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中国:強制送還されたウイグル族難民申請者に虐待の危機

カンボジア政府が、難民保護義務を無視

(ニューヨーク)-2009年12月19日、カンボジア政府は国際法の義務を無視して、ウイグル族難民申請者20名(男性17名、女性1名、子ども2名)を中国に強制送還した。中国政府はこれらのウイグル族の所在を直ちに明らかにするとともに、国連や弁護士、外交官、家族たちが面会するのを今すぐ認めるべきである、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

中国政府は、すでに長い間、ウイグル族に対する拷問・強制失踪・恣意的な拘禁などの人権侵害を続けているほか、新疆ウイグル自治区での刑事裁判には適正手続がかけている。また、中国政府は、カンボジア政府に対し、このウイグル族20名の送還を求めて、強い圧力をかけた。こうした実情に鑑み、送還された20名のウイグル族がどこにいるのか、そしてその身の安全が非常に憂慮される、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

「中国外務省は、これらのウイグル族の男性や女性そして子どもに、‘犯罪者'のレッテルを一方的に貼った。」とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは述べた。「中国政府は、ウイグル族難民申請者たちひとりひとりが、国際的基準に照らしても犯罪と言うに足りる行為を行ったという事を示す、信頼に足りる証拠を公にすべきだ。それがなされない限り、中国政府に対し、送還された人びとの所在を明らかにして大使館職員など各国の政府代表らとの面会を許可せよ、という世界中からの最大限の圧力が必要だ。」

中国政府は、国連、弁護士、外交官、人道支援関係者、家族たちに対し、拘束中のウイグル族難民申請者との面会を直ちに認めるべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

この20名のウイグル族難民申請者の殆どは、今年7月5日から7日にかけてウルムチ(Urumqi)で起きた抗議行動の後中国を出国。10月下旬と11月初旬にカンボジアに到着した。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)はこれらの難民申請者を「援助対象者」とする証明書を発行。12月16日時点では、UNHCRとカンボジア政府が共同管理する施設に移されていた。

2009年7月5日から7日にかけて新疆ウイグル自治区の首府ウルムチで起きた抗議運動は、ここ数十年に中国でおきた民族的暴力事件のなかでも、最も血にまみれた事件のひとつ。中国南東部広東省でおきたウイグル族に対する暴力事件が、新疆ウイグル自治区で長らく差別政策に苦しんできたウイグル族の怒りを呼び起こす「ときの声」となり、抗議行動の発端となったとみられる。当初平和的だったウイグル族のデモは、瞬く間に漢族中国人に対する暴力的襲撃に転化し、多くの死傷者を出した。

中国の法執行機関は、国内外の基準に沿って公平な捜査を行なうかわりに、ウルムチのウイグル族居住地区で、大規模な違法逮捕を敢行。公式の数字によっても、今回の抗議運動に関連して治安部隊が逮捕した人びとの数は、ゆうに千名を超えている。この7月の暴動に関連して、これまでに14名(漢族とウイグル族両方含む)に死刑判決が下された。しかし、これらの裁判は、弁護活動の制約、判決内容がすでに決まっているという問題、法の定める裁判の公開や裁判日時の告知の無視など、問題だらけで、国際的に定められた裁判の最低基準にも満たなかった。中国の司法が長らく抱える問題点が露呈した形だ。

ウイグル族20名の難民保護申請を認めないままに中国に強制送還したカンボジアの行為は、国際条約に違反する、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。すなわち、国連の難民条約(難民の地位に関する条約)と同条約の1967年難民議定書及び拷問等禁止条約上の義務に違反するものである。中国は、広く世界中で批准されているこのふたつの国際条約の締約国である。これらの条約の条項のうち、強制送還を禁止する主要な条項は、更に国際慣習法の普遍的規範と認められている。

「多くのカンボジア人たちが、世界各地で難民として保護されている。そして、カンボジア政府は、アジアでは数少ない難民条約及び拷問禁止条約の締約国である。そうした点からも、今回の行為はとりわけ遺憾で嘆かわしい。」とアダムズは語った。「カンボジア政府は、国連難民高等弁務官事務所に協力し、帰還すれば迫害や拷問されるかもしれないという危険がある人びとを保護すると約束している。今回、フン・セン首相は、こうしたカンボジア政府の約束を踏みにじった。」

国連はもちろん多くの諸外国政府は、カンボジア政府に対し、この20名のウイグル族を中国に送還するという違法行為を行なわないよう強く要求した。しかし、フン・セン首相はそのような各国政府の嘆願を無視。そればかりか、ウイグル族の難民申請者たちを軍の飛行場に連行し、チャーター機で中国へ強制送還。この飛行機がどこに20名を連れて行ったのかは未だに不明のままである。

20名が強制送還された翌日、中国副主席・習近平氏(Xi Jinping)がプノンペンに到着。習近平氏は、そこでカンボジア政府に対し、ウイグル族を追放したことに感謝の意を表し、約900億米ドルの援助を約束したのである。

「国連安保理の常任理事国たる中国が、かくもあからさまに他国に対し、国際的な義務に違反するよう働きかけた。これは、20名のウイグル族難民申請者だけの問題として捕らえられるべきではない。これは、世界にとっての関心事だ。」とアダムズは語った。「あらゆる国際的なフォーラムの場----国連安保理はもちろん、国連人権理事会や国連難民高等弁務官事務所の執行委員会など----で、中国政府のすべての代表は、この驚くべき国際法無視行為についての責任を追及されるべきだ。」

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