(サウスダコタ州スーフォールズ)― 近年、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)の権利をめぐる状況が大きく改善したものの、全米の多くの学校は依然、LGBTの生徒にとり厳しい環境であると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で述べた。生徒の安全とインクルージョンを推進する方策が政府のあらゆるレベルで緊急に必要だ。

今回の報告書『「罵詈雑言の嵐を進むよう」:米国の学校でのLGBT生徒への差別』(全103頁)では、LGBT生徒が直面する幅広い問題を明らかにしている。いじめ、ハラスメント、学校の授業やリソースからのLGBT関連事項の排除、LGBT生徒サークルへの規制、他の生徒と教職員からの性的指向と性自認に基づく差別や偏見などだ。

「米国にはLGBTの子どもに敵対的な環境である学校が実に多い。問題は、適切なトイレや更衣室を使えないことにとどまらない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ LGBTの権利プログラム・フェローのライアン・ソレソンは述べた。「訪れたすべての州で、侮辱のほかネットでのいじめや攻撃を受けた、教員が差別やハラスメントを当然のこととして黙認したという話を聞いた。」

 

Many schools across the United States remain hostile environments for LGBT students despite significant progress on LGBT rights in recent years. 

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、アラバマ、ペンシルベニア、サウスダコタ、テキサス、ユタの各州で、350人以上の児童生徒と、145人の親、教師、学校関係者およびサービス提供者を対象に、詳細な聞き取りと意見交換を行った。対象となった5州すべてにおいて、LGBTの若者を明示的に保護するいじめ禁止法または差別禁止法は存在していない。アラバマ、テキサス、ユタの3州は法律で、授業やカリキュラムにLGBT関連の議論を盛り込む学校側の裁量を意図的に制限している。LGBTの生徒は、こうした法律が学校の有害な方針とたびたび組み合わされることで、自分たちはハラスメントや暴力に晒されており、情報へのアクセスや表現の自由が制限され、差別的な取扱いの対象とされると語った。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは身体的暴力、性的暴行、言葉によるハラスメント、ネット上のいじめ、排除など、LGBTいじめの様々な形態を分析した。教師がいじめを放置する場合が多いが、教師がハラスメントに加わった事例も複数あった。

アラバマ州のバイセクシュアル女性ビアンカ・Lさん(16)は語る。「高校1年生のときの生物の先生は、短パンや一風変わったセーターを着ている生徒によくこう言っていました。『そんな服は脱ぎなさい。ゲイに見える』と。しかもそれをクラス全員の前で言うのです。」 報告書に登場する生徒の名前はプライバシー保護のために変更してある。

Witness: A Teacher Unable to Protect LGBT Students

Witness: A Teacher Unable to Protect LGBT Students

Fear prevented Ellen A from being a good teacher, and from being herself, until her state passed a bill protecting her and other transgender people from discrimination at work.

Read her story.

多くの学校での差別的な方針や実践により、生徒の「排除された」という印象はいや増す。ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査により、教員は自らがLGBTであると表明したり、LGBTの生徒を支援することが自分の雇用に悪影響を及ぼすのではないかという恐れを抱かざるを得ない状況があることが分かった。同性カップルは行事にカップルとして参加することが禁じられたり、参加を思いとどまらせられたりしている。トランスジェンダーの生徒は、性自認が理由で、設備を利用したり、クラスや課外活動に参加することを拒否されている。

LGBTの人びとやLGBTに関する話題が、公でますます目につくようになっているものの、多くの学校ではLGBTに関する議論が検閲されている。米国では8州で、学校でLGBTを話題にすることが規制の対象だ。その他の州の学校区でも独自の規制がかかっている場合がある。こうした法律や方針は生徒に対し、LGBTであることは正常ではなかったり、間違ったことである、との強いメッセージを送るものである。

ペンシルベニア州のアンジェラ・Tさん(17)は「中学生の時でした。同性関係について質問したら、まったく取り合ってもらえず、職員に横に連れて行かれ、そんなことを話してはいけないと言われました」と振り返る。

多くの学校で、生徒はゲイ・ストレート・アライアンス(GSA)などの支援組織を結成し、敵意のあらわな環境に立ち向かっている。しかしヒューマン・ライツ・ウォッチの調査によれば、こうした団体を立ち上げたり運営することには、連邦法で明確に守られているにも関わらず、大きな壁が立ちはだかっている。妨害されたり、世話役の教員を見つけられない、他の生徒組織と同じルールでの運営を禁じられるなどの抵抗にあった経験が、生徒の口から語られた。

「GSAのドアはよくドンドン叩かれるし、私たちをからかうための入会もしょっちゅうでした。ポスターを貼れば落書きされ、破られました。学校に苦情を申し立てても、なしのつぶてでした」と、テキサスのトランスジェンダー少年イーサン・Bさん(16)は述べた。

今回の報告書で調査した5つの州のアドボカシー団体は、家族やクラスメイトの拒否にあうことで生徒は居場所を失うと強調した。「私たちのコミュニティにいるLGBTの若者の大半が悪口を言われたり、からかわれたり、身体的な攻撃を加えられることもあります。これが若者が孤立感を抱く原因です」と、スーフォールズの平等センターのダニエル・ウィルコックス理事は述べた。「私たちが若者向けプログラムを実施するなかで、支えとなるコミュニティがあり、リソースへのアクセスがあると、とても大きな影響があることが分かりました。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査結果は、全米の国会議員が来年に向け、学校をより安全かつインクルーシブな場所にするよう努力することの重要性をはっきりと示している。2016年のデニス・デュガード サウスダコタ州知事の行動は前向きな例だ。州全体でトランスジェンダーの生徒のトイレと更衣室の利用を制限する法案に拒否権を行使したのである。

Josh Greer, a student who has been the target of bullying and discrimination in school, writes in his journal in his bedroom in Cache Country, UT, October 2016.

© 2016 Mariam Dwedar for Human Rights Watch

「一握りの議員によってこの法案が提出されたときにも、この州に差別の余地はありませんでした。そしてこれからもそのような差別の余地はありません」と、アメリカ自由人権協会(ACLU)サウスダコタのポリシー・ディレクターのリビー・スカリン氏は述べた。「サウスダコタ州の、そして州外の政治指導者たちは、知事の例にならい、すでに弱い立場におかれているトランスジェンダーの生徒を、いじめやハラスメント、差別の標的として目立たせるようなやり方を退けなければなりません。」

政府は連邦、州、地方の各レベルで、学校での安全、健全さ、教育へのアクセスを向上させる措置をとる義務がある、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。各州はLGBTの若者へのいじめ対策を明確な目的とする法律を成立させ、教員がLGBTについて論じることを制限する差別的な法律を廃止し、LGBTの教師の雇用に関する保護策を講じるべきだ。地方学区のレベルでは、政策見直しを通じたいじめと差別の防止とともに、LGBTの生徒へのリソースと支援の提供、そしてすべての子どもが包摂されていると感じた上で、学ぶことができる環境の醸成が求められる。

「若者を守ることに党派の争いはない。メラニア・トランプ氏がネット上のいじめ対策を公約したことはその一例だ」と、前出のソレソンは述べた。「これから数ヶ月の間に、ベッツィー・デヴォス新教育長官を含めた新政権が、LGBTの子どもたちが他の子どもたちと変わるところなく教育を受け、学校で得られるべき支援を受けられるよう保障するため、重要な行動を起こすことを期待している。」