(ニューヨーク) 内省と断食の1ヵ月であるラマダンの開始にあたり、中東及び北アフリカの家庭内労働者の雇用主は、家庭内労働者の権利に特に配慮すべきであると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。家庭内労働者たちは、ラマダンの期間中、1ヵ月に及ぶ雇用主らの会合の支度をするためいつもに増して働くこととなる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、中東及び北アフリカでの移民家庭内労働者と家庭内児童労働者に対する虐待や搾取、時に奴隷と言えるほどの労働状況について、広く調査し取りまとめてきた。具体的な虐待の内容とは、賃金搾取、数ヵ月から数年にも及ぶ賃金不払い、強制的な監禁、休憩なし・超過勤務手当なし・休暇なしの長時間労働、身体的・性的暴力などである。

「中東で働く家庭内労働者の多くは、屈辱的な処遇を受けており、雇用主の多くは、家庭内労働者に労働基本権があるなど考えたこともないようだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ中東・北アフリカ局長のサラリー・ウィストンは述べた。「ラマダンという自分を省みる特別な機会に、雇用主たちは、自分たちの家を掃除し、子どもの世話をし、家族の食事を用意し、辛抱強く働く女性たちを虐待するのを終わらせるべきだ。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、家庭内労働者の雇用にあたり、5つの最低限の義務を尊重するよう雇用主に強く求めた。

• 雇用主は家庭内労働者に対し、賃金を遅滞なくしかも全額支払わなければならない。また、一日の仕事が、合理的かつ通常の範囲内の労働時間を超える場合は、時間外勤務手当を支払い、適切な休暇期間も与えなければならない。

•雇用主は、一週間に少なくとも一日の休日と、一日の間に一定の休憩時間を与えること。そして、休憩中に、家庭の外で過ごしたり、自分が会いたいと思う人と会ったりするなど、休憩時間の過ごし方を労働者自身が決めることを認めなければならない。

•雇用主は、家庭内労働者に対し、精神的・身体的・性的な虐待を加えてはならない。また、他人による同様の虐待を容認してはならない。虐待があった場合には直ちに警察当局に報告しなければならない。

•雇用主は、家庭内労働者に対し、移動の自由及び結社の自由を享受する権利を尊重しなければならない。いかなる状況においても家庭内労働者を強制的に監禁してはならない。雇用主は、家庭内労働者のパスポートを本人が所持することを認めなければならない。また、家族や友人に電話をする権利、大使館に連絡する権利、外出する権利、携帯電話を所有する権利など、家庭内労働者が私的に通信するのを恣意的または差別的に制限してはならない。

•雇用主は、労働者のプライバシー尊重のため、家具付きの寝室など適切な宿泊設備を提供しなければならない。

「国際的労働基準を実施する第一義的な法的義務は政府にあるが、労働者の権利と尊厳の尊重は雇用主から始まる」と、ウィストンは述べた。「こうした虐待行為がこの地域の評判を著しく損なっているが、雇用主が家庭内労働者の権利を尊重しない限りこれは止まない。」

レバノンでは、主にスリランカ、フィリピン、エチオピア出身の推定20万人といわれる家庭内労働者が雇用されている。家庭内労働者からの苦情で最も多いのは、賃金の不払いや支払遅延、仕事場(即ち家庭)での強制的な監禁、休日がもらえないこと、精神的・肉体的虐待などである。カイロのアメリカン大学のレイ・ジュレイディニ博士が行った家庭内労働者600名を対象とした2006年の調査によると 、56%の家庭内労働者が1日に12時間以上働き、34%には定期的な休みがなかったという。このような困難な労働条件は命にかかわる結果にもつながっている。ヒューマン・ライツ・ウォッチが最近発表した調査 では、レバノンで、移民家庭内労働者が一週間に一人以上死亡していることが明らかになった。そのほとんどが、自殺か、雇用主からの逃亡に失敗した結果としての死亡であった。

サウジアラビアの家庭では、主にインドネシア、スリランカ、フィリピン、ネパール出身の推定150万人の家庭内労働者が雇用されている。虐待事件の正確な数について信頼できる統計値はないが、サウジアラビアの社会省や労働者の出身国の大使館は、毎年、雇用主や派遣業者への苦情を訴える数千人の家庭内労働者を保護している。最も一般的な苦情には、数ヵ月から10年にも及ぶ過剰労働や賃金不払いなどがある。家庭内労働者は同国の労働法の適用対象外となっており、他の労働者に保障された週休や時間外勤務手当などの権利が認められていない。多くの家庭内労働者は一日18時間、週7日働かなければならない。家庭内労働者の中には、窃盗、姦通、「魔術」などの虚偽の容疑で投獄されたりムチ打ちの刑を受けたりする者もいる。(https://www.hrw.org/reports/2008/saudiarabia0708/ )

アラブ首長国連邦では、雇用主と同居生活を送る内勤のスリランカ人家庭内労働者たちは、ほとんど例外なく時間外勤務手当なしの固定月給である。多くの移民家庭内労働者は、賃金不払い、過少賃金、賃金搾取、職場(即ち家庭)での強制的な監禁、過剰な労働時間、休日の欠如など、労働者の権利の侵害の被害にあっている。(https://www.hrw.org/reports/2007/srilanka1107/ )

モロッコでは、5歳や6歳といった幼い家庭内児童労働者らが、一般家庭で週に100時間以上、休憩時間や休日もないまま日常的に重労働に携わっている。雇用主たちは、子どもたちを肉体的・精神的に虐待し、教育を受けさせず、時には十分な医療や食事も与えないことが多い。少女の場合、雇用主やその家族の性的嫌がらせの犠牲になる場合もある。虐待され、家族や仲間から疎外され、肉体的・精神的障害を抱える家庭内児童労働者はあまりにも多い。
(https://www.hrw.org/reports/2005/morocco1205/ )

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、中東及び北アフリカの労働省や宗教指導者に対して、ラマダン月を機会に、家庭内労働者の雇用主とその家族に対し、ラマダン月を祝う地域の人びとに呼び起こす熱意と自発的な力で、家庭内労働者の権利も尊重することを促すよう求めた。