(ニューヨーク)---国連安全保障理事会は、救援物資のビルマへの搬入と人道支援要員の入国を無制限とするよう強く主張すべきだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日このように述べた。ビルマ政府は、救援物資と人道支援要員がサイクロン・ナルギス被災地域に到着することを妨げている。
ビルマ政府は公式推計による犠牲者は77,738人にのぼり、行方不明は55,917人となった。だが政府以外の推計はこれらをはるかに上回る。5月2日~3日にかけてイラワジ・デルタを襲ったサイクロン・ナルギスにより、約240万人が住む所を失い、食糧と医療が必要な状態に置かれている。被災から2週間が経つにもかかわらず、世界食糧計画(WFP)の発表によれば、援助にアクセスできる被災者は全体の約3割にすぎない。デルタの全域にまでいまだ援助が行き渡っていないのが現状だ。
確かにビルマ政府は数日来、救援物資を積んだ輸送機の受け入れ数も、人道支援要員への査証発給件数も増やしている。しかし必要とされる援助の総量に比べれば、微々たるものにすぎない。フランス、英国、アメリカ合衆国の各国は、多数の人命の救出と生存者の苦しみを軽減することのできる救援物資を搭載した艦艇を派遣しているが、いまだに着岸許可が下りていない。
「国連安全保障理事会は、ビルマ政府に対し、提供されているすべての援助と人道支援要員を受け入れるよう求めていない。これは人命救出という安保理の責任の放棄だ。船が沿岸に停泊し、人道支援要員がバンコクで待機しているのに、手をこまねいたまま、多くの人々が命を落とすのを傍観することは許容できない。」ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズはこのように述べた。
推計によれば、イラワディ(エーヤワディ)管区のラプッタ、ボーガレー両郡だけで、約15万人の国内避難民を受け入れる約120の公式あるいは仮設避難所が点在する。国際医療機関は単発的なコレラの発生を報告している。また呼吸器疾患が存在すると同時に、衛生状態が劣悪であり、飲料水の入手が困難であるために、病気の蔓延が増えることも懸念している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、国連人道問題調整事務所(OCHA)のジョン・ホームズ人道問題調整官・事務次長の5月9日の安全保障理事会に対する説明が、今日の状況にもなお当てはまることに愕然としている。ホームズ氏の発言は次のようなものだった。「人道支援要員の入国が速やかに認められ、手続面などで障害が減っていけば、より多くの人命を救うことができる。困っている人々に早く援助を届ける重要性がますます高まる一方で、伝染病が大流行するリスクが刻一刻と上昇している。」
「ビルマ政府が申し出のあった援助すべてを受入れていない間に、死ななくても良いはずの人々が亡くなり、苦しまなくても良いはずの苦しみが募っていく。国連安全保障理事会が動き出すまでに、外交関係者は不毛で成果のない会議とビルマへの訪問を一体何回重ねればいいのか。」アダムズ局長はこのように述べた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、困難な状況下で活動するビルマならびに世界各国の人道支援要員の努力を称賛する。デルタ地域での支援活動の大部分は、世界食糧計画やセーブ・ザ・チルドレン、ワールド・ビジョンなどの政府間組織や非政府組織(NGO)のビルマ人スタッフ、ならびにミャンマー赤十字の現地スタッフが行っている。
東南アジア諸国連合(ASEAN)は5月19日に、今回の緊急事態に関する調整機構の設立を発表した。ビルマ政府はASEAN加盟国の医療部隊の受け入れに同意し、ASEAN側は「緊急即応アセスメント・チーム」をビルマに派遣している。
「ASEANによるこのイニシアティブには事態を前進させる可能性が含まれてはいる。だがビルマのサイクロン被災者が抱える差し迫ったニーズをすべて引き受けられるようなものではない。各国政府や援助機関はこのことを肝に銘じておくべきだ。」アダムズ局長はこう付け加えた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ビルマ政府に対し、主要な国際救援活動がサイクロン被災地域に自由にアクセスできるようにすることを求める。このためには、人道支援要員に対し、速やかに査証を発給すること、国連や国際人道援助機関に対し、困窮する人々に救援物資を直接配布する許可を与えること、そして付近に軍関係のリソースを持つ政府に対し、迅速な接触方法が空と海のみとなっている生存者に、空と海からの物資配布を許可することが必要である。じっさい航空機か船舶でしか到達できない被災地が多く、人道危機に対応する用意のある各国政府からの援助は不可欠である。
国際法によれば、サイクロンによって家を失ったとされる約200万人は、国内避難民(IDP)と見なされる。そして国連の国内避難民指導原則(the UN Guiding Principles on Internal Displacement)では、国家は、「とりわけ関係当局が必要な人道援助を供給することができないか、その意思がないとき」には、国際人道機関やその他の適切なアクターが援助を提供することに対する許可を恣意的に差し控えてはならないとうたわれている。さらにこの指導原則には「すべての関係当局は、人道援助の自由な移動を確保・促進すべきであり、また、こうした援助の提供に関わる諸個人に対して、国内避難民への迅速かつ障害のないアクセスを提供すべきである」と記されている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ビルマと緊密な関係をもつ中国やインド、タイ、ASEAN諸国は、サイクロン生存者に支援が届くよう、ビルマ政府に国際支援への規制を解除するよう迫るべきだと述べた。
「中国政府は、四川大地震の発生後、国際社会からの援助の受け入れに際して、これまでにない開放的な態度をとった。だが、中国政府がビルマ政府に対して、サイクロン被害に際しても、自国と同様の緊急性と開放性で対処するようにはたらきかけている徴候は一切見られない。中国政府はこれまで、ビルマ問題に関して国連安全保障理事会が協調して行動することを妨げてきた。だが今回の地震を受けて、政治よりも人命を優先する方向で政策転換が必要だ。」アダムズ局長はこのように述べた。