2017年3月24日、国連人権理事会は、委員3人からなるミャンマーに関する国連事実調査団の設置を決めました。同国の文民政権の指導者で国家顧問兼外務大臣を務めるアウンサンスーチー氏は、独立国際調査団の結成を国連が決めたことについて「現場でいま起きていることとの関係」がないと述べました。チョーティン外務副大臣は6月30日に国会で「各国大使館に国連事実調査団メンバーへのビザ発給を行わないよう命じるつもりである」と発言しています。国連事実調査団は、入国が認められない場合でも、国外で調査を行い、2018年3月までに報告書を作成する予定です。

なぜ国連人権理事会はミャンマーへの事実調査団を設置したのですか?

国連人権理事会が事実調査団の設置に関する決議を採択したのは、ミャンマー国内での深刻な人権侵害に関する近時の報告に対する懸念ゆえです。この3月の決議では、国連人権理事会は国連人権高等弁務官事務所が2017年2月に提出した報告書の内容に言及。同報告書には、ラカイン州北部でのロヒンギャ住民への犯罪は「体系的かつ広範なものと思われるものであり、人道に対する罪の可能性が非常に高いことが示唆される」と書かれています。2016年10月以降の一連の暴力的な弾圧のなかで、ビルマ政府治安部隊は、ロヒンギャ居住地区にほぼ限って少なくとも1,500棟の建物を破壊し、数十人の女性にレイプなどの性的暴行を行ったほか、超法規的処刑も行いました。ヒューマン・ライツ・ウォッチは建造物への放火による破壊状況を示す衛星画像を公開しています。ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、隣国バングラデシュに逃れたロヒンギャに調査を行い、ビルマ治安部隊が住民に行っているさまざまな人権侵害行為を明らかにしてきました。

人権理事会は何を事実調査団に要請しましたか?

人権理事会は3人からなる調査団に対し、ミャンマー国内での国軍や治安部隊によるとされる最近の人権侵害行為などについて事実と現状を確認するよう命じています。調査団は「とりわけ」ラカイン州の状況に焦点を当てるよう求められています。しかし全体として、事実調査団は広いマンデートを与えられています。国軍や治安部隊の一員か、非国家武装組織の一員かを問わず、その実行者がミャンマー国内の人びとの人権を侵害している状況について、「最近」のあらゆる訴えを調査する権限があります。

何カ国が事実調査団設置に賛成したのですか?

人権理事会決議は欧州連合(EU)が起草した後、43カ国が共同提案者に加わり、幅広い支持を集めました。人権理事会を構成する47カ国全体が協議する場で、反対する国はありませんでした。この措置に広範な合意が存在していることを認めた理事会は、無投票で決議を採択しました。ミャンマーと複数の国(フィリピン、インド、中国、ベネズエラ)は決議には加わりませんでした。日本政府は事実調査団の設置を支持しませんでしたが、決議がコンセンサスで採択されたことは歓迎し、ミャンマーがこの合意に加わらなかったことに遺憾の意を表しました。ミャンマーが決議に加わらなかったからといって、今回の理事会決議を尊重せず、事実調査団に協力しなくてもよいことにはなりません。

なぜ国際調査が必要なのですか?

国家治安部隊が行ったとされる犯罪についての国内外の調査は、とくにラカイン州での近時の治安部隊の行動を踏まえれば、信頼性と独立性、厳密さを欠くものとなるでしょう。ヒューマン・ライツ・ウォッチなどの団体は、ミャンマー副大統領と国軍が主導してきた調査の問題点を指摘しています。たとえば調査方法のいい加減さ、日和見的な指揮のあり方、国内調査担当者がもつ偏見、治安部隊がアカウンタビリティを逃れてきた歴史、人権侵害をもみ消そうとする傾向などです。

国内調査は真相究明に役立っていますか?

最近の政府による調査は信頼性を欠くだけでなく、重大犯罪の被害者と目撃者を危険な状態に置くものでした。ビルマ国軍は自軍の部隊が行ったとされる犯罪に関する調査結果を公表しましたが、重大な人権侵害を示す第三者からの大量の証拠を無視しています。焼き討ちに遭った村の衛星写真、レイプや拷問に関する現場での証言などです。国軍の結論は、証拠を発見できたのはオートバイ窃盗1件と村人数人の殴打だけというものでした。

これ以外の政府による調査組織として、ミンスウェ第一副首相による委員会がありますが、2017年1月に中間報告を発表したきりです。この「ミンスウェ委員会」の手法は、不完全かつ不正確で、誤った情報を生み出すものでした。ビルマ人調査官は住民を問い詰め、証言の内容に反論し、黙れと命令し、嘘つき呼ばわりもしました。そして秘匿性が保証されていない大人数の場で、レイプのサバイバーを含む被害者への聞き取りを行ったのです。ミャンマーの人権状況に関する国連特別報告者の李亮喜氏は国連人権理事会宛の報告書で、ミンスウェ委員会の手法に懸念を表明し、ビルマ政府が人権侵害調査に必要な義務を果たしていないと指摘しました。委員会にはいま述べた以上の結論を出しておらず、最終報告書はいまだ発表されていません。

