(ニューヨーク)-スリランカの収容キャンプに拘束中の13万人の避難民に対し、スリランカ政府は、キャンプに残るか去るかの選択を許すとした。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、同政府に対し、今後、新たに人々を恣意的に拘禁することのないよう保証すべきだ、と述べた。
去る11月21日、スリランカ政府は、12月1日までに、キャンプで人びとを強制収容する政策をやめ、キャンプの出入りを自由にする、と発表。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、これまで、強制収容中の人びとを解放し、移動の自由を回復すべきであると、スリランカ政府に繰り返し求めていた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、同政府による収容キャンプの開放の決定は、前向きな措置であると述べる一方、タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)の関係者であるとの容疑をかけられた人びとに対する国際法違反の恣意的拘禁が強化されるのではないかとの懸念も表明した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの調べによれば、キャンプ収容中の人びとのなかには、スリランカ政府から解放されて自由になれるのではなくて、別の収容所に移送されるだけだ、と告げられている人たちがいる。加えて、スリランカ政府は、LTTEとの関係を疑われた11,000人を超える人びとを、政府が「社会復帰センター」と呼ぶ施設に、訴追することもなく、現在まで拘禁し続けている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、治安維持目的で拘禁されているこれらの人びとについて、起訴するか、さもなくば釈放するよう、同政府に求めた。
「遅すぎた決定ではあるが、スリランカ政府は、避難民を収容所から解放すると約束した。これを歓迎する。」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは述べた。「一方、同政府は、LTTEの関係者だという容疑で、多くのタミル人を拘束中だが、これらの被拘禁者たちには、スリランカの法律と国際法に定められた最低限の権利も認めていない。今回の収容キャンプ開放の措置が、新たな多くの恣意的拘禁の口実になってはならない。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチが入手した情報によると、スリランカ政府は、強制収容された民間人の一部に対し、収容所を12月1日に出ることができるのではなく、代わりにマニック・ファーム(Manik Farm)強制収容所内の「リハビリ・センター」に指定されるキャンプに移送されるだけだ、と通知しはじめたという。
スリランカ政府は、治安維持目的で拘禁されている人びとに対し、違法拘禁に異議申立をする権利や、弁護士をつける権利などの基本的な権利を認めていない。スリランカ政府は、多くの場合、逮捕された人の居所を家族にも知らせないため、強制失踪や虐待の恐れが高まっていた。現在も、人びとを釈放するか、リハビリセンター送りにするか、訴追するかのいずれにするのか、その判断基準は、明らかにされていない。
問題の実例としては、スリランカ政府当局が、10月5日、マニック・ファーム収容所内のキャンプから「アナタン(Aanathan)」など数十名を拘禁した例が挙げられる。アナタンの妻は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに次のように語った。
「10月5日、当局がアナタンを捕まえにきた。でも、何も教えてくれなかった。言ったのは、夫は尋問された後、一両日中には戻るだろうということだけ。でも、夫からまったく音沙汰がなかった。だから、収容所内の警察の刑事犯罪捜査局事務所[CID]に行ったの。夫を返してくれって泣いて頼んだけれど、彼らは出て行けって、それだけ。」
アナタンの妻が夫の消息を知ることができたのは、15日後のことで、夫からの手紙を受け取った時だった。妻は、そのときすでに、マニック・ファーム収容所から解放されていたため、パンパイマデュー(Pampaimadhu)キャンプに拘禁されている夫に、面会することができた。彼女はヒューマン・ライツ・ウォッチに次のように語った。
「夫は、どれくらいの期間そこにいなくてはいけないのか、知らされていないの。当局は何も伝えていない。おととい私が夫を訪ねた時[11月中旬、アナタンの逮捕から5週間経過]は、まだ裁判官の審査にも連れて行かれていなかったし、弁護士にも面会していなかったのよ。」
スリランカ政府は、収容キャンプ内のすべての避難民が、自主的に、安全に、かつ、尊厳を損なわれない方法で、帰還できるよう保証すべきである。故郷の村や町に戻れない、あるいは戻る意思のない人々は、希望の場所に再定住するか、または(強制収容キャンプ所ではない)開放型の収容所に留まれるようにすべきである。
8月以来、当局は約14万人の人びとを、故郷や受け入れ家庭のもとに帰した。しかしながら、解放後の行き先に関して、本当の意味での"選択"は存在しないことが多く、また、少なくとも、帰還の一部は強制されたものであるという情報を、ヒューマン・ライツ・ウォッチは入手している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチがとりわけ懸念を抱いているのは、スリランカ政府が国際機関に対し、帰還地域への立ち入りを制限し続けていることだ。同政府は、国連機関にムライティブ(Mullaitivu)とキリノッチ(Kilinochchi)への立ち入りを許可した。その一方で、インフラが破壊され、食料・水・避難先・医療施設といった基本的援助が肝要であるにもかかわらず、その他の国際人道機関の立ち入りは禁止し続けている。
「国際援助機関が帰還民に接触することをスリランカ政府が禁止している結果、帰還民たちの福祉と健康への危険がさらに高まっている」と、アダムズは述べた。「スリランカ復興を経済支援する政府は、帰還民を孤立化させるスリランカの政策に異議を唱え、中立で独立したオブザーバーたちが自由に立ち入れるよう、求めるべきだ。」