(バンコク)ミャンマー軍政が最近行った囚人解放は範囲が限定的で、国軍の人権尊重のより広範な変化を反映するものではない、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。国家統治評議会(SAC)政権は2021年10月18日、1,316人に恩赦を与え「抗議行動に参加した」4,320人に対する起訴を取り下げると発表した。軍政は解放の条件や、解放がどのように実行されるかについての詳細は明らかにしなかった。
関係各国政府は、軍政がすべての政治囚を解放し、抗議行動参加者その他に対する虐待を止め、直ちに民政を回復させるようさらに圧力をかけるべきである。
「不当に拘束された被収容者の一部が解放されても、軍政の今も変わらないひどく暴力的な支配がから注目をそらすべきではない」とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア担当法律顧問のリンダ・ラクディールは述べた。「解放後すでに再逮捕された人もいる。軍政は著名な政治家を含めてクーデター以降不当に拘束された人を全員解放し、恣意的逮捕をいっさい止めるべきである」。
軍政は解放対象者や彼らの居場所の一覧は提供しなかった。10月19日現在、2月1日のクーデター以降の逮捕、訴追、解放を記録してきた国内の非政府団体である政治囚支援協会(AAPP)は14人のジャーナリストを含む189人の解放しか確認できていなかった。解放された中には収容中に拷問その他の虐待を受けたと報告した人もいる。
軍政の発表からは、当局がミャンマー刑法505条Aの「扇動」に基づく起訴を取り下げたことが示唆される。同規定は曖昧な新法で、クーデターや軍事政府に批判的な発言を罰するために軍政によって公布された。しかし、扇動罪で起訴された人の多くは他の罪でも起訴されており、それらの起訴事由に基づいて拘束され続ける可能性がある。
メイッティーラで解放された38人のうちNLD所属の国会議員を含む11人は解放後直ちに再逮捕され、ミャンマーの反テロリズム法の下で新たに起訴される可能性がある。当局は解放された全員に今後は反クーデター活動に参加しないという約束をさせているが、これは彼らの基本的権利を侵害している。国軍のスポークスマンは、再逮捕された者は誰でも、新たに科される刑に加えて元の刑の残りにも服すことになると警告した。
AAPPは、軍政は6月に2,000人以上の囚人を解放したと主張したが、372人の解放しか確認できなかったと報告した。
「当局の透明性の欠如と、解放された囚人の一部がすぐに再逮捕されたことは、すべての政治囚の解放を求める圧力をかけ続ける必要を強めた」とラクディールは述べた。「6月の囚人解放時と同様、実際に解放された囚人の数は発表された数よりもはるかに少ないことがわかる可能性がある」。
クーデターからの8カ月で軍政は9,000人以上を逮捕し、10月19日現在、7,100人以上が拘束されたままであるとAAPPは述べた。このほか2,000人近くが軍政の逮捕令状から逃れていることがわかっている。現在も拘束されている中には国民民主連盟(NLD)の事実上の指導者であるアウンサンスーチーや追放された大統領のウィンミンなどNLDの幹部、選挙で選ばれた国会議員、それに数十人のジャーナリストが含まれる。軍政が囚人解放を発表したその日、治安部隊は新たに24人を逮捕した。
クーデター以降、軍政は民間人に対して人道に対する罪に相当する広範で組織的な人権侵害を行っている。これには殺人、強制失踪、拷問、レイプその他の性的暴力、自由の重大な剥奪、その他の多大な苦難を引き起こす非人道的行為が含まれる。拘束された人の多くは、自分たちや他の被収容者が治安要員によって拷問その他の虐待を受けたと述べている。拷問には、殴打、銃を使った模擬処刑、タバコによるやけど、レイプ、レイプするとの脅迫が含まれる。治安部隊は少なくとも1,181人を殺しており、中には収容中に拷問死したらしい人も含まれる。
関係各国政府は、その大半がミャンマー国外の外国銀行に保管されている国軍の外貨収入源を断つために国軍や国軍指導部、また国軍の広範な商業活動に対しより強い経済制裁を科すべきである。国連安保理はミャンマーに対して国際的な武器禁輸措置をとるべきである。
「各国政府は、これらの解放を軍政による新たなアプローチの表われだと誤解するべきではない」とラクディールは述べた。「むしろ、今回の解放は軍政やその将軍たちに制裁を科すべきとの国際的圧力が増大する勢いを鈍らせるためのひねくれた措置であるように見える」。