岸田文雄総理大臣は先週2月4日、同性カップルを誹謗する発言をしたとして、荒井勝喜・総理大臣秘書官を更迭しました。政府高官であった荒井氏は、3日夜、同性カップルを「隣に住んでいたら嫌だ」「見るのも嫌だ」などと発言していました。
岸田首相はこの発言について謝罪し、「国民に政府の方針への誤解を生じさせたことは遺憾であり、不快な思いをさせてしまった方々におわびを申し上げる」と述べました。
しかし、実際はどうでしょう。日本政府はたしかに反LGBTを明確に掲げてはいませんが、政府はLGBTの人びとに対して、法の下の平等な保護は与えていません。最近のOECD調査によれば、先進国のLGBTインクルージョンに関する法整備状況ランキングで、日本はワースト2位でした。そしていま、5月の広島開催G7を控え、他のG7諸国と並ぶ水準を実現すべきとの声が高まっています。
日本では、同性カップルを認める法律の規定はありません。しかし、他方で、11の都道府県を含む約260の地方自治体が「同性パートナーシップ(宣誓)制度」を設け、同性カップルを婚姻とは別のかたちで認知しています。このことが表すように、婚姻の平等、同性婚への支持は全国各地に広がっているのです。
また、「LGBT平等法」の制定を求める動きの盛り上がりにもかかわらず、日本にはLGBTを差別から守る制度はありません。
さらに、トランスジェンダーの人びとが法律上の性別変更(戸籍上の性別変更)を望むときには、家庭裁判所に審判を申し立てる必要があります。性同一性障害特例法(性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律)では、申請者は精神科医2名の診断を受け、外科的な不妊手術を受けることが義務づけられています。さらに、結婚しておらず、未成年の子どもがいないことも要件です。
岸田首相が総裁を務める与党・自由民主党には、棚上げされている「LGBT理解増進法」の法案を復活させ、国会に提案する動きがあります。しかし、この法案は不十分です。LGBTへの理解増進を促すだけで、LGBT差別から人びとを守り、その他の諸権利を擁護する規定がありません。
岸田首相が、偏見に満ちた発言をした秘書官を更迭したのは正しい対応でした。しかし、日本政府にさらなる取り組みが求められる一方で、進めようとされている法案の中身は極めて不十分です。次に政府と国会がなすべきは、LGBTの人びとを差別等から守る法律と政策の実現に向け、しっかり改革を進めることです。そうすることによってのみ、国際人権義務に関する日本政府の国際的な立ち位置を改善することができます。