(ワシントンDC) - 米国務省は2017年4月3日、国連人口基金(UNFPA)への資金拠出の停止を決定した。この決定により、世界でもっとも弱い立場にある女性や少女のため欠かせない保健医療および保護サービスが危機に瀕することになると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。米国は同機関最大のドナー国のひとつで年間6,900万米ドルを拠出しており、同機関の通常資金および緊急人道支援のために世界各地に分配されている。
今回の国務省の決定は、1985年に制定されたKemp-Kasten 改正法に基づく。強制的な人工妊娠中絶または望まない不妊手術に関与していると米政府が判断した、あらゆる団体に対する米国の海外援助を禁ずるものだ。トランプ政権は、国連人口基金の中国における活動に言及し、中国の制限的なリプロダクティブヘルス政策に対する懸念を示した。国務省は、同基金が強制的中絶または望まない不妊手術を支持したり、直接支援したという証拠は示していない。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ女性の権利担当のアマンダ・クラシング上級調査員は、「国連人口基金は、予防可能な妊産婦の死亡や女性器切除、児童婚などの問題に取り組み、世界中の女性を取り巻く厳しい状況を打破するためリーダーシップを発揮してきた」と指摘する。「トランプ政権は、女性の命を奪う結果をまねく決定を下した。」
ブッシュ政権は2002年、独立査定チームを派遣し、国連人口基金が強制的な政策を支持する証拠があるかないかを調査。 結論は、「我々が見聞し、かつ読んだことに基づき、国連人口基金が中華人民共和国の強制的な中絶プログラム、または望まない不妊手術プログラムの運営を意図的に支援、またはそれに加担しているという証拠は見つからなかった。それどころか、同基金はそのやり方に強い反対を示している」というものだった。
この調査結果にもかかわらず、コリン・パウエル国務長官(当時)は、国連人口基金が中国政府と協力して中国国内での活動を継続していることを理由に、拠出額を削減した。
2002年の決定とは異なり、トム・シャノン国務次官が発表した新たな決定が、独立調査や法律解釈の分析、または国連人口基金の人権侵害への加担を示す証拠に基づいているようには見受けられない。代わりに国務省は、「国連人口基金が中国で強制的な中絶や望まない不妊手術に直接関与しているという証拠はないが、家族計画をめぐり中国の国家衛生計画生育委員会と連携を続けており、その結果中国の強制的な政策執行を支援、あるいはそれの一翼を担っている可能性がある[後略]」と主張している。現在も米政府は、国連人口基金が中国に1米ドル費やすごとに、拠出額を1米ドル割り引いている。しかし、米国の資金拠出を全面的に停止することは、中国のみならず全世界の女性に影響を及ぼすことになる。
国連人口基金は世界150カ国以上で活動する国連機関であり、女性器切除および児童婚の廃絶や、予防可能な妊産婦の死亡の技術支援を通じた削減、熟練した助産師の育成、自発的な家族計画の促進といったプログラムを支援している。また、人道上の緊急事態が起きた際の性と生殖に関する保健医療サービスも支援し、ジェンダーに基づく暴力の阻止・対応も行っている。
国連人口基金は、中国政府との共謀の疑いに対し、いかなる種類の強制・出生制限も世界のいかなる国でも推進しておらず、全プログラムが米国政府もメンバーである理事会によって審査・監督されていると反論した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチはこれまでも世界各地で、リプロダクティブ(性と生殖)の権利を制限するあらゆる法律や政策と闘ってきた。中国政府に関しても、数々の制限や強制的なリプロダクティブヘルス政策とその事態について、長らく懸念を表明し続けている。
クラシング上級調査員は、「国連人口基金は世界各地で、女性のリプロダクティブヘルスと関連医療サービスをめぐる人権尊重アプローチにコミットしている」と述べる。「資金拠出の停止は、女性が緊急に必要としているケアを受けたり、自分自身の選択に関する情報を受け取る、またはそれを実現するために欠かせないリソースを台無しにしてしまう。」