(ニューヨーク)ベトナム当局は2020年より表現の自由及び集会への参加など市民の政治的権利に対する規制を強化したと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した『ワールドレポート2021』で述べた。
表現の自由に対する規制の強化は、2021年1月25日〜2月2日に予定されているベトナム共産党の党大会を念頭に置いた動きと見られる。昨年のベトナム政府は、政府に批判的な人びとや、民主主義や人権の促進を訴える団体に所属する人びとに対し、頻繁的に法的措置を講じてきた。当局は、過剰で曖昧な国家安全保障規定の下で、少なくとも28名を、「ベトナム社会主義共和国に反対するプロパガンダの実施」や「自由と民主主義への権利の濫用による、国益および個人と団体の合法的な権利と利益の侵害」などの行為を取ったとして、恣意的逮捕や不当に追放した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア地域政策提言部長ジョン・シフトン氏は、「ベトナムの人権状況は依然深刻だ」と述べる。「2020年中に警察は、政府に批判をした人びとや、表現の自由のもと、自らの意見を発信した数多くの人びとを拘束した。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチの第31回年次報告書「世界人権年鑑=ワールドレポート2021」(全761ページ)では、100カ国近くの人権状況を検証している。ヒューマン・ライツ・ウォッチのケネス・ロス代表は米国のバイデン次期政権に対し、今後人権保護に対するコミットメントに消極的な政権が現れても、簡単に取り消せない堅固な方法で、国内外の政策に人権尊重を組み込むべきだ、と本世界年鑑序文で指摘した。また、トランプ政権が人権保護をほぼ放棄した中でも、その他各国の政府が立ち上がり、人権を守る重要性を認識した。バイデン政権はこうした協働に取って代わるのではなく、各政府の連帯に参加するよう努める必要がある、と述べる。
また、ベトナム当局は、政府系ではない独立したウェブサイトへのアクセスを遮断し、ソーシャルメディア会社に対し、政府に批判的なアカウントや投稿、動画などを削除するよう圧力をかけた。
4月、ベトナム政府は米フェイスブック社(FB)のローカルキャッシュ・サーバーへのアクセスを制限した上で、反体制派が管理しているページを削除するよう要求した。フェイスブックは政府の圧力に屈し、ベトナム国内で対象ページへのアクセスを制限することに同意するという、憂慮すべき前例を作った。9月初旬、ベトナム情報通信省は、フェイスブックやユーチューブが「ベトナム法に違反した情報の遮断を通じて情報通信省と協力することに前向きである」と述べた。
更に警察は、元政治犯のトラン・ドゥック・タック(Tran Duc Thach)氏を、「民主主義のための同胞団(Brotherhood for Democracy)」と呼ばれる民主化を推進する団体に関与していたとして逮捕し、内乱罪の容疑で訴追した。12月に開かれた裁判では同氏に対し、禁固12年の有罪判決を言い渡した。
同年5月と6月、ベトナム独立ジャーナリスト協会会員のグエン・トゥオン・トゥイ(Nguyen Tuong Thuy)氏とレ・フユ・ミン・トゥアン(Le Huu Minh Tuan)氏が警察に拘束され、翌年1月にホーチミン市で開かれた裁判所でそれぞれ禁固11年の有罪判決を言い渡された。また同じ裁判では、協会創設者でブロガーのファム・チ・ズン(Pham Chi Dung)氏に禁固15年の有罪判決を言い渡された。
6月には、出版社Liberal Publishing Houseの寄稿者で元政治犯のカン・ティー・テウ(Can Thi Theu)氏と息子のチン・バ・フオン(Trinh Ba Phuong)氏とチン・バ・トゥ(Trinh Ba Tu)氏、また10月には、同出版社の共同創設者で著名な独立系ブロガーのファム・ドアン・ツアン(Pham Doan Trang)氏が拘束された。その後4人は刑法第117条の「国家に敵対するプロパガンダ行為」の罪で訴追された。
ヒューマン・ライツ・ウォッチアジア局長のシフトン氏は、「ベトナム政府は民主主義、独立メディア、そして自由を恐れている」と述べる。「ベトナムのドナー国や貿易相手国は最悪な人権侵害を起こしているベトナム政府に対し懸念を表明し、国際的な人権義務を果たすよう圧力をかける必要がある。」