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サウジアラビア:二級市民として扱われるシーア派マイノリティたち

ワッハーブ派当局によるイスマーイール派市民への差別

(ロンドン)-サウジアラビア政府は、イスラム教シーア派のマイノリティたるイスマーイール派に対する組織的な差別を止めるべきであると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書の中で述べた。ヒューマン・ライツ・ウォッチはサウジアラビア政府に対し、差別的政策への救済措置を勧告する権限を持ち、かつ、個人の申立も取り扱う国家機関の設立を求めた。

報告書「ナジランのイスマーイール派:サウジで二級市民とされる人びと」は、90ページ。150以上の聞取り調査と公式文書の精査を基に、政府雇用、教育、宗教の自由、司法制度の各分野におけるイスマーイール派に対する差別についてまとめている。

「サウジアラビア政府は外国では宗教的寛容さを説いているが、国内のイスマーイール派市民に対しては、信教に基づく差別を続けている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東局長代理、ジョー・ストークは述べた。「政府は、雇用や司法制度、教育において、イスマーイール派の市民を二級市民として扱うのを止めるべきだ。」

人口2,800万人のサウジアラビアで、スンニー派は圧倒的多数を占めるが、シーア派住民の一部を占めるイスマーイール派住民の数は、少なくとも数十万人多くて100万人に上る。ほとんどのイスマーイール派市民は、近年緊張が高まっているサウジアラビアの南西部、イエメンと国境を接するナジラン州に住んでいる。

サウジアラビアは、1934年のイエメンとの短い戦争の後、ナジラン地方を征服。イスマーイール派の一宗派であるスレイマニ・イスマーイール派の地元住民を王国に組み入れた。ナジランには17世紀以来、スレイマニ・イスマーイール派の最高聖職者である絶対指導者(Absolute Guide)が住んでいる。

サウジアラビアに組み入れられて70年以上たつにも拘わらず、サウジアラビア政府当局の最高幹部は、この宗教的少数派に対して差別プロパガンダを続けている。2007年4月、イスラム教の教義・儀式・法の公式解釈をつかさどる機関である上級宗教学者会議(Council of Senior Religious Scholars)は、イスマーイール派信者を『堕落した不信心者、放蕩的な無神論者』と称した。2006年8月、サウジアラビアの最高位判事、シェイク・サリ・アル-ルハイダン(Shaikh Salih al-Luhaidan)は、数百人の聴衆に向かって、イスマーイール派は「外見はイスラム教徒のようであるが、中身は不信心者」と発言した。他のサウジアラビア高官はこうした発言に対し、反論したり、見解が異なるとすることはなかった。

1990年代半ばから、イスマーイール派とナジラン州知事ミシャル・ビン・サウド・ビン・アブドゥル・アジズ皇太子の間で緊張が高まっていたが、その緊張は、当局がイスマーイール派聖職者を「魔術」の容疑で逮捕した後の2000年4月の衝突事件としてあらわれた。治安部隊は数百名のイスマーイール派を逮捕し、他に数十名を拷問し秘密裏に裁判を行った。その上、地方官庁から約400名のイスマーイール派を追放した。

以来、圧倒的多数の保守派ワッハーブ派イスラム思想の影響を受ける地方官僚らが他地域からナジランに送られている。そして、こうした官僚たちは、イスマーイール派を雇用や教育、司法の中で差別し続け、また宗教行為の実践にも干渉してきた。

ナジラン州政府の35部局の内、イスマーイール派が占めるのはわずか1部局。治安担当の上級職や宗教教師として働くイスマーイール派はほとんどいない。サウジアラビアの教科書には、イスマーイール派の教義は「主要な多神教」たる罪を犯しており、破門に値すると書かれている。ワッハーブ派の教師たちは、ナジラン地方でイスマーイール派生徒の信仰を侮辱し、落第やムチ打ちという脅しを使ってまで、スンニー派イスラム教に改宗させようとしている。

イスマーイール派は、自分たちの教義を新しい世代に伝える自由を奪われている。当局は度々、ナジラン州から絶対指導者(Absolute Guide)を追放したり、自宅軟禁を強いたりしてきた。またサウジアラビア当局は、イスマーイール派の宗教文献の輸入や執筆を禁止している。イスマーイール派は、新しいモスクの建築や既存モスクの拡張工事の許可を得る際にも妨害にあっている。一方、同州のスンニー派モスクには、たとえスンニー派住民がいない地域であっても、国が資金を出し建設もしている。

ワッハーブ派を信仰する同国のシャリア(イスラム法)判事らは、イスマーイール派市民を、信仰に基づき日常的に差別している。2006年3月、ある判事は、イスマーイール派の男性とスンニー派の女性の結婚を、男性側に宗教的な資格が欠けているという理由で無効とした。2006年5月、別の裁判官は、イスマーイール派の弁護士がスンニー派の依頼人の代理人となることを認めなかった。

「ナジランのイスマーイール派市民に対する差別は、国家を後ろ盾とし、公に容認されている。こうした差別は、イスマーイール派市民のアイデンティティーを著しく脅かし、基本的権利も否定している」と、ストークは述べた。「当局は、イスマーイール派を教育、政府機関での雇用、専門職から締め出しているのだ。」

2008年7月、アブドッラー国王は、サウジアラビア主導の宗教間会議をスペインで開催。イスラム教、ユダヤ教、キリスト教、ヒンズー教、仏教の各宗教指導者が出席し、本会議は広く広報された。

「サウジアラビアの宗教的寛容性を示すのは、国内での実践であるべきであり、国外での説き勧めだけではない」と、ストークは述べた。

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