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EU:外交的保証に断固として反対せよ

英国による外交的保証の推進は、EUの拷問ガイドラインを蝕む

(ブリュッセル)-国家安全保障を理由とする強制送還や引渡しに際し、送還先の国で当該外国人に拷問しないという外交上の保証(外交的保証)を利用することについて他国から承認を得ようと英国政府が働きかけを強めているが、欧州連合(EU)はこれに反対すべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書の中で述べた。

36ページの報告書「その道を進むな:英国が依拠する外交的保証の危険性に関する報告書」 は、EUに対し、EUの拷問に関するガイドラインを維持することを求めるとともに、恒常的に虐待を行う政府が「拷問をしない」と約束をしても、到底これを信用することはできないものであり、こうした約束に依拠して送還を認めることがないよう求めている。  
 
「拷問が行われる可能性のある場所に人びとを送還することが世界的に禁止されているのは、人権侵害を行っている政府を信用することはできないからに他ならない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの対テロ上級カウンセル、ジュリア・ホールは語った。「自国で拷問を受ける危険があるテロ容疑者は、EU内で公正な裁判を受けるべきである。」  
 
同報告書は、様々なEU関連のフォーラムにおいて、外交的保証があれば送還を可能とする政策に対する広範な支持を取り付けようと英国政府が働きかけを強めている現状を詳述。英国当局者は、外交的保証がヨーロッパ諸国にとって「前進のための効果的手法」になると主張している。英国は現在、G6(フランス、ドイツ、イタリア、ポーランド、スペイン、英国の内務大臣のフォーラム)を通して、「外交的保証を得た上での強制送還」を可能にする自国の政策に対するEU内の広範な支持を取り付けるべく積極的攻勢をしかけている。2007年のヴェネチアとソポトでの会議で、G6は、外交的保証の使用の可能性を更に調査し、外交的保証の使用に関するEU内のコンセンサスを追求するとする最終声明を発表した。  
 
英国はまた、2007年11月の司法・内務相理事会に先立ち、外交的保証を用いた国家安全保障上の国外追放を検討するよう外交攻勢をかけた。もっとも、当該会議の議題設定を行う作業部会は、これを議題にあげなかった。外交的保証の利用がEUの方針として確立されることに不安を感じる国がEU内にあることを示すものだ。  
 
2008年2月、欧州委員会の対外関係総局は、外交的保証の利用は拷問の世界的な禁止や虐待の撲滅にむけた努力を阻害すると、強い懸念を明らかした。  
 
「現在まで、EUは断固とした対応を続け、拷問の禁止を弱めようとする英国の働きかけを拒絶してきた」と、ホールは述べた。  
 
ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書は、外交的保証に対する広い支持を得ようという英国のEUにおける働きかけを記録するのみならず、外交的保証に関する訴訟における欧州人権裁判所の近時の裁判例を概観している。先例の一つに、「サアディ対イタリア事件」がある。この事件では、英国は、拷問のおそれのある国への送還の禁止を弱体化させようと裁判に介入。しかし、英国のこの試みは失敗に終わった。本報告書は、デンマーク、イタリア、スペインなどのEU加盟国や、スイス、ロシア、キルギス、トルクメニスタンなどのEU外の国々が、国外追放や強制送還をするために外交的保証の利用を模索している状況、または、既にこれを利用している状況についても述べる。こうした国々の動きにより、拷問の危険のある場所への移送に対する世界的な禁止は、ますます弱体化している。  
 
「拷問を防ぐための措置を無視する動きがある中、英国はこうした憂慮すべき動きを推進する悪例を提供している」と、ホールは述べた。「人権の促進と保護に長い歴史を持つ他のEU諸国が、英国の先導に従いつつあることを憂慮する。全EU加盟国は、拷問の加害者の責任追及を続けるべきであり、加害者に加担すべきではない。」  
 
同報告書は、貴族院 (英国議会上院)での2件の上告審裁判(2008年10月)にも光をあてる。「RB及びU対英国内務大臣事件」は、2008年10月22日と23日に審理が予定されている。その事件で、国外追放に直面しているのはアルジェリア人二名で、交渉の結果、その二人に対するアルジェリア当局から外交的保証が与えられている。貴族院は、10月28日と29日にも、内務大臣対OO(オスマン)の事件の審理を行う予定。この事件は、アルカイダとのつながりを理由に起訴されている急進的なイスラム教聖職者オマル・オスマン(別名アブ・カタダ)の事件。英国政府は、ヨルダン政府との間で締結された内容多岐にわたる「基本的合意書」にある外交的保証の取決めに依拠して、オスマンを送還しようしている。  
 
英国政府は、外交的保証がなければ、これらの人びとが送還先で拷問に遭う危険性を認めている。そのため、上告審での中心争点は、外交的保証の実効性である。この裁判の審理の中で、英国の最終審の裁判所が、英国の対テロ戦略の要の政策のひとつたる「外交的保証を得た上での強制送還」の合法性について初めて検討することになる。ヒューマン・ライツ・ウォッチと国際法律家協会の英国国内組織であるジャスティスは、両訴訟の審理に向けて、裁判所にアミカス意見書 (法廷の友意見書)を提出している。

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