(ニューヨーク)---ビルマで行われた憲法制定のための国民投票には致命的な欠陥が存在している。各国政府はこの結果を認めるべきでない。それと同時に、ビルマに真の意味での民主化を実現するため、改めて圧力を掛けるべきである。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日、このように述べた。

ビルマ軍事政権=国家平和開発評議会(SPDC)は2008年5月15日、有効な有権者の99%(投票が行われた地域に限る)が国民投票に参加し、5月10日の投票分については92.4%が憲法草案に賛成票を投じたと述べた。この発表の一方で、ビルマの最大都市ラングーンなどを襲ったサイクロン・ナルギスの被災地域では投票が5月24日に延期されている。

「ビルマ政府指導部は、サイクロン後に人びとの福祉を完全に軽視したのと同様、国民投票について国民が有する政治的権利も無視した。各国政府が、ビルマ国民の状況を真に懸念するなら、真の民主主義と開かれた政治姿勢をより強く求めるべきだ。」ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズはこのように述べた。

ビルマ軍政は、国際社会や第三者による国民投票監視団の受入れも、投票実施に関する国連の支援も拒否した。国民投票の実施を受けて、ビルマ国内からまず寄せられた未確認情報は、国民投票が政府による強制と票操作が行われる中で実施されたというもので、ヒューマン・ライツ・ウォッチの懸念を裏付けた。

現地消息筋からは、当局による有権者の脅迫が報告されている。カレン州のスリー・パゴダ・パス(三仏塔峠)では、有権者に憲法草案への「賛成」票を確実に投じさせる目的で州警察と消防隊が投票所に配置された。

あるモン州のジャーナリストは、ヒューマン・ライツ・ウォッチに次のように述べた。「ムドン郡では、政府の人間が投票所の記入台までついてきて、投票の様子を監視していました。投票の秘密は守られませんでした。大部分の人々が恐怖を感じました。ある女性は私にこう言いました。『反対票を入れたかったが、後ろからついてこられたので賛成票を入れてしまった』と。他の村では、当局は賛成票だけを受理し、反対票を捨てていました。投票所の係員は、自分たちのところ[=投票所]に反対票が一票でもあったらクビにすると脅されていました。」

投票がまったくできなかったとの報告も複数あった。カレン州ミャワディに近く、6ヵ村からなるミャインカレー村落区では、当局は投票所を設営し、住民の名前と住居の登録をしただけだった。カレン州チャインセイッジー郡では、一世帯も有権者登録されなかったので、投票自体が行われなかった。またある村では約2千人が投票できなかった。

地元消息筋はヒューマン・ライツ・ウォッチに次のように述べている。「国民投票は当初から公正さを欠いていたんです。政府から独立した形でのモニタリングは一切行われませんでした。特に農村地帯がひどかった。住民が投票所に行っても、投票用紙が渡されませんでした。自分の名前を告げ、身分証明書を提出し、世帯の登録番号を伝えるよう求められただけでした。説明はまったく(ありませんでした)。身分に関する情報が、賛成票の作成に用いられたんだと思います。」

政府の役人が国民投票の結果を変えた証拠もある。カチン州のジャーナリストはヒューマン・ライツ・ウォッチに次のように述べた。「政府の役人たちに電話しました。軍政が全地区で勝利した(=賛成票が反対票を上回った)わけではないと言われました。(略)[ある役人から]聞いた話では、カチン州ミッチーナでは多くのところで反対票が上回っていました。私の住む地区は賛成が多かったですが、ドゥカタウンでは反対が多かった。そしてワインモー郡では、当局が結果を反対から賛成に変えてしまったのです。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは今月始めに、報告書『投票しようのない国民投票:ビルマ 2008年5月の国民投票』 を発表した。そしてこの中で、国民投票が、情報のアクセスに厳しい制限が課され、抑圧的なメディア規制が存在し、表現・集会・結社の自由がほぼ全面的に否定され、政治活動家の拘束が広い範囲で継続的に実施されている中で準備されていることを明らかにした。また5月2~3日のサイクロン・ナルギスによる甚大な被害を受けて、ヒューマン・ライツ・ウォッチとしては、ビルマ政府が数百万の被災者に対する人道支援に全力を傾注できるよう、国民投票の延期を求めた

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、草案の狙いが軍による支配の確立と独立政党の果たす役割の制限にあることについて、これまでも懸念を表明してきた。この憲法草案に基づけば、国軍総司令官は議会の上下両院の議席の4分の1に現役軍人を指名するだけでなく、国軍が大統領と2人の副大統領の選出にあたり強い権限を有することになる。

憲法草案の政党への態度はあからさまに敵対的である。厳重な規制の下で、多くの反政府活動家は選挙の立候補資格を奪われている。また、国民民主連盟(NLD)の指導者アウンサンスーチー氏をねらい打ちにした規定もあり、氏は外国人と結婚していたために選挙には一切出馬できないことになっている。憲法草案に基づけば、これらの条項を改正することは実質的に不可能である。どの条文でも改正するにあたって上下両院の4分の3以上の賛成が必要となるからだ。軍政は最低4分の1の議席を確保しており、しかも残りの議席も選挙に立候補して争うことができるので、議会に送る代表の数はずっと多くなる。軍政は憲法改正に対して事実上の拒否権を有していることになる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、表現・情報・結社・移動の自由といった基本的権利の尊重が、今回のサイクロン・ナルギスのような天災への迅速な政府を可能にする上で重要でもあるとも述べた。

「サイクロンへのビルマ政府の対応は、ビルマでの人権と民主化を継続して促進することが喫緊の課題である理由を示している。被災者への援助が当面の優先事項だが、政治改革の促進もまた人道上の緊急課題だ。」アダムズ局長はこのように述べた。