虐待や予期しない妊娠など、何らかの理由で親と暮らせない子どもは全国で四万四千人余りに上る。こうした「社会的養護」下の子どもで、里親に預けられているのは約二割。実に約八割もの子どもが児童養護施設や乳児院で養育されている。
日本では施設での集団養育は常識になっているが、「家庭で育つ権利」は国連の子どもの権利条約が定める基本的人権だ。乳幼児期の愛着関係が脳の発達に影響するという専門家の指摘などを受け、国連も施設入所は最終手段との見解を示す。
日本政府も二〇一六年、児童福祉法を改正し、多くの先進国と同様に施設から養子縁組・里親へとかじを切った。さらに厚生労働省は、二四年度末までに三歳未満の里親委託率を75%以上とする目標も掲げた。施設で暮らす三歳未満の乳幼児は三千人程度。決して不可能な数字ではない。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は一一年から二年がかりで、全国の社会的養護下の子どもたちから話を聞いて現状を調査し、報告書をまとめた。十八歳で施設を出た後、孤独と生活苦を訴える若者たちにも多く出会った。
一六年の同法改正は多くの希望を生んだ。社会的養護全体が大きく変わる、そして子どもたちにもっと夢のある未来を提示できる、そんな期待が膨らんだのだ。しかし今月、その期待は見事に打ち砕かれた〈次週へ続く〉。
(HRW日本代表)