと考えられていますが、それを裏づけるデータは今のところありません。

5.      少女たちは、何歳で性器切除を受けるのが一般的ですか?

ヒューマン・ライツ・ウォッチが2009年にクルド自治区で行った聞き取り調査によると、3〜12歳の少女に切除をするのが一般的でした。

また、成人女性の中にも、自発的あるいは家族や社会から強要されて切除を受けた人が、数名存在しました。

6.      女性に対して性器切除(FGM)が行なわれている理由は何ですか?

クルディスタン地方で女性に対して性器切除(FGM)が行われているのは、社会・文化的理由と宗教的理由があります。ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応じた少女や女性たちの何人かも、「クルド人の文化的伝統で、クルド人のアイデンティティなんです」と語っていました。「切除を受けていない少女や女性は不浄とされて、食べ物や飲み物を扱わせてもらえない」と証言する人たちもいました。イスラム教の口伝律法であるスンナ(sunnah)では、宗教心を高める手段として切除が必要であるとされているものの、義務ではないと証言する人たちもいました。

7.      イラクのクルディスタン地方の聖職者(マラ、宗教指導者)はFGMを推奨していますか?

ヒューマン・ライツ・ウォッチが現場調査で収集した証拠によると、切除が宗教的な義務か否かについての聖職者の見解ははっきりとせず、聖職者によって矛盾した見解も示されています。よって、少女たちは、混乱する傾向にあるようです。ヒューマン・ライツ・ウォッチが聞き取り調査をしたところ、村の聖職者が切除を薦めているという少女たちもいれば、村の聖職者は健康に悪影響があるとして薦めていないという少女たちもいました。ヒューマン・ライツ・ウォッチが聞き取り調査を行なった聖職者たちは、スンナの教えと解釈されている慣習であっても、人体に弊害を及ぼすものは止めさせるのが務めだと述べました。

8.      クルディスタン地方の医療関係者は、女性に対する性器切除をどう考えていますか?

クルディスタン地方の医療関係者たちの見解は、統一されていません。ヒューマン・ライツ・ウォッチが聞き取りを行なった医療関係者の中でも、切除が身体に及ぼす影響に対する見解や理解は異なっていました。人体への悪影響なし、と考える人もあれば、切除による健康被害をかなり憂慮している人もいました。また、FGMの危険性を広く提起することが使命だと感じている人もいれば、FGMによる危険性を提起するのは自分の責任の範疇ではないと考えている人もいました。

9.      クルド自治区の学校は、女性に対する性器切除(FGM)などリプダクティブヘルス(生殖と健康)に関連する情報を、生徒たちに与えていますか?

クルディスタン地方の学校では、性教育はごくわずかしかなされていませんし、女性性器切除(FGM)については全く教えていません。カリキュラムでは、たった1ページしかリプロダクティブヘルスについて扱っていません。

私たちが聞き取り調査をした少女たちは、女性性器切除(FGM)について学校で習ったことはない、と話してくれました。少女たちは、学校で先生や友達とこの話をするのはとても恥ずかしいことなので話さない、と言います。また、学校が共学なので、こういう微妙な問題について話すのは難しい、とも少女たちは語ってくれました。

10.  イラク政府やクルド自治区政府がFGM問題に取り組むようにするためには、国際社会はどうすればいいのですか?

WHOは、女性性器切除(FGM)を「有害な伝統的慣習(harmful traditional practice)」であり、少女や女性の権利を侵害するものとしています。FGMは、医学的に不必要なばかりか、不可逆的で元に戻すことは不可能です。FGMは、少女たちを大変な苦痛に陥れるだけでなく、短期的にも長期的にも健康弊害を引き起こします。時に命にかかわることもあります。

イラクは、国際人権規約、国際社会権規約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約に署名しています。これらの条約すべてが、各国政府に対し、少女及び女性の健康への権利を守ることを義務付けています。そのほか、これらの条約は、各国政府に対し、少女や女性が、暴力を受けない権利、心身のインテグリティを保つ権利、差別や非人道的で残酷・非人道的な扱いを受けない権利を保障する義務を定めています。女性の性器切除(FGM)は、これらすべての権利を侵害します。

クルド自治区は、クルド地方政府が統治しています。しかし同時に、イラク政府の監督下にあります。よって、イラクが締結した国際条約や国際規約は、クルド自治政府下にある3つの行政区(アルビル、スレイマニア、ドフーク)でも効力を有しています。クルド自治区政府は、自治区内で行われるすべての人権侵害に責任を有しています。女性性器切除についても、もちろん責任があります。

11.  クルド自治政府は、クルディスタン地方で、女性の権利を保護してきましたか?

クルド自治政府は、これまで、女性の権利侵害(とくに家庭内暴力)をなくすため、様々な努力をしてきました。また、2002年には、家族の恥や不名誉を理由にした男性による女性家族の殺害(名誉殺人)を犯した男性に対する減刑を禁ずるクルド自治区の法律が成立。中東や北アフリカの多くの国では、名誉殺人を刑の免除や減刑の対象としたままです。しかし、クルド自治区は、この法律の成立により、これらの地域とは一線を画したと言えます。

2008年10月、クルド自治政府の内務省は、女性に対する暴力に取り組む専門組織(DCVW)を設置。主たる事務所が、アルビル、スレイマニア、ドフークにあり、小さな事務所も自治区内各地に設置されました。この事務所は、アウトリーチを行なうとともに、暴力被害を申立るホットライン設置したり、女性の虐待事件の捜査を行ないます。とはいえ、スタッフの技術・訓練不足や、安全性や秘密保持そしてカウンセリングの問題もあることから、現時点での捜査能力は限定的といえます。

女性性器切除問題(FGM)は、女性や子どもに対する暴力の一種です。この問題に対する取り組みは、クルド自治政府の優先課題とされるべきです。

12.  女性に対する性器切除(FGM)の撲滅に向けて、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、イラク政府やクルド自治区政府に、何を求めていますか?

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、イラク政府とイラク自治政府に対し、女性や少女の人権を保護する国際義務を果たすよう求めています。具体的には、関連政策や法制度のフレームワークを作り、正確な情報の普及に努め、女性性器切除禁止の世論を強めていくなど、女性の性器切除(FGM)の根絶を目指してステップを踏み出すことが肝要です。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、クルド自治区政府に対し、以下の3つの行動を即時にとるよう求めています。

  • クルド自治区議会に対し、あらゆる子どもに対する女性性器切除及び性器切除に同意しない成人女性に対する性器切除を禁止する法案を迅速に提出すること
  • 女性性器切除による健康被害について啓蒙する一大キャンペーンを、男性、女性、子ども、医療関係者、地域のリーダーたち、助産婦たちをターゲットにして行なうこと
  • 上述したすべてのグループを対象とした女性の性器切除根絶に向けた長期の戦略を作成すること

女性性器切除の根絶にむけて、クルド自治政府の援助国ができることは何ですか?

援助国の政府は、女性性器切除根絶に向けてクルド自治区政府を支援することが求められます。FGMという有害な伝統慣習の根絶に向けたクルド自治区政府のイニシアチブやNGOのプログラムを、長期にわたり十分に支援することが、クルド自治区に経済援助を行なっている各国政府に求められます。