(バンコク)― カンボジア当局は野党指導者のケム・ソカ(Kem Sokha)氏に対する訴追をすべて取り下げ、直ちに釈放すべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。2018年8月22日にカンボジア最高裁判所は、解散させた主要野党、カンボジア救国党党首のソカ氏による保釈申請を検討する予定だ。氏は僻地のトボンクムン州に、11カ月間も虚構に基づく訴追で拘禁されている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長ブラッド・アダムズは、「野党の指導者ケム・ソカ氏は、カンボジアで野党を率いるという大胆さのために、もう1年近くも荒唐無稽な反逆罪に問われて投獄されている」と述べる。「カンボジアにおける民主的支配の終焉を憂慮する各国政府は、ケム・ソカ氏ほかすべての政治囚の即時釈放を要求すべきだ。」
フン・セン首相は2017年8月23日、救国党が「国家と国民に反逆[行為を]して[いる]」と非難する演説をした際に、この訴追を予言してみせた。9月3日に、フン・セン首相の私的警護隊隊員8人と警察官約100人が首都プノンペンにある自宅でソカ氏を逮捕。当局は犯罪が行われている最中の氏をおさえたと主張し、国民議会議員としての免責権を剥奪した。その証拠とされたのは、氏の2013年の講演をかなり編集した動画だった。捜査判事は、「外国人と共謀」 したとして、カンボジア刑法第443条のもと訴追。有罪となった場合、最高30年の懲役刑となる。
今年3月に最高裁は、ソカ氏の保釈申請を棄却する下級裁判所の決定を支持した。3月5日には下級裁判所が公判前勾留をさらに6カ月延長。その後も、もう一度6カ月間延長される可能性がある。
6月5日に発表された国連の意見書第9/2018号では、恣意的拘禁に関する作業部会が、ソカ氏の公判前勾留を「恣意的」かつ「政治的動機に基づく」ものと宣言し、カンボジア当局は即時かつ無条件に氏を釈放すべきだと述べた。
ソカ氏は深刻な健康上の問題に苦しんでいるが、トボンクムン州の刑務所当局は適切な医療処置を拒否している。拘禁によって悪化した健康問題は、高血圧や肩の激しい痛み、糖尿病など。弁護人の報告によると氏は現在、長時間立っているのが難しい状態だという。
刑務所当局は氏を孤立状態に置き、近親者や弁護人以外の訪問者も認めていない。国際的なオブザーバー、国連関係者、諸外国の外交官、市民社会団体の代表者が再三にわたってカンボジア訪問を要請しているが、政府はこれをすべて拒否している。また、カンボジアの人権に関する国連の専門家ローナ・スミス氏による訪問要請も拒否された。ソカ氏の弁護人は、拘禁施設で氏と接見する際は、常に関係書類をチェックされると訴えている。
「国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルール)」は、「無期限および長期にわたる独居拘禁」を禁じている。このような拘禁で拷問その他の残虐な、被人道的なもしくは品位を傷つける取扱いにあたるものは、カンボジアにも適用される国際法に抵触することになる。
アダムズ局長は、「ケム・ソカ氏をはじめとする政治囚に対する政府の処遇が、今年7月のごまかし選挙後、カンボジアの未来がどこに向かっているのかについて、洞察を与えてくれるだろう」と述べる。「EUや米国などの各国政府は、当該の件のほか政治的な動機に基づく事案に関して、自らの立場を断固としてフン・セン首相に知らしめる必要がある。」