(オランダ、ハーグ)-2008年11月14日から開催される年次会合で、国際刑事裁判所(ICC)の締約国は、ICCの独立性と任務を支援することを明確に表明すべきであると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。また、締約国は、逮捕状の執行にむけた国際協力を強化することを約束し、2009年に逮捕を実現する決意を表明すべきである。
ICCは、設立後5年の間に相当の進歩を遂げた一方、未だに公判審理開廷には至っていない。初の公判が2009年に開始されることが期待されている。2008年7月、ICCの検察官がダルフールでの集団殺害罪(ジェノサイド)などの容疑でスーダンのアル・バシール大統領に対する逮捕状を請求して以来、この数ヶ月間、同裁判所は非難にさらされてきた。
「ICCの中立性と高潔性が危機にさらされている今こそ、締約国はICCのミッションを前進させるため強力な支持を表明すべきだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの国際司法プログラムカウンシル、エリザベス・イブンソンは述べた。「ICCの独立性を政治的干渉からしっかりと守らなければならない。」
スーダン当局は、バシール大統領に関するICCの手続きを延期するよう、国連安全保障理事会を説得するキャンペーンを開始。アフリカ連合およびイスラム諸国会議機構は、このスーダンの動きを支持している。
ICC締約国108カ国の代表は、ハーグで9日間の締約国会議を行う。今年は、ICCを創設したローマ規程の採択から10周年に当たる。
同裁判所の逮捕状を執行のため、締約国の役割は重要である。捜査中の4件の事件の内3件について逮捕が執行されないままである。逮捕が未執行の人物にはウガンダの反政府勢力である神の抵抗軍(LRA)のジョセフ・コニー(Joseph Kony)などがあり、彼は、最近の数ヶ月の間にも、コンゴ民主共和国(DRC)、中央アフリカ共和国およびスーダン南部で民間人たちを攻撃した。
また、ボスコ・ンタガンダにも逮捕状が発付されている。ンタガンダは、ヘマ族の民兵組織であるコンゴ愛国者同盟(the Union of Congolese Patriots)の軍事司令官として在任中、コンゴ民主共和国(DRC)のイツリ地方で子どもたちを兵士として採用した容疑で逮捕状が発付されている。ンタガンダは現在、ローラン・ンクンダが指揮する反政府勢力の参謀長である。
8月末以来、ンクンダ軍対コンゴ軍兵士及びその同盟関係にある民兵軍の間で繰り広げる激しい戦闘の結果、25万の人々が避難を強いられている。こうした最近の事件により、国際法の下で重大な犯罪を捜査するというICCのマンデートの重要性が再確認されている。ICC検察官は、11月14日の締約国会議のオープニング・スピーチで、DRCにおける3回目の捜査の要点を発表することとされている。
「LRA指導者とンタガンダは、罪のない民間人への犯罪行為を続けている。彼らの逮捕は今年の会議の最重要課題とされるべきである。」と、イブンソンは述べた。「各国はICCへの協力を強化する努力を約束し、また、逮捕の実現に向けて共同して取り組む緊急の必要性を明白にすべきだ。」
公正な裁判基準を満たさないという裁判所の決定により、ルバンガの訴訟手続きは停止されたままである。無罪を証明する可能性のある文書が秘密保持合意により保護されており、ICC検察官が公開することができないためである。
効果的で、公正かつ信頼される制度を確立するため、ICC当局関係者による更なる努力が必要である。十分な財源も必要となる。ハーグでの会議期間中に、締約国はICCの年度予算を承認する予定である。
「世界経済が現在、困難な状態にあることを理由に、ICCが必要とする資金を止めるのは正当化できない」と、イベンソンは述べた。「世界最悪の犯罪を裁くというICCの任務に各国はコミットしたのであるから、ICCへの資金的サポートも続けなくてはならない。」
各国政府に先週提出した覚書(メモランダム) で、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、会議で議論される可能性のあるその他の問題についても注意を喚起した。このメモランダムには、ICCの法律扶助に対する資金援助を増やすこと、経済的に困窮するICCの被拘禁者と家族の面会がICCの予算で行われるよう方針を定めること、ICCの関連機関の間での協力体制を整えることなどの課題を示した。
背景
国際刑事裁判所(ICC)は、当該国にその捜査又は訴追を真に行う意思又は能力がない場合に、戦争犯罪、人道に対する罪、集団殺害犯罪(ジェノサイド)の被疑者を裁くマンデートを持った世界最初の常設裁判所である。
ICC検察官は、コンゴ民主共和国(DRC)、ウガンダ北部、スーダンのダルフール地方及び中央アフリカ共和国で捜査を開始。それらの捜査に基づいて12件の逮捕状を発付した。現在までに4人がハーグのICC拘置所に収監されている。
締約国会議は、ICC当局の運営を管理監督する目的で、ICC規程により設置された。各締約国の代表によって構成されており、少なくとも年に一度会議を開くことが義務付けられ、必要に応じて複数回開催することができる。