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ブルンジ:容疑者への一般民衆による報復の横行 リンチの予防と処罰必要

政府関係者も共謀 暴力制裁エスカレート

(ブジュンブラ)-ヒューマン・ライツ・ウォッチ及びブルンジのNGO「人権と被拘禁者保護協会」(Association for the Protection of Human Rights and Detained Persons 、APRODH)は、本日発表した報告書で、アフリカ・ブルンジでおきた刑事事件の容疑者への一般民衆による暴力制裁の結果、2009年中に少なくとも75名が殺害されたと明らかにした。多くの場合、政府関係当局も、暴力を容認していた。ブルンジ政府は、こうした私的な暴力制裁に対する当局関係者の関与を禁止するとともに、暴力事件関係者の刑事責任を問うべきである。

本報告書「ブルンジにおける私的報復・リンチの横行:政府関係者の共謀、そして、不処罰の横行」(105ページ)では、一般民衆による刑事事件の容疑者のリンチ殺人や暴行に、時に当局関係者が直接関与している実態を明らかにしている。また、政府関係者は、適切な訓練も受けていない自警団の設立を手助けし、彼らが法すれすれのところで活動するのも容認し、もって、こうした私的な報復をエスカレートさせるなどしている。他にも、暴徒が容疑者を襲撃しているのを、政府関係者が傍観していた事案も複数あった。本報告書は7カ月にわたる現地調査を基に作成された報告書であり、この手の殺人事件が公式な捜査はもちろん、ましてや訴追に至ることはないに等しい実態を明らかにしている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアフリカ局長ジョージェット・ギャグノンは、「私的な暴力制裁に見て見ぬ振りの政府当局関係者があまりに多い。結果、一般民衆による暴力制裁がブルンジで横行するのを許してしまっている」と述べる。「しかし、国家には、市民の安全を守る義務がある。たとえ犯罪を行った疑いのある市民に対してであったとしても、国家の義務はかわらない。」

ブルンジの地方でも、報復・暴力制裁に当局が関与している。関与の仕方は多岐にわたっており、直接暴力に加担したと見られる事案もあれば、隠蔽工作に当局が関与したという事案などもあった。例えば、ブラザ(Buraza)では、ある地方議員が、窃盗容疑をかけられたシプリアン・ハボニマナ(Cyprien Habonimana)氏を暴行の末に殺害した上、共犯容疑をかけられた人物の拷問にも加わった疑惑がある。ムタホ(Mutaho)では、警察署長自身が「夜間に農場に泥棒が入った場合に農場主がこれを捕らえて殺害するのは合法」との考え方を、ヒューマン・ライツ・ウォッチとAPRODHに明らかにした。この警察署長は、報復殺人の首謀者らの身元が公けに明らかになっている場合でも、その捜査を行なうことは拒否する、とした。キニーインヤ(Kinyinya)では、行政官たちが、自転車泥棒の容疑をかけられた若者2人のリンチ殺人に関する情報を隠ぺい。警察による捜査を妨害した。

このような私的な暴力制裁事件に対する捜査や逮捕が行なわれるのはごく稀で、2010年2月現在、有罪判決の言い渡された事案はひとつもない。

一方で、警察などの政府関係者が、ときに多大な危険をおかしながら、群衆による私的な暴力制裁を止めようとした事案もある。たとえば、ギテラニーイ(Giteranyi)では、2,000人あまりの怒れる群衆の中、地元の政府関係者が、殺人事件の容疑者をオートバイに乗せて安全な場所に移送しようとした。ところが、群衆は、その政府関係者に向かって石を投げつけたことから、職務を放棄して逃げ出せざるを得なくなった。

ブルンジの首都ブジュンブラでは、警察によってリンチから助け出されたあるオートバイ泥棒の容疑者が、「警察がいなかったら、生きてあそこからは出られなかった」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。

本報告書で取り上げた昨年のリンチ殺人事件75件のうち、4分の1超の19件がルイーギ(Ruyigi)州で発生している。ルイーギ州以外に、一般私人による暴力制裁が横行している地域に、ンゴジ(Ngozi)、ブジュンブラ・マイリエ(Bujumbura Mairie)、ブジュンブラ・ルーラル(Bujumbura Rural)、ギテガ(Gitega)、ムーインガ(Muyinga)などがある。

ヒューマン・ライツ・ウォッチとAPRODHは、一般私人による暴力制裁が蔓延している要因に、人びとの警察と司法制度に対する信頼の欠如があることを指摘。いずれも汚職の蔓延と能力の低さ、そして、財源や人材などの不足などの問題を抱えている。多くのブルンジ人は、どんな容疑者も賄賂を払えば脱獄できると感じており、これが司法制度は無意味と感じる所以にもなっている。結果、深刻な人権侵害の発生につながっている。

APRODH代表ピエール・クラベール・ムボニンパ(Pierre Claver Mbonimpa)氏は、「犯罪の被害者となったブルンジ人は、警察や裁判所は自分たちを守ってくれないと思っている。だから、多くの場合、自力救済に頼る」と述べる。「このような私的な暴民制裁を終わらせるためには、警察と司法制度に対する市民の信頼回復にむけてブルンジ政府が早急に手を打つことこそが肝要だ。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチ及びAPRODHは、ブルンジ政府に対し、一般民衆による暴力制裁の責任者が処罰されず放置されている実態を改善するよう求めた。リンチにより人を殺傷した人びとは、一般の重大犯罪の犯人たちと同様に、刑事責任を問われるべきである。また、刑事司法制度に対するブルンジ市民の理解を高め、暴力制裁による自力救済を思いとどまるよう呼びかける啓蒙キャンペーンに、政府は大々的に取り組むべきであるとともに、一般民衆によるリンチ殺人の原因のひとつとなっている警察と司法の欠陥の解消に向けて乗り出すべきである。

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