(ニューヨーク)香港当局は、政治的動機に基づく起訴を直ちに取り下げ、国家安全維持法(国安法)の下で起訴された47人の著名な議員や活動家を釈放するべきである、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。2022年8月18日に国安法関連裁判の報道規制が解除され、検察が被告のうち5人を「主要な組織者」と呼んでいることが公になった。これは、最長で終身刑という厳しい判決が出る可能性があることを意味する。
47人の議員や抗議行動指導者、労働組合員、学者は24歳から66歳で、平和的な政治行動をしたために「国家転覆を企てた」容疑で起訴されている。主要な組織者と呼ばれたのは法学者の戴耀廷(ベニー・タイ)、元議員の區諾軒、元区議会議員の趙家賢と鍾錦麟、そして活動家の呉政亨である。47人の拘束と裁判の進行は多くの面で国際的なデュープロセス基準に反している。
「香港で最大の国安法関連裁判は法律用語で覆われているが、香港の民主化運動を抑えようとする中国政府の容赦ない努力の一環に過ぎない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの中国担当上級調査員の王松蓮は述べた。「平和的な活動のために終身刑を受ける可能性が非常に現実的であることは、中国政府が民主的な政治プロセスと法の支配の両方をすっかり軽視していることを示している。」
国安法第22条の下、「主な違反者」は10年以上の懲役または終身刑を受ける可能性がある。主要な組織者とされた者を裁判所が主な違反者として扱うかは不明である。「積極的に参加」した者は3年以上10年以下の懲役、「その他の参加者」は3年以下の懲役または「短期間の収容または制限」を受ける。
香港の裁判官は8月18日、この裁判の公判前手続きについての報道規制を解除した。別の国安法事件で、裁判官が報道規制を解除しないのは違法だとした被告の訴えが高等裁判所(高等法院)で認められてから2週間後のことだった。
報道規制解除後、29人の被告が「国家転覆を企てた」起訴事由について罪を認める意思を示していたことが報じられた。香港では、罪を認めれば通常、三分の一の減刑が認められる。
47人の被告は2020年7月、当時は同年9月に予定されていた議員選挙に出る民主派候補者を調整するための非公式予備選挙の準備を手伝った、またはその予備選挙に候補者として出馬した。これらの被告は、香港市民に長らく約束されていた普通選挙を行うよう中国政府と香港政府に圧力をかけるために議席の過半数の獲得を目指していた。
検察による139ページに及ぶ事実関係の要約は、この過程で47人が書いたものや行った演説、資金集め活動、互いとの調整に焦点を定め、それらは「香港政府の運営を麻痺」させるのが目的だったと述べる。例えば戴耀廷については「西側諸国が中国共産党に制裁を科すことにつながる残忍な弾圧を引き起こすのを目的とした」記事を書いたとし、「議会の運営を損なうことを通じ、[戴耀廷]は国家権力を転覆させ政府を倒そうとした」と非難している。
中国政府が2020年6月30日に導入した国安法に基づく国家転覆その他の罪は、過度に範囲が広く恣意的に適用されている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。それには香港の事実上の憲法である基本法で謳われている人権の平和的行使も含まれる。これらの権利は「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(自由権規約)によっても保護されている。自由権規約の内容は基本法を通じて香港の法的枠組に取り入れられ、香港権利章典条例で明文化されている。
司法官の林定国(ポール・ラム)は8月16日、この裁判で陪審なしの公判を行うよう命じた。これは、香港の第一審裁判所(原訟法廷)での刑事事件の公判では陪審が行われてきた伝統から離れるものである。
陪審による裁判を認めないことは、公平な裁判を受ける被告の権利を奪う国安法の規定のうちの一つである。国安法は、国家安全保障に関わる罪に問われた者に対しては他とは異なる捜査、起訴、裁判の方法を定めている。同法は、政治犯罪を捜査し扱う警察の特別班と、司法官と行政長官が厳選した検察官や裁判官からなる特別チームの設立を定めている。行政長官は中国政府によって選ばれる。47人の裁判については、行政長官が3人の裁判官を任命した。国安法の下、国家機密が漏れる場合には被告は公開裁判を受ける権利も奪われる。
国安法はまた、容疑者が国家安全保障に関わる罪を犯さないという確信が裁判官になければ保釈を認めない。47人の被告の多くは、2021年2月末に起訴されて以来、18カ月近くも拘束されている。国安法が、犯したとされる罪の深刻さや性質に関わらず原則として保釈を認めないことは、香港のコモンローの伝統や自由権規約の釈放と無罪推定の原則と矛盾する。
この裁判で以前被告の弁護団にいた香港の弁護士は、長期化する収容によって「正当性を主張する意志を失い」、「機会があり次第、罪を認める」被告が出る可能性について懸念を表明した。
この裁判の公判前手続きは2021年3月1日に始まり、次の審問は9月1日に行われる。報道によれば、香港当局は、未決拘禁が長期に及んでいるオーストラリア人である呉政亨について、国際法で定められている通り領事館が彼に連絡を取るのを何度も拒否している。
国安法は、香港市民の自由に対する1997年の主権移譲以来もっとも強力な攻撃の核心にある、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。国安法の制定以降、表現・結社・平和的集会の権利など香港で長年保護されていた基本的な市民的・政治的権利が急速に取り消されている。当局は同法の下で200人近くを逮捕し、うち110人以上を訴追した。同法の下で初めて刑を宣告された馬俊文は「分離を扇動した」罪で5年の懲役刑を言い渡された。
関係諸国は、米国が2020年7月に始めたように、香港市民の権利を侵害した政府関係者に対象限定型の協調制裁を科すべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
英国、EU、オーストラリアは47人の被告の起訴について懸念を表明し、新たな人権制裁体制を確立させているが、権利を侵害した香港政府関係者に対象限定型制裁を科してはいない。5月には英国の上院と下院の議員100人以上が共同書簡を出し、香港での人権侵害に関連のある政府関係者の一覧を作るよう英国外相に求めた。
「関係諸国は、香港市民の基本的権利を踏みにじる政府関係者に制裁を科すことによって民主主義と人権へのコミットメントを示すべきである」と王松蓮は述べた。「国際社会による行動は、単に正しいことをしたために既に大変な犠牲を払っている人たちの慰めになるだろう」。