報告書「あまりに遅い再検討:現代の文脈における焼夷兵器への対応」(全28ページ)は、シリア政府とロシア軍の2017年合同軍事作戦での焼夷兵器の使用について調査・検証したもの。 2017年11月22日〜24日にジュネーブで開催される国連軍縮会議の参加国に、特定通常兵器使用禁止制限条約の議定書IIIに対する再検討の開始が強く求められている。焼夷兵器を規制する当該議定書は、一般市民に被害が及んでいる現在進行形の使用を阻止できないでいるからだ。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの武器担当上級調査員ボニー・ドチャティは、「各国は古びた国際法の抜け穴をふさぎ、焼夷兵器の脅威に対応すべきだ」と述べる。「法律を強化すれば、一般市民に対する保護も強化される。」
ドチャティ調査員は11月20日午後1時15分に、国連欧州本部(ジュネーブ)の会議室XXIVで行われるサイドイベントにて本報告書の調査結果を発表する予定だ。
焼夷兵器は、可燃性物質の化学反応によって熱と火を発生させる。 マーキングおよびシグナリングのためや、マテリアルを燃やす、鉄板を貫く、煙幕を起こすなどの設計が可能だ。 この兵器は、ひどいやけどや変形・損傷、心理的外傷を引き起こし、民用物やインフラを破壊する火災の原因にもなる。
1980年条約の締約国が年次総会において、40年ぶりに議定書IIIに特化したセッションを持つ。この総会では完全自律可動型兵器、すなわち「キラーロボット」についても討議されることになっている。
こうした絶好の機会を捉えて、各国は焼夷兵器による被害と議定書Ⅲの妥当性について、活発な議論を行うべきだ。当該兵器の近時の使用を非難し、強化を見据えた同議定書の正式な見直しを支持、かつ踏み込んだ議論のための時間を2018年に確保する必要がある。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは2017年、シリアの5つの県でシリア政府軍又はロシア軍が行った焼夷兵器による22件の攻撃を調査・文書化した。2012年〜16年にも同様の攻撃を少なくとも68件、ならびに一般市民が深刻な被害にあった数ケースを調査・検証した。シリアは議定書IIIの締約国ではないが、ロシアは締約国だ。
近時では11月12日に、シリアのイドリブ県で撮られたとされる写真および動画、ならびに「シリア民間防衛隊」の現地メンバーからの報告が、空爆による焼夷兵器攻撃を示唆。なおこれらの攻撃について、ヒューマン・ライツ・ウォッチはまだ確認できていない。
シリアにおいて継続的に焼夷兵器が使用されている現実が、シリアを含む各国が議定書IIIに加盟し、人口密集地域における使用制限に従うことの必要性を示している。また、当該兵器のスティグマを高め、同議定書の締約国でなくても使用を思いとどまるような強力な規範が求められる。
議定書IIIには2つの大きな抜け穴がある。まず第1に、煙幕や照明弾用として主に使われる白リン系の多目的兵器が定義に含まれていない。実際はその他の焼夷兵器同様に、恐ろしい傷を負わせることが可能であるにもかかわらずだ。たとえば白リンは人間の皮膚を焼きながら骨まで達するため、治療から数日経った後でも、空気に触れて再び発火することがある。
2017年、米国主導の連合軍がイスラミックステートからシリアのラッカとイラクのモスルを奪還するために白リン弾を使用した。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、これらの攻撃による死傷者を確認できていないが、ニューヨークタイムズ紙が白リンの含まれる爆弾がインターネットカフェを直撃し、約20人が犠牲になったと報じている。
議定書の第2の抜け穴として、人口密集地域投下型焼夷兵器の使用を禁止しながら、特定の状況下で地上配備型の使用を認めていることが挙げられる。しかし、すべての焼夷兵器が同じ効果を持っていることから、恣意的な区別化は排除されてしかるべきだ。焼夷兵器の全面禁止がもたらすであろう人道上のメリットははかりしれない。
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本報告書を共同発表したハーバード大学法科大学院の国際人権クリニックで、武力紛争と民間保護部門のディレクター代理も務めるドチャティ上級調査員は、「焼夷兵器に関する既存の国際法は、米国のベトナム戦争と冷戦の妥協の産物だ」と指摘する。「しかし、政治的、軍事的景観は変わってきており、現在の問題を法に反映させるべき時が来ている。」