岸田首相は2月22日の衆議院予算委員会で、ミャンマー国軍を利している開発援助事業(ODA)について「実態を把握した上で、その実態に基づいて適切に対応すべき」と明言した。林外務大臣も岸田首相の発言に続く形で、「我々としてできる限りのことをやっていく」とした。
2人は、大手橋梁メーカー横河ブリッジが一部建設中の「バゴー橋建設事業」に関する野党議員の質疑に答弁した。現地メディア「ミャンマー・ナウ」は2021年3月に、軍系企業ミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)が保有する製鉄所が同事業に資材を提供して「膨大な利益を得ている」と報道。ヒューマン・ライツ・ウォッチが分析した取引履歴によると、横河ブリッジは2022年7月から2023年1月にかけて、米国政府の許可を得た上でMECに約200万米ドルを同事業のために送金した。
国連が設置した事実調査団は、2019年9月の報告書で、MECはミャンマー国軍に保有されており、製造、鉱業や通信などあらゆる事業を通じて国軍に膨大な利益を生み出していると指摘。米国、イギリス、欧州連合、カナダとオーストラリアは、国軍の膨大な資金源であるとして、MECと軍系企業ミャンマー・エコノミック・ホールディングスに制裁を科している。
ミャンマー国軍は2021年2月に軍事クーデターを起こし、超法規的殺人、拷問、「人道に対する罪」や戦争犯罪である民間人に対する無差別攻撃など、広範かつ組織的な人権侵害を犯してきた。
また、ミャンマーの治安部隊などはクーデター前から、ラカイン州の少数民族ロヒンギャ・ムスリムに対して「人道に対する罪」やジェノサイドの行為に値する人権侵害を犯してきた。その結果、大勢のロヒンギャが隣国バングラデシュに避難し、現在も約90万人が劣悪な難民キャンプでの生活を余儀なくされている。さらに、ラカイン州には約60万人のロヒンギャがおり、治安部隊による迫害や暴力、移動の制限、不十分な食料、医療、教育などに晒されている。
岸田首相と林外務大臣は、真剣にミャンマーの「民主的な政治体制の早期回復」を目指しているのであれば、自らの発言に伴い具体的な行動をとるべきだ。まず、MECへの支払いを止め、人道支援以外のODAを停止し、国軍幹部や軍系企業に標的制裁を科すべきである。