ミャンマー政府の国家顧問で実質的指導者のアウンサンスーチー氏は「情報委員会」を設置しました。しかし委員会はロヒンギャ住民を性暴力に関する証言をねつ造していると公式の場で非難し、外国人ジャーナリストやヒューマン・ライツ・ウォッチに報告されたレイプの訴えに対し、「ねつ造されたレイプ」の事案とのレッテルを貼りました。

元国連事務総長コフィ・アナン氏が代表を務める「ラカイン委員会」があるわけですが、それに加えて国際的な事実調査団がなお必要なのでしょうか。

国際的な調査は「ラカイン委員会」を補完するものであり、アカウンタビリティの実現にきわめて重要です。ビルマ政府は1年前に設置されたラカイン委員会を挙げ、国連主導の調査はいらないと主張しますが、そんなことはありません。この「アナン委員会」について尋ねられたとき、アウンサンスーチー氏の報道官はメディアにこう述べました。「この委員会は私たちにとって盾のようなはたらきをしています。コフィ・アナン委員会がなければ、一連の訴えはもっとひどいものになっていたでしょう。」 ラカイン委員会のマンデートはラカイン州の紛争の根本原因を明らかにすることです。人権侵害を調査するマンデートは与えられていませんし、委員会が法による正義やアカウンタビリティに関する問いを扱うこともありません。さらに、事実調査団はラカイン州を越えて活動したり、国内のそれ以外の地域、たとえば紛争が広がるシャン州やカチン州での人権侵害を扱ったりするマンデートを与えられています。

事実調査団は政府部隊による人権侵害の訴えだけを調査することになるのでしょうか?

事実調査団には広範なマンデートが与えられており、政府部隊の人権侵害だけに限られてはいません。人権理事会決議は調査団に対し、国軍と政府治安部隊による国際法違反事案を特に検討するよう要請していますが、同時に最近の人権侵害の訴えをより広い範囲で調査するようにも求めています。これは非国家武装組織や民間セクターである企業なども含まれることになります。

事実調査団はラカイン州の状況だけを調査するのでしょうか?

事実調査団のマンデートはラカイン州に限られたものではありません。したがって、決議が直接調査団に対してラカイン州の状況を「とくに」検討するよう指示しているものの、それと同時に、全国での人権侵害に関する「最近」の報告をすべて検討するようマンデートを与えられています。調査団を構成する3人の専門家はまた、シャン州とカチン州で政府治安部隊が行った人権侵害だけでなく、これらの地域で非国家武装組織が最近行った人権侵害も検討しなければなりません。また事実調査団の対象は、国内の紛争地域に留まらないので、それ以外の懸念事項についても調査できます。

事実調査団を構成する3人の専門家とは誰ですか?

人権理事会議長の任命によれば、事実調査団はインドネシアの人権専門家マルズキ・ダルスマン(Marzuki Darusman)氏が団長を務め、スリランカの人権弁護士で元・子どもと武力紛争に関する国連事務総長特別報告者のラディカ・クマラスワミ氏、オーストラリアの人権弁護士クリストファー・シドティー氏が委員となります。

事実調査団はいつ作業を開始し、調査結果をいつ報告する予定なのですか?

事実調査団は2017年8月に作業を開始する予定です。2017年9月の人権理事会第36会期でその結果に関するアップデートを口頭で報告した後、調査結果を2018年3月の第37会期で完全な形で発表する予定です。

ミャンマー政府は公式に国連専門家チームへのビザ発給を拒んだのですか?

ミャンマー政府はビザ発給を行わないとほのめかしていますが、今のところ行動に移してはいません。アウンサンスーチー氏はブリュッセルとストックホルムを最近訪れた際、事実調査団に反対する立場を鮮明にしました。チョーティン外務副大臣は6月30日に「各国のミャンマー大使館に国連事実調査団メンバーへのビザ発給を行わないよう命じるつもりである」と発言しています。またチョーゼーヤ外務次官はロイター通信に対し「もし事実調査団に関わる人間が派遣されたら、その者の入国を認める理由は私たちの側にはない」と答えました。さらに調査団メンバーにも支援要員にもビザ発給のつもりはないとも述べています。

7月、ミャンマーの人権状況に関する国連特別報告者の李亮喜氏は、ミャンマー政府から、氏がミャンマーで「任務を行っている間、事実調査団と関わるだろういかなる行動も取らない」と確約することを求められたと報告しています。李特使はこの要求を「特別報告者としての私のマンデートの独立性への侮辱」と形容しました。

文民政権ではなく、ミャンマー国軍が報告のあった人権侵害行為の大半を行ったのでしょうか?

ミャンマーが国際人権法と国際人道法に基づく義務を果たすことについて、その最終的な責任は政府全体にあります。たとえ人権侵害が、国軍や国家治安部隊に属する者によって行われた場合であってもです。これは軍と文民指導者、そして国会議員に関して憲法が定める、権限の分割に関わらず当てはまることです。政府の義務には、事実調査団を同国に派遣する人権理事会決議の履行を促すことも含まれています。

ビルマ政府は国内において、国連の人権に関する取り組みと協力してきているのでしょうか?

政府は、国連人権理事会のマンデートを受けたミャンマーの人権状況に関する国連特別報告者の李亮喜氏におおむね協力してきました。李氏は2017年7月10日から21日まで現地を訪れ、6回目の情報収集を行っています。紛争の生じているラカイン、シャン、カチン各州を訪れましたが、シャン州の一部に立ち入ることは認められませんでした。李氏は、6回目の訪問で面会した人びとが「依然として脅迫を受けている。たとえば写真に撮られた、会合前と後に取り調べを受けたほか、あるケースでは尾行された」と指摘しています。李氏はさらに、事実調査団と関わるいかなる活動も行わないことを確約するよう政府から求められたことは「特別報告者としての〔自分の〕マンデートの独立性への侮辱」であると述べました。

李氏が2017年7月の訪問後に提出した報告書を受けて、アウンサンスーチー氏が長である国家顧問事務局は声明を、ミャンマー下院は宣言をそれぞれ発表し、調査結果を退けています。

多くの国連機関が国内で活動を許され、人道援助の配布や開発事業の実施支援を行っています。しかし現政権は国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の国内事務所設置を認めていません。OHCHRはミャンマーへのアクセスが制限されているため、今年前半にバングラデシュに調査団を送り、ラカイン州から逃れてきた難民についての情報収集を行いました。

国連の国際調査を完全に拒んだ国はありますか?

いわゆる少数の「のけ者国家」(とくにシリア、エリトリア、北朝鮮、ブルンジ)だけです。こうした国々は、国連調査団の自国へのアクセスをまったく認めていません。当初は反対していたスリランカや南スーダン、コンゴ民主共和国などは、最終的には人権理事会が設置した今回のような調査を受け入れてきました。もし民主的に選ばれたミャンマーの現政権が、国際調査を拒んでいる人権否定国家の同類とされたくないのであれば、方針を変更すべきです。もし入国が認められなくても、事実調査団は、直接証人に会わずに証言を集う遠隔地調査手法を用いるかたちで調査を行うことができるでしょう。シリア、エリトリア、北朝鮮、ブルンジで国際調査団の入国が拒否されたとき、実際このような方法がとられました。国際労働機関(ILO)調査委員会が、強制労働を扱ったILO29号条約に関するミャンマー政府の違反状況について1998年に報告書を発表しており、軍事政権はこれを認めませんでしたが、この報告書はILOが入国が一切認められなかったにもかかわらず、現在に至るまで、ミャンマーの人権状況に関するきわめて詳細かつ包括的な報告書の位置を占めています。

ミャンマーの民政移管はきわめて敏感な問題であるため、法による正義やアカウンタビリティを今の時点で強く求めるべきではないのでしょうか?

国軍は長期にわたり、軍による広範かつ重大な人権侵害について一切のアカウンタビリティを拒んできました。この問題への取り組みができていないために、国内の人権侵害が終わらないのです。ヒューマン・ライツ・ウォッチは世界各地の紛争地域に関する報告書を長年発表していますが、法による正義の実現は、持続的平和の達成に短期と長期の両面で貢献する可能性のあることが示されています。人権侵害と不処罰を放置しておくことは、しばしば紛争終結にとって乗り越えられない障害となります。対照的に、リベリアやボスニア・ヘルツェゴビナで今回ときわめて似たマンデートをもつ国際調査委員会が活動した際、これらの国の平和構築に対して長期的にプラスの影響がもたらされました。

ミャンマーは事実調査団の入国を許すことになるのでしょうか?

国連報道官は6月下旬にメディアに対し、事実調査団の活動に対し「政府が、影響地域への自由なアクセスを認めるなどの支援をする」ことを今なお期待していると述べています。また調査団のメンバー3人が入国実現にむけて「政府に連絡をとり、建設的に関わる」よう努力するだろうと付け加えました。願わくば、ミャンマー政府が事実調査団への協力が自らの利益になることを認識してほしいです。それによって政府が、法の統治を維持し、事実確定のために国際社会と協働し、重大犯罪の実行者を特定することを支持し、ミャンマーの武力紛争の全当事者による今後の犯罪行為を防ぐ意志を示すことができます